学会概要


目次


会長就任のご挨拶

 
知能と可塑性

野田 五十樹
(産業技術総合研究所人工知能研究センター)

人類は,群れ集うことで生き延びてきた.また,知能も,その群れ集うことで培われてきたと考えられる.もし,無人島に一人で生まれ育たざる得ない人類がいるとして,その育つ環境に,教育をするシステムだけが存在したとしても,はたしてその人に「意識」,「知能」が芽生えるであろうか.個人的には意識・知能は生まれないのではないか,意識・知能には同等の知的他者が存在する社会が必要ではないか,と考えている.
学会も,群れ集うことを前提として存続・発展してきた.研究テーマの近しい専門家どうし,発表の場を共有し,そこに集うことでいろいろなアイディアを客観的に吟味し,公正に評価する.それにより学術知識の発展に寄与することが学会の機能であり使命である.
この「集う」ということを,現在,制限せざる得なくなってきている.この原稿を執筆している時点では,非常事態宣言も延長され,人々は籠城を余儀なくされている(「籠城」は全国大会が行われるはずだった熊本市が掲げた標語である.“stay home” より,語感的に気に入っている).学会の活動も,3 月よりほとんどすべての集会はキャンセルもしくはオンライン開催となっている.これからしばらくの間のイベントも同様になっていくだろう.これから先は,以前のように自由に集いあえるような社会は戻ってこないのではないか,絶えず三密を避ける活動を続けていかなければらならい,ということも覚悟せざる得ないかもしれない.そういう大きな変革期に我々は居合わせてしまったと認識したい.
脳には可塑性がある.大脳は領野ごとに機能が分かれているが,けがなどである領野が損傷してその機能が失われても,周辺の領野が徐々に変化・分担することで,もとの機能を復活させる.その脳の機能の発露である知能にも高いレベルの可塑性があるはずである.そもそも,変化する環境,新しい環境に対応できることこそ,知能の本領のはずである.集うということが制限された環境でも,それに適応した知能というものが培われていくと考えられる.はたして,その知能が,これまでの知能と同じものなのか,それはわからないが,その違いを探求することも,人工知能の研究テーマになり得るだろう.
人工知能学会も,可塑性のある知能を研究テーマとする学会として,同様の可塑性を発揮できる組織体でありたい.すでに大会や研究会のオンライン開催は広く行われてきており,やり方によっては面白い効果がある事例も起こりつつある.理事会や委員会もオンラインへの移行が既定路線であり,まだ議事進行にぎこちなさは残るものの,定着していくことになるだろう.今回の事態とは直接関係ないが,冊子・文書類のオンライン化も加速するのは間違いない.幸いにして,IT 環境の充実により,学会機能のオンライン化はそこそこ可能であるようにも見える.
一方,オンラインばかりでは埋められない機能も学会にはあるように思う.研究会や全国大会がさまざまなところで開催されることには,リフレッシュして新しい着想を得る,という側面もあるように思える.オンラインでの会議のはしごをしていると,移動の労力や時間は節約できるものの,その分,頭のリフレッシュができない.美味しい食事と酒を共に楽しみながら,知能について語り合うということができなくなることも寂しい.今のような状況になることで,場所や環境を変えながら研究集会や委員会を行っていたということにより,頭を切り替え新しい着想を得ていたことに気付かされる.こういう側面を補っていく手段を,これからの学会では考えていかないといけないように思われる.
ニュートンは,ペストで田舎に疎開せざる得なくなったとき,その重大な科学的功績を発展・完成させたといわれる.同じように,今回の社会的事態を機に,学会も新しい機能を担う組織として,可塑的に変わっていくことになるだろう.このような変革期に,会長としての大任を担うことになった.筆者にできることは限られているだろうが,学会員の皆様とともに,ぜひともこの変化に対応できる学会としていきたい.
 

