目次
会長就任のご挨拶
AIの民主化,学会の民主化,そして次の10年に向けて
本村 陽一
(産業技術総合研究所)
「AIの民主化」が加速している.ここで言われる「AIの民主化」とは,一部の専門家だけでなく誰もが人工知能技術を容易に利用・活用できるようになることであり,人工知能技術の社会実装と普及が広範囲に進んでいることを意味する.本学会が40周年を迎えた今,学会として次のフェーズに進むために必要なことは何であろうか? 人工知能が過去にはなかったレベルで幅広い学術分野,産業,生活,教育の多岐にわたる範囲で一般化している.人工知能に関係する専門家や実務家もこれまでとは比べものにならないほど幅広く多様化しているといえる.AIの民主化が進むとともに,これまでにないほど人工知能技術を活用した未来への関心が高まっている.人工知能に関係する人々は今後も爆発的に増え,その多様性,包摂性が重要になる.そして人工知能研究のための学術,技術に関する知のプラットフォームである本学会の役割,ミッションの拡大も必須である.すなわち,一部の専門家だけでなく誰もが本学会を容易に利用・活用できるようになる「学会の民主化」が必要になっているといえるだろう.
実際,ここ数年全国大会の毎年の規模拡大,多くの企画やイベントの実施に加え,YouTube動画の配信,ジュニア・ユース会員制度の発足,コンテスト企画を統一した「Japan AI Cup」の開催,産学クロススクエアSIAIの定期開催など,広範な対象者に向けた活動も活発化している.共同通信社との連携による全国の地方新聞を通じたこども新聞の連載も毎月行われて2年目に入り,誌面の二次元バーコードから学会Web解説ページへの導線も生まれた.これらの活動は担当理事や委員,事務局の皆様の創意と熱意の賜物であり,それこそが今の本学会を支えている大きな原動力となっていることは間違いない.一方で,今後もこうした取組みを持続,発展させるためには,その多くを人に依存している属人性を下げ,仕組み化することで,新たな参加者による協調を促せるものにする必要がある.つまり,ダイナミックな活動をさらに発展させ,持続的なものにするためには,仕組みづくり,土台としてのプラットフォーム機能の高度化が次の大きな課題になっている.これも「学会の民主化」である.学会の事業の中で守るべき普遍的なものを守りながら,先進的なチャレンジを行い,次世代の学会運営,新たな取組みを継続的に探求していくために,それらを容易にする基盤づくり,仕組み化が次の10年に向けて重要になる.先を見据えた戦略のもと,これまで以上に発展した後の学会の姿を想像し,本学会の土台となるプラットフォームを構築しておく必要がある.
このようなプラットフォームを強化することで,今年40周年を迎えた本学会の次の10年はどのようなものになるべきだろうか.こども新聞のAIの記事を読んでいた全国の小学生達の多くは大学に入り,ジュニア・ユース会員となった学生さんの中には,本格的な研究を進める人も出てくるだろう.Japan AI Cup で腕を競い合った若者達が,それをきっかけに知り合った仲間やライバルとの交流を通じて,高度な技術を利用しつつさらに切磋琢磨しているかもしれない.AI技術のユーザとして関わり始めた新しい会員の中から,ユーザとしての立場からあるべきAI技術を構想することで開発コミュニティをリードする人が出てくるかもしれない.今より大きな全国大会,研究会,企画セミナーなどの場で出会った研究者,開発者達の共創により,これまでのAIとは異なる専門分野の新たな手法や技術が導入されて新たなAI技術が生まれてくるだろう.そして今まで以上に活発な産業界連携によって,AI技術の社会実装と産業構造変革も加速することだろう.こうしたさまざまな創発の連鎖反応を実現するためには,あらゆる世代,あらゆる分野間での多様で包摂的な会員間の相互作用がますます重要になるのではないだろうか.
こうした会員間のより良い相互作用を活性化できる基盤,プラットフォームとしての本学会の役割が次の10年のためになくてはならないものの一つだと確信する.そしてその兆しも見えている.会員間の相互作用が重要だと考える理事や委員が集中して長時間の議論ができる「合宿」の必要性を感じ,模索している.同時にオンライン基盤の双方向化についても情報基盤担当理事が検討を進め,この基盤の上に新たなサービスを設計する事業創造の仕組み化も検討されている.会員間の相互作用を良いものにし,会員のスケール拡大の効果を非線形で飛躍的なものにすることが相互作用の「場」としての本学会の大きな役割になる.しかし「場」だけで相互作用が始まることはない.良い「場」に集まりそれぞれの活動をする「人」達こそが相互作用の源であり,主役である.新しいロゴにもその想いが込められている.本学会の次の10年,その主役になって新しい未来をつくってみませんか.
