学会概要


目次


会長就任のご挨拶

 
裾野を広げる人工知能研究

浦本 直彦
(株式会社三菱ケミカルホールディングス)

この度,人工知能学会の第17 代会長の任を拝命いたしました,浦本直彦でございます.これまで人工知能学会の会長は,アカデミアから輩出されてきましたが,今回初めて企業からの会長就任となります.会長の重責を担えるよう,精一杯務めてまいります.
筆者が大学や企業で人工知能に関する研究開発を始めた時期は,前回の人工知能ブームとその後の停滞期とちょうど重なっています.当時のことを思い出しますと,大学では,自然言語文の論理的表現や知識獲得の研究をやっていて,Prolog やLisp でプログラムを書いていました.就職して研究部門に配属され,初めてのプロジェクトは機械翻訳システムの研究開発で,当時多くの企業や大学がそれぞれのシステムを競い合うように公開していた時代でした.バブル期とも部分的に重なっています.野心的な国家プロジェクトが立ち上がり,市場でもニューロ洗濯機やファジィ扇風機が発売された時代です.その後,そのブームは終焉しますが,雌伏のときを経て,現在は人工知能,AI という言葉がニュースや新聞で普通に語られるようになりました.
過去2 回のブームを体験して,前回と今回では,いくつか違いを感じています.まず,人工知能技術を自社内で活用したり,新しいサービスを提供したりする組織・企業の裾野が大きく広がっていると感じます.これには社会全体がディジタル技術による変革の波にさらされているという背景もあるでしょう.自動化やグローバリゼーションによる生産性の向上や,従来のビジネスモデルを破壊する新たなプラットフォーマーの台頭といったディジタル変革は,何も人工知能技術のみによってもたられたものではありません.しかし,さまざまな分野において人工知能技術は浸透しつつあります.
また,データの価値が高まり,データ駆動(data-driven)の研究開発や経営が注目される中で,人工知能技術やサービスの提供者,利用者(個人),そしてデータをもつ者の間のバランスが変わりつつあることを実感しています.データをもつ者が競争優位に立つ時代になりました.筆者は現在,製造業(素材産業や製薬業)に在籍しています.自社で生まれるデータを社外のデータと組み合わせて分析・活用することで研究開発,製造,経営における生産性向上や,データ駆動の意思決定を支援しています.この筆者が今回,人工知能学会の会長を務めさせていただく機会を得たことは,ある意味この社会の変化を反映しているのかもしれません.
さらに,前回の人工知能ブームでは,個人あるいは利用者側の組織が自らその技術を活用したり発展させたりといったことが少なかったように思います.しかし現在は,さまざまな機械学習やデータ処理・可視化のためのツールが無料で公開され,データさえあれば,誰でも自分で試して結果を得ることが簡単にできるようになりました.
一方で,人工知能技術が,さまざまな業務に埋め込まれ当たり前のように使われるようになるにはまだまだ時間がかかりそうです.例えば,製造業の現場では,複数の機器から得られるセンサデータを用いて古典的な統計的解析や深層学習アルゴリズムを適用してみることは比較的簡単ですが,得られた知見を実際の製造プロセスの中に組み込んで長期間に運用していくのは簡単ではありません.また,問題によっては必ずしも最新の深層学習アルゴリズムが最適であるとも限りません.データ駆動のソフトウェア開発ライフサイクルは,従来型のものと異なり,新しい考え方が必要になってくるでしょう.
しかしながら,上であげた社会や技術の流れを考えると,熱狂的なブームはいつか終わるものの,人工知能技術とそれに付随する新しいビジネスサービスの普及は,今後も着実に続いていくものと考えています.
このような状況で,前会長からバトンタッチされた重責を,どのように果たしていくかを現在も思案しています.
まずは,日本における第一線の研究者・技術者を擁する学術団体として,革新的な研究開発成果を出していくための環境を構築していきたいと思っています.新しいトピックにアンテナを張り,研究コミュニティを立ち上げていくことや,特に若い世代の研究者が国内外を問わず活発に議論したり見聞を深めたりする場をつくることが大事です.
本学会に賛助会員として登録したり,全国大会や研究会に参加していただいている企業や組織も以前と比べ多様さを増しています.さまざまな産業分野との連携により,人工知能技術の社会への浸透を加速するための仕組みをつくっていