目次
会長就任のご挨拶
今こそALL日本でAI創発を起こそう
栗原 聡
(慶應義塾大学)
津本周作会長から後任の会長という重たいバトンを受け取ることになりました.第20代という区切りの良いタイミングにて学会の運営に携わることになり,これまでの歴代会長のアクティビティを上回る動きをしないと多方面から叱咤されそうな雰囲気にて気を引き締めつつも,理事・会員の皆様と学会を盛り上げ,社会を巻き込んでの日本ならではの人とAIが共生する社会の実現を目指したいと思います.
テクノロジーは新たな技術の積み重ねでその性能を向上させてきました.しかし,ChatGPTの成功は,新たな技術の登場が生み出したというよりは,スケールしたデータや計算リソースを投入したことによる「質の変化」がもたらしたものであり,今後のAIの発展における大きな転換点となる出来事であったと思います.人が設計し,設計どおりに動作させることを目指す従来のIT技術と異なり,大量のデータによる学習にて構築されるタイプのAIでは,人が設計するのは,大量のデータから意図する動作をするモデルをつくり出す部分です.旨い酒をつくるには,その製法に加えて良質の米が必要であり,ユーザが堪能するのは酒のほうです.AIにおいては,良質のモデルという旨い酒をつくるために,大量のデータである米と,米を酒にするための大がかりな醸造施設という計算リソースが必要になるわけです.しかし,巨大なモデルを構築することは,日本では残念ながら難しいのが現状です.経済安全保障の観点からも国産の巨大モデルを自前で整備する必要があることは皆が認識しているはずです.では,どうすればよいのか? これを打破するヒントが,スケールすることでの質の変化にあると思うわけです.
小粒であってもそれが多数連携することで「創発」という質の変化を起こせるかもしれない!そして,日本社会はドラえもんやアトムといった高い自律性や汎用性をもつAIが社会に溶け込むことについての高い包容力があります.これは今後のAI研究開発においての武器になります.欧米は人のように自ら考えるAIについては総じてポジティブではありません.その証拠としての,Microsoftや OpenAIが日本に研究開発拠点を置こうとし,そしてsakana.aiが日本で起業するといった動きなのだと思います.今後の次世代AIの研究開発とその社会実装において,実は日本が絶好の実証実験の場としての魅力があるのだとしたら,このチャンスをうまく日本が活用できなければ意味がありません.日本の地で新しいAIが生み出されるかもしれないというのに,それに関わる研究チームに日本人がいないというのは悲しい限りです.そこで,野心的な AI研究開発をしっかり進める基盤を,今さらですが整備する必要があると思うわけです.
そのために,本学会としてもAIに関わる教育活動に対してこれまで以上に注力する計画です.そして,いよいよ2年後には本学会が設立されてから40年という節目を迎えます.第三次AIブームは収まるどころか,生成AIの登場でさらに加熱しつつありますが,それは米国のたかだか数社の巨大AI企業によるものであり,実質的に世界は彼らに動かされているだけの状態です.日本ならではのAIの実現を目指して,今こそ結集し,大きな創発を起こすべく動こうではありませんか.そのための潤滑油として本学会もアクティブに動きたいと思います.
また,安心して研究開発を推進するためにも,AI研究開発や利活用に対するガイドラインの策定は重要です.EUなどに比べ,日本はAI規制が手ぬるいといった声もありますが,筆者としては全く逆で,ブレーキを踏みたい EUと,最先端を走る米国を見つつ,したたかにAI研究開発を進めたい日本として入念に考えられたガイドライン策定のための議論がされていると思います.本学会にも倫理委員会が早期に設立されており,AIをつくる側の立場から適宜自分達の考えを発表しております.
人工知能学会というコミュニティも,現在はお陰様で大いに盛り上がっておりますが,何もしなければ徐々に鮮度が落ちてしまいます.常に多様性を維持しつつ動き続けることで成長することができます.筆者の任期の2年の間に,可能な限り学会のアクティブな活動に資する動きができればと思いますが,そもそも一人でできることには限界があります.理事そして会員の皆様,社会とのネットワークを大切にしつつ前進できたらと思います.そして,AI研究開発に関わる人々によるコミュニティとしての従来の学会から,一般社会をも取り込み,社会に浸透していくAIと関わる多くの人々の情報交換の場としての学会へのアップグレードを目指したいと思います.