編集委員長のご挨拶
現実となった「10年前の不可能」を社会へ:AI時代における学術誌の貢献
論文誌編集委員長 狩野 芳伸
(静岡大学)
この度,本学会論文誌の編集委員長を拝命いたしました狩野芳伸と申します.AI技術が社会の根幹を揺り動かし,その存在意義がかつてないほどに問われているこの重要な時期に,本誌の舵取りを担うことに身の引き締まる思いでおります.まずは,日頃より本誌を支えてくださっている会員の皆様,査読委員の皆様,そして事務局の方々に心より感謝申し上げます.前任の大澤博隆論文誌編集委員長,三宅陽一郎学会誌編集委員長の時代には,副編集委員長として勉強させていただきました.学会誌編集委員長の馬場雪乃先生,論文誌副編集委員長の諏訪博彦先生,学会誌副編集委員長の山元 翔先生とともに,論文誌,学会誌をさらに価値のあるものにしていきたく思います.
振り返れば,わずか10年前には,現在の生成AIの隆盛や,人間と見紛うような対話システムの実現は,まだ遠い未来の夢物語のように語られていました.当時,私達が苦心して構築していた技術の多くは,精度やリソースの壁に突き当たっていました.筆者自身,自然言語処理を核として,人間らしい知能の探求から,医療・司法・政治といった公共ドメインへの社会実装まで,多岐にわたる挑戦を続けてまいりましたが,かつての「夢」が次々と「現実」へと変わっていくスピード感には,驚きを隠せません.筆者自身が取り組んだ研究プロジェクトでいえば,大学入試の自動解答「ロボットは東大に入れるか」では何よりも問題文そのものを機械が読み解くことが難しかったですし,司法試験の自動解答を競う国際ワークショップCOLIEEでは短答式ではありますが正答率が飽和しつつあり,裁判過程の自動化そのものが社会的な要請になり得る状況です.当時は誰しもが研究としてすらはるか遠い目標と考えていた,会話ゲーム「人狼」を自動プレイする人狼知能プロジェクトも,今まさに技術向上を競う最先端にあり,その技術が実用的な応用に直結し得ます.医療における各種の自動診断支援も,データ不足やドメイン特有の課題はまだ多々ありますが,各所で実用化のお話を聞くところです.SNSの投稿や発話などから人々の意見や気持ちを個別かつ総合的に把握し,予測するということも,実現の道筋が見えてきました.
このように今,私達は「10年前には到底できなかったこと」が,日常の風景として実現されている特異な時代に生きています.しかし,技術が高度化し,ブラックボックス化が進む今だからこそ,学術誌が果たすべき役割はよりいっそう重くなっています.単なる精度の追求に留まらず,なぜその結果が出るのかという論理的な説明可能性や,多様な分野が交差する中での真の社会還元を,私達は言葉にして定着させていかなければなりません.本学会は,その多様性と懐の広さが特徴の一つだと思っています.AIに関わる諸分野は広がり続けており,その学術的な文化も大きく異なります.異分野の価値を理解し合い,交差させつつさらに磨き上げていくためにも,論文誌,学会誌からの発信は重要です.
本学会の取り扱う領域は広いですが,工学という視点で考えると,再現可能で定量的な評価によって「役立つ」という有用性を示す,という枠組みが共有されていると考えます.一方で,AI技術が広く実用されつつある現在において,研究の評価というものは,単なる精度の競い合いに留まるものではありません.実社会の複雑な文脈において,その技術がどのような価値を還元し,いかなる課題を解決し得るのか.その多角的な有用性を検証し,記述することの重要性もかつてないほど高まっています.大学などの研究機関で生まれた基礎的な知見を,いかにして産業界へとつなげていくか.そして,そこから得られた知見を再び学術の深化へとフィードバックさせる循環を,加速させるプラットフォームでありたいと考えています.
同時に,私達は技術進歩の速さゆえに,研究成果が瞬く間に陳腐化してしまいがちであるという特有の課題にも直面しています.こうした状況下で本論文誌が果たすべき役割は,単なる情報のアーカイブに留まらない,迅速かつ動的な知の集積地であることです.速報性を重視し,鮮度の高い議論を停滞させることなく世に送り出す仕組みも考えていかなければなりません.幸いなことに,現代はAI自身による翻訳技術の飛躍的向上により,日本語で執筆された質の高い研究を英語圏へと展開する障壁は劇的に低くなりました.加速するグローバルな研究開発競争の中で,日本独自の文脈や倫理観,そして緻密な基礎研究に基づいた知性を発信することで,世界中の研究者が参照し,社会が信頼を寄せるような,強固な知の基盤を築いていければと思います.
学会誌編集委員長 馬場 雪乃
(東京大学)
本学会も本誌も40年の節目を迎えた本年度より,学会誌『人工知能』の編集委員長を務めることになりました.AIが社会の形を大きく動かしつつあり,AI研究と社会との関係が問い直されているなか,この大切な役を引き継ぐ責任の重さを感じます.
筆者と人工知能学会との最初の出合いは,2009年に参加した「第10回AI若手の集い(MYCOM)」でした.以来,全国大会での発表や講演,学生編集委員・編集委員としての本誌の編集,理事としての学会運営など,さまざまな形で本学会と関わってきました.こうして長く関わるなかで強く感じてきたのは,議論の自由さや,分野や立場を問わない間口の広さ,そして何より「面白い研究をしよう」という好奇心ドリブンの空気です.学生時代から育てていただいた本学会に,今度は編集委員長として何かをお返しできることを,たいへん嬉しく思います.
ご存じのとおりAIが研究の現場にも社会にも深く浸透しています.論文の要約も,技術解説も,関連研究の調査も,かなりの部分をAIが担えるようになってきました.そんな時代に,編集委員が時間をかけて特集を組み,研究者が原稿を書き,読者が誌面を手に取るという隔月発行の学会誌に,どんな役割が残されているのでしょうか.論文の本文や数式は,これからますますデータとして整備され,AIに取り込まれていくでしょう.しかし,「今,AI研究者が何に興味をもっているのか」,「どのような議論を交わしているのか」,「なぜそれを面白いと感じているのか」などの研究の現場に漂う,この同時代の温度のようなものは,論文の本文には残りにくいものです.本誌の誌面の至る所に刻まれる,そのとき・その人ならではの問題意識と熱量こそが,後の世代の人やAIが「2020年代後半の人工知能研究はどんな場所だったのか」を振り返るときに,かけがえのない一次資料になるはずです.
そして,そうした同時代の温度を生き生きと刻むことができるのは,本誌が「興味関心の自由」を編集の原理に置いてきたからだと思います.本誌では,編集委員一人ひとりの「いま,これが面白い」,「ここを掘り下げたい」,「この人の話を聞きたい」が,誌面に率直に反映されます.筆者自身が学生の頃に学会に惹かれたのも,まさにこの好奇心ドリブンの自由さでした.任期中はこの自由さを大切にしながら,編集委員と,できれば会員の興味関心を,強く誌面に映し出していきたいと思います.どうぞよろしくお願いいたします.