編集委員長のご挨拶

人工知能学会編集委員長就任にあたって

清田 陽司
((株)LIFULL AI 戦略室)

本学会の主力事業である全国大会や研究会は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に大きな影響を受け,熊本で開催予定であった全国大会はオンライン開催となりました.現地運営担当などの大会委員の方々をはじめ,現地にてface to face で議論する機会を楽しみにされていた皆様にとっても,非常に残念であったと拝察いたします.
一方で,身体の障害,子育てや介護,経済的な困難などの諸事情を抱える方々にとっては,「オンラインで参加できる」という機会が福音となり得ることにも思いを馳せる必要があります.本学会が掲げる「人工知能に関する研究の進展と知識の普及を図り,もって学術・技術ならびに産業・社会の発展に寄与する」という目的を達成するには,幅広い背景をもつ方々に学会という場の価値を共有することが欠かせません.もう一つの主力事業である学会誌や論文誌の発行を担う編集委員会では,こうした問題意識のもと,歴代編集委員長を中心に精力的な取組みがなされてきました.学会誌企画の充実,学会誌表紙の刷新などにより,本学会は社会との関わりを深めてきました.しかしながら,さまざまな背景をもつ人々に本学会がリーチできているかといえば,まだまだ道半ばであるように思います.
画像・自然言語処理の先駆者である長尾 真先生は,最近電子出版された随想集にて以下のように述べられています.

厳密な論理的体系を念頭に置きながら学問を作るということは(中略)あくまでも学問の考え方の筋道,骨格を論理的な道筋をたどって作ることであって,骨格作りだけで学問が終わってはならないだろう.そこにどのような肉づけをし,どのような筋肉活動をさせられるかということがあって初めて,現実に合致し,また実際に役立って人々を納得させられる豊かな学問になるのである.この部分をどうするかが大きな問題であり,ここにこれからの大きな研究領域があると言えるだろう.(「楽天知命──気楽なよしなしごと──」より引用)

本学会設立当時の学会誌を読むと,学問としての人工知能の骨格づくりとともに,「実際に役立つ」ことが,当初から非常に重視されてきたことがわかります.COVID-19 や少子化などの大きな危機に直面している現代社会において,人工知能を本当の意味で豊かな学問にするために,「本当に解くべき課題は何か」を常に問い続けること,問うための材料を提示し続けることが,本学会の役割として非常に重要だと筆者は考えます.卒論生として長尾先生からご指導を受けていた時期,「自分達の学びが社会から支えられていることを意識しなさい」とおっしゃったことが強く印象に残っています.博士課程で企業との共同研究としての対話型ヘルプシステムの研究に取り組んだ時期には,実運用によって得られる生々しいデータと足元の研究テーマのギャップに大いに苦しみました.一方で,現実のニーズから目を背けず,苦しみながらも解くべき課題を見いださなければ意味がないと痛感したことが,その後に図書館や不動産など,未開拓ながら豊かで意味のある研究課題にあふれる分野と出合うことにつながったように思います.
このたび,編集委員長という大役をお引き受けするにあたり,市瀬龍太郎前委員長をはじめ歴代編集委員長が尽力されてきた「価値ある論文の採録」,「人材の育成に寄与する記事の掲載」などの方針を堅持するとともに,以下の3点に取り組んでいきたいと考えています.1 点目は,人工知能の技術や知見が切実に必要とされている重要な分野の課題に光を当てることです.医療・介護・看護・流通・販売・教育・社会インフラなど,COVID-19 への対応にも重要な役割を果たしている分野で,解くべきとされている課題は何かを,特集企画として共有していきたいと思います.2 点目は,人工知能という学問の発達に大きな影響を与えてきた哲学の諸課題にフォーカスし,新たなパラダイムの提示につながる議論を喚起することです.人工知能を学問として確立された先人の方々は,西洋哲学が提示してきた諸課題を徹底的に議論し,人工知能を実際に役立てるための土台づくりをされてきた経緯がありますが,最近になって人工知能を学び始めた方々にとっては,その経緯が見えづらいところがあるかもしれません.また,東洋哲学が提示してきた諸課題についても,最近は洋の東西を問わず注目されています.このような哲学の諸課題を,できるだけわかりやすく伝えるような企画を実現できればと思います.3 点目は,より多くの方々に人工知能の話題に親しんでいただける企画です.現在,人工知能の活用事例を漫画で伝える「教養知識としてのAI」シリーズが連載されていますが,さらにこの方向を発展させ,読み物として楽しんでいただける連載を計画しています.
本学会の活動を有意義なものとするには,会員の皆様のお力が欠かせません.論文や記事の投稿はもちろん,編集委員会への率直なご意見もお寄せいただけると大変ありがたいです.引き続きご協力のほどお願い申し上げます.
 