編集委員長のご挨拶
人工知能への解像度を高める場としての論文誌・学会誌
論文誌編集委員長 大澤 博隆
(慶應義塾大学)
どうにも難しい時代に編集委員長になってしまった.巷ではChatGPT-4oが話題になっている昨今である.社会における人工知能技術の実装が,いよいよ実用段階に入ったと考えられる.もちろん,AIに対する巷の「プロ驚き屋」のように,普及した段階で目に触れるようになった技術を,さも新しい技術が登場したかのように喧伝するつもりはない(それはこれまで地道に研究を進めてきた人に失礼である).一方で,技術が人々に普及したときの「使いこなされ方」,人々の情報交換による問題解決の素早さについては,たとえ技術動向を知っていても,率直に常に驚かされる.
研究環境的には,激変の時代になるだろう.これまでは限りある我々の知能という資源を合理的に生かすため,人類の間で知識を共有し,オープンにすることが合理的であるという流れがあった.集合知による解決や,オープンデータの基本方針は,そうした環境を前提としてきたと考えられる.今後は,ある程度の知能(と呼称されるもの)が普及し,コモディティ化すると考えられる.そうした中では,例えば,知識に対する価値が相対的に向上するかもしれない.知能の点で他者との差別化が図れないのであれば,企業は知識の点で差別化するしかないだろう.複数のSNSプラットフォームは,すでに検索やデータの利用法に強い制約をかけつつある.
その中で本学会や,本学会の論文誌や学会誌が何を目指すべきか,は,今まで以上に重要な課題になってきたと感じる.何しろ,そもそも研究をするのに研究者は必要なのか? という点から議論される段階にあるからだ.個人的な目算では,人工知能に関する議論の場として,人間の運営する学会は引き続き必要になると考えている.より正確に言えば,人工知能に関する議論の解像度が,より広範囲の人々が必要とするレベルになったと感じる.例えば,これまで,人工知能における「知能」とは何か,人工知能という分野はそもそも何を研究する分野であるべきか,ということは,根源的な問いでありつつ,どちらかといえば研究者どうしの研究方針の問題であった.そういう長期的視野を意識してもよいが,意識しなくても,目前の課題を最適化問題と捉えてやっていけば,何となく研究を続けられる牧歌的な時代がかつてあった.
が,今や「人工知能とは何か」,「人工知能研究はどこを目指すべきか」という議論は,一般社会の人も関わるべき喫緊の課題となった.つまりこれは,私達が行っている「知能」という問題解決プロセスのうち,どこが代替可能で,どこが代替可能でないかという問題であり,私達の研究の方向性が個々人の生きる動機に関わり,ひいては人類の生存にも影響するような状況である.こうした人工知能に対する広範な議論を,コミュニティ内およびコミュニティ外の双方にもたらす場であることが,論文誌や学会誌にとって,引き続き求められる役割のように思われる.
人工知能研究への一挙手一投足に対する外部の見る目は厳しく,かといって,マネジメントのためのリソースが十全にあるという状況でもない.なんとも,難しい時代だ.
とはいえ,筆者個人は,未来についてはそこそこ楽観的である.
筆者個人はインタラクションの,つまり相互作用の研究者であり,問題解決に対する知的な処理の本質は相互作用にあると考える.「相互作用により問題を発見すること」こそが知的な機能であり,何が問題か言語化できれば,あとは自動処理に任せればよい.わかっていないことをわかるようにするプロセス,それは学問であり,人工知能が中心的な役割を担う分野であると思う.というわけで,現時点で何が起きるか正直全然予想がつかないことが多いが,たとえ目算が立っていないことでも,何となく考え続け,周りと相互作用を続ければ,答えが出るだろう,という期待はある.論文誌や学会誌は,そうした出合いの場としてこれからも機能するだろうし,そこに対する外部の期待は極めて大きいことは,相互作用を得る点では利点だろう.少なくとも,ここ数年をかけて,そういう仕掛けが回りやすい環境が編集委員会内で整えられてきたことは間違いない.鳥海不二夫前編集委員長が多大な労力をかけて整備した論文誌の査読システムや,論文誌と学会誌に関わる編集委員会の分離など.また,2014年に一般向けに舵を切ってからの学会誌のさまざまな社会へのアウトリーチ活動も,ここに含まれるだろう.「今しか見らんない景色」は楽しみたい.
今年度からは,本学会は論文誌と学会誌に分かれて運営を行うことになった.この点でもまた,相互作用の場が増えていると思う.学会誌編集委員長の三宅陽一郎先生,副編集長の狩野芳伸先生,馬場雪乃先生,そして編集委員,学生編集委員や事務局の人々と一緒に,人工知能研究に対する議論をうまく活性化し,人工知能への解像度を上げる役割を担っていければ,と思う.というわけで,本年度もよろしくお願いいたします.投稿してね.
学会誌編集委員長 三宅 陽一郎
((株)スクウェア・エニックス)
この度,鳥海不二夫先生から,本学会誌『人工知能』の編集委員長のバトンを受け取ることになりました三宅です.よろしくお願いいたします.学会誌と付けましたが,本年度より本学会として学会誌と論文誌の編集委員会を独立に行う,という方針となり,論文誌の編集委員長には大澤博隆先生がご就任されます.大澤先生と連携しつつ学会員の皆様,一般の皆様に役立つ学会誌にしていきたいと考えております.
私が本学会に入会したのは2003年のことでした.新潟の朱鷺メッセで行われた大会に学生として参加発表するためでした.その頃,人工知能という分野は,80年代の第二次人工知能ブームと,現在の第三次人工知能ブームのちょうど谷間にありました.新潟の空は曇っていて,小雨さえ降り注いでいましたが,メッセの中は今よりずっと小規模でありながらも,活気がありました.ブームであろうとなかろうと,日本の人工知能分野の研究をつないで来た先達には尊敬しかございません.それから2004年にゲーム産業に就職した私にとって,本誌は私とアカデミズムをつなぐ唯一の絆でした.学会誌が届く度に,私の専門であるディジタルゲームAIはまだ成熟していない,一定の成果が出せたらぜひ寄稿したい,とずっと考えておりました.それが叶ったのは2008年23巻1号のことで,それ以来,現在に至るまで継続的に寄稿してまいりました.そして,その寄稿への反応から始まった交流は,私にとってかけがえのないものになりました.また,2016年からは編集委員会委員として,歴代の編集委員長である栗原聡先生,山川宏先生,市瀬龍太郎先生,清田陽司先生,鳥海不二夫先生のもと参加させていただきました.表紙と書評が主な私のフィールドでした.これまで学会における活動はたくさんの素晴らしい方々と私とめぐり合わせてくれた大切な場でした.これからも,そういう場であり続けたいと思います.
本学会誌『人工知能』は大会,合同研究会と並んで,人工知能を研究しようとする人々,そして興味をもっている方々を結ぶ絆の場です.誌面を通じてさまざまな方々の活動を知り,読者自身の活動の全体の中の位置,そしてユニークさを感じることができる場です.学会誌の1ページ1ページには編集委員やご寄稿いただく方々の思いが込められており,またその先にお届けする何千という学会員の皆様に役立つことを意識して書かれています.また学会誌は全国の書店やオンライン書店で販売され,また電子書籍としてもリリースされています.学会誌は学会と社会を結ぶ実にユニークな立ち位置にあります.このような学会誌は他の学会を見渡してもほとんどありません.まさに人工知能が社会に強く求められている現在,歴代編集委員長,編集委員,ご寄稿いただいた皆様のご努力の積み重ねが,本学会誌を今の時流に適うポジションにまで押し上げたのです.
人工知能は不思議な学問です.数学や物理学のように確固とした構造もなければ,生物学や医学のように明確に決まった対象があるわけでもありません.人工知能の研究は時に知能という深い海に潜ろうとする科学であり,高い頂をもつ知能の山を築こうとする工学であり,またその探求の足場の土地を広げようとする哲学でもあります.研究の途はけっして平坦ではなく,研究者は自分の道からお互いにさまざまな報告をすることで,人工知能の発展の全容が浮かび上がります.学会誌とはリアルタイムに進行する活動の声を集約する場です.しかし,現在のように目まぐるしくディープラーニングを中心とする分野が発展する時勢にあっては,2か月に一度の発行はけっして速いとはいえません.そして編集の都合上,その原稿は数か月前から準備しなければなりません.そのような状況の中で会員の皆様に対してどのような役割を果たせるか,という問いが本学会誌には突きつけられています.歴代の『人工知能』を眺めるとき,そこには,今を切り取ろうとする努力とともに,未来の礎となろうとする志が感じられます.論文アーカイブやSNSやニュースWebで発表される速度をけっしてもつことができない本学会誌の使命は,むしろ散逸する情報群をまとめて,できるだけ速く体系化してお届けすることでもあります.
本学会誌は過去から現在へ向けて知識を結晶化します.そして,その結晶を磨けば磨くほど,そこには人工知能の未来の姿が映し出されます.その意味で,学会誌は未来への反射式望遠鏡です.学会誌を見れば未来が見える,そんな学会誌にしたいと思います.また学会誌は学会のアイデンティティでもあります.学会員であることを誇りに思っていただけるよう努力いたします.これからも皆様のご助力をよろしくお願いいたします.