歴代会長
| 氏名 | 就任期間 | |
|---|---|---|
| 第21代 | 本村 陽一 | 2026年6月29日~ |
| 第20代 | 栗原 聡 | 2024年6月28日~2026年6月29日 |
| 第19代 | 津本 周作 | 2022年6月22日~2024年6月28日 |
| 第18代 | 野田 五十樹 | 2020年6月22日~2022年6月22日 |
| 第17代 | 浦本 直彦 | 2018年6月27日~2020年6月22日 |
| 第16代 | 山田 誠二 | 2016年6月24日~2018年6月27日 |
| 第15代 | 松原 仁 | 2014年6月13日~2016年6月24日 |
| 第14代 | 山口 高平 | 2012年6月14日~2014年6月13日 |
| 第13代 | 西田 豊明 | 2010年6月10日~2012年6月14日 |
| 第12代 | 堀 浩一 | 2008年6月12日~2010年6月10日 |
| 第11代 | 溝口 理一郎 | 2006年6月8日~2008年6月12日 |
| 第10代 | 石塚 満 | 2004年6月3日~2006年6月8日 |
| 第9代 | 田中 穂積 | 2002年5月30日~2004年6月3日 |
| 第8代 | 白井 良明 | 2000年5月26日~2002年5月30日 |
| 第7代 | 白井 克彦 | 1998年6月18日~2000年5月26日 |
| 第6代 | 田中 英彦 | 1996年6月26日~1998年6月18日 |
| 第5代 | 堂下 修司 | 1994年6月22日~1996年6月26日 |
| 第4代 | 志村 正道 | 1992年6月25日~1994年6月22日 |
| 第3代 | 辻 三郎 | 1990年6月23日~1992年6月25日 |
| 第2代 | 大須賀 節雄 | 1988年6月24日~1990年6月23日 |
| 第1代 | 福村 晃夫 | 1986年7月24日~1988年6月24日 |
令和八年度役員構成
令和八年度人工知能学会役員構成
全員:非常勤
| 役職名 | 種別 | 氏名 | 所属 |
|---|---|---|---|
| 会長 | 新任 | 本村 陽一 | 産業技術総合研究所 |
| 副会長 | 留任 | 小野 智弘 | (株)KDDI 総合研究所 |
| 副会長 | 留任 | 和泉 潔 | 東京大学 |
| 理事 | 新任 | 石原 祥太郎 | 株式会社日本経済新聞社 |
| 理事 | 留任 | 板井 光輝 | (株)日立システムズ |
| 理事 | 留任 | 岩崎 弘利 | (株)デンソーアイティーラボラトリ |
| 理事 | 留任 | 大西 一貫 | (株)博報堂テクノロジーズ |
| 理事 | 留任 | 大向 一輝 | 東京大学 |
| 理事 | 新任 | 岡田 将吾 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
| 理事 | 留任 | 岡 瑞起 | 千葉工業大学 |
| 理事 | 留任 | 刑部 好弘 | (株)日立製作所 |
| 理事 | 新任 | 狩野 芳伸 | 静岡大学 |
| 理事 | 新任 | 河津 宏美 | 日本アイ・ビー・エム株式会社 |
| 理事 | 留任 | 木村 大毅 | 日本アイ・ビー・エム(株) |
| 理事 | 留任 | 清田 陽司 | 麗澤大学 |
| 理事 | 新任 | 黒川 茂莉 | 株式会社KDDI 総合研究所 |
| 理事 | 新任 | 黒田 由加 | 三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 |
| 理事 | 留任 | 小塚 和紀 | パナソニックホールディングス(株) |
| 理事 | 留任 | 櫻井 祐子 | 名古屋工業大学 |
| 理事 | 留任 | 清水 仁 | 西日本電信電話(株) |
| 理事 | 新任 | 清水 真理子 | キンドリルジャパン株式会社 |
| 理事 | 新任 | 鈴木 麗璽 | 名古屋大学 |
| 理事 | 留任 | 高野 雅典 | (株)サイバーエージェント |
| 理事 | 新任 | 髙村 博紀 | AIセーフティ・インスティテュート/日本品質保証機構 |
| 理事 | 留任 | 竹内 孝 | 京都大学 |
| 理事 | 新任 | 道本 龍 | 株式会社博報堂DY ホールディングス |
| 理事 | 留任 | 鳥海 不二夫 | 東京大学 |
| 理事 | 新任 | 中辻 真 | NTT株式会社 |
| 理事 | 新任 | 馬場 雪乃 | 東京大学 |
| 理事 | 新任 | 濱崎 雅弘 | 産業技術総合研究所 |
| 理事 | 新任 | 林 宏樹 | 雲雀丘学園中学校・高等学校 |
| 理事 | 留任 | 原 聡 | 電気通信大学 |
| 理事 | 留任 | 土方 嘉徳 | 兵庫県立大学 |
| 理事 | 新任 | 水田 孝信 | スパークス・アセット・マネジメント株式会社 |
| 理事 | 留任 | 森永 聡 | 日本電気(株) |
| 理事 | 新任 | 山川 宏 | 東京大学 |
| 理事 | 新任 | 由井 成和 | 株式会社日本総合研究所 |
| 理事 | 留任 | 吉田 香 | 九州工業大学 |
| 理事 | 新任 | 渡邊 勇 | 一般財団法人電力中央研究所 |
| 監事 | 留任 | 森田 千絵 | (株)東芝 |
| 監事 | 新任 | 上田 晴康 | 株式会社ゼネラル |
| 代表理事:会長,副会長 | (理事は五十音順,敬称略) | ||