歴代会長

 

  氏名 就任期間
第18代 野田 五十樹 2020年6月22日~
第17代 浦本 直彦 2018年6月27日~2020年6月22日
第16代 山田 誠二 2016年6月24日~2018年6月27日
第15代 松原 仁 2014年6月13日~2016年6月24日
第14代 山口 高平 2012年6月14日~2014年6月13日
第13代 西田 豊明 2010年6月10日~2012年6月14日
第12代 堀 浩一 2008年6月12日~2010年6月10日
第11代 溝口 理一郎 2006年6月8日~2008年6月12日
第10代 石塚 満 2004年6月3日~2006年6月8日
第9代 田中 穂積 2002年5月30日~2004年6月3日
第8代 白井 良明 2000年5月26日~2002年5月30日
第7代 白井 克彦 1998年6月18日~2000年5月26日
第6代 田中 英彦 1996年6月26日~1998年6月18日
第5代 堂下 修司 1994年6月22日~1996年6月26日
第4代 志村 正道 1992年6月25日~1994年6月22日
第3代 辻 三郎 1990年6月23日~1992年6月25日
第2代 大須賀 節雄 1988年6月24日~1990年6月23日
第1代 福村 晃夫 1986年7月24日~1998年6月24日

 

令和二年度役員構成

令和二年度人工知能学会役員構成
 
全員:非常勤

役職名 種別 氏名 所属
会長 新任 野田 五十樹 産業技術総合研究所
副会長 留任 森川 幸治 Connect(株)
副会長 新任 市瀬 龍太郎 国立情報学研究所
理事 留任 青島 武伸 パナソニック(株)
理事 留任 大谷 紀子 東京都市大学
理事 留任 岡崎 直観 東京工業大学
理事 新任 片上 大輔 東京工芸大学
理事 留任 來村 徳信 立命館大学
理事 新任 清田 陽司 (株)LIFULL
理事 留任 鯨井 俊宏 (株)日立製作所
理事 新任 古崎 晃司 大阪電気通信大学
理事 留任 佐久間 淳 筑波大学
理事 新任 篠原 靖志 (一財)電力中央研究所
理事 留任 園田 俊浩 (株)富士通研究所
理事 留任 武田 英明 国立情報学研究所
理事 留任 谷口 恭弘 (株)本田技術研究所
理事 新任 立花 隆輝 日本アイ・ビー・エム(株)
理事 留任 戸上 真人 LINE(株)
理事 新任 戸田 浩之 日本電信電話(株)
理事 新任 濱崎 雅弘 産業技術総合研究所
理事 新任 春木 耕祐 (株)東芝
理事 新任 福井 健一 大阪大学
理事 留任 細見 岳生 日本電気(株)
理事 新任 松尾 豊 東京大学
理事 留任 松下 光範 関西大学
理事 新任 松村 真宏 大阪大学
理事 新任 三宅 陽一郎 (株)スクウェア・エニックス
理事 新任 矢田 勝俊 関西大学
理事 留任 吉岡 健 富士ゼロックス(株)
監事 留任 木下 聡 (一財)日本特許情報機構
監事 新任 竹内 広宜 武蔵大学
代表理事:会長,副会長 (理事は五十音順,敬称略)