歴代会長
氏名 | 就任期間 | |
---|---|---|
第20代 | 栗原 聡 | 2024年6月28日~ |
第19代 | 津本 周作 | 2022年6月22日~2024年6月28日 |
第18代 | 野田 五十樹 | 2020年6月22日~2022年6月22日 |
第17代 | 浦本 直彦 | 2018年6月27日~2020年6月22日 |
第16代 | 山田 誠二 | 2016年6月24日~2018年6月27日 |
第15代 | 松原 仁 | 2014年6月13日~2016年6月24日 |
第14代 | 山口 高平 | 2012年6月14日~2014年6月13日 |
第13代 | 西田 豊明 | 2010年6月10日~2012年6月14日 |
第12代 | 堀 浩一 | 2008年6月12日~2010年6月10日 |
第11代 | 溝口 理一郎 | 2006年6月8日~2008年6月12日 |
第10代 | 石塚 満 | 2004年6月3日~2006年6月8日 |
第9代 | 田中 穂積 | 2002年5月30日~2004年6月3日 |
第8代 | 白井 良明 | 2000年5月26日~2002年5月30日 |
第7代 | 白井 克彦 | 1998年6月18日~2000年5月26日 |
第6代 | 田中 英彦 | 1996年6月26日~1998年6月18日 |
第5代 | 堂下 修司 | 1994年6月22日~1996年6月26日 |
第4代 | 志村 正道 | 1992年6月25日~1994年6月22日 |
第3代 | 辻 三郎 | 1990年6月23日~1992年6月25日 |
第2代 | 大須賀 節雄 | 1988年6月24日~1990年6月23日 |
第1代 | 福村 晃夫 | 1986年7月24日~1988年6月24日 |
令和六年度役員構成
令和六年度人工知能学会役員構成
全員:非常勤
役職名 | 種別 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|---|
会長 | 新任 | 栗原 聡 | 慶應義塾大学 |
副会長 | 留任 | 小野 智弘 | (株)KDDI総合研究所 |
副会長 | 新任 | 本村 陽一 | 産業技術総合研究所 |
理事 | 新任 | 荒井 ひろみ | 理化学研究所 |
理事 | 留任 | 井﨑 武士 | エヌビディア(同) |
理事 | 新任 | 石角 友愛 | パロアルトインサイト |
理事 | 新任 | 市瀬 龍太郎 | 東京工業大学 |
理事 | 新任 | 稲谷 龍彦 | 京都大学 |
理事 | 新任 | 江渡 浩一郎 | 産業技術総合研究所 |
理事 | 新任 | 大澤 博隆 | 慶應義塾大学 |
理事 | 留任 | 大西 正輝 | 産業技術総合研究所 |
理事 | 留任 | 岡田 雅司 | パナソニックホールディングス(株) |
理事 | 新任 | 岸本 章宏 | エヌビディア(同) |
理事 | 留任 | 清田 陽司 | 麗澤大学/(株)FiveVai |
理事 | 新任 | 倉島 健 | 日本電信電話(株) |
理事 | 新任 | 倉橋 節也 | 筑波大学理事 |
理事 | 新任 | 黒川 茂莉 | (株)KDDI総合研究所 |
理事 | 新任 | 小町 守 | 一橋大学 |
理事 | 新任 | 坂地 泰紀 | 北海道大学 |
理事 | 留任 | 櫻井 祐子 | 名古屋工業大学 |
理事 | 留任 | 佐藤 敏紀 | ソフトバンク(株) |
理事 | 留任 | 鈴村 豊太郎 | 東京大学 |
理事 | 留任 | 砂川 英一 | (株)東芝 |
理事 | 留任 | 諏訪 正樹 | オムロン(株)/オムロンサイニックエックス(株) |
理事 | 留任 | 高野 雅典 | (株)サイバーエージェント |
理事 | 新任 | 谷口 晋平 | (株)博報堂/(株)博報堂DYメディアパートナーズ |
理事 | 留任 | 寺本 やえみ | (株)日立製作所 |
理事 | 新任 | 中臺 一博 | 東京工業大学 |
理事 | 新任 | 中野 有紀子 | 成蹊大学 |
理事 | 留任 | 馬場 雪乃 | 東京大学 |
理事 | 留任 | 松井 藤五郎 | 中部大学 |
理事 | 留任 | 矢田 勝俊 | 関西大学 |
理事 | 留任 | 谷中 瞳 | 東京大学 |
理事 | 新任 | 山田 健太郎 | (株)本田技術研究所 |
理事 | 新任 | 三宅 陽一郎 | (株)スクウェア・エニックス |
理事 | 新任 | 渡邊 勇 | (一財)電力中央研究所 |
監事 | 留任 | 吉岡 健 | 富士フイルム(株) |
監事 | 新任 | 立堀 道昭 | 日本アイ・ビー・エム(株) |
代表理事:会長,副会長 | (理事は五十音順,敬称略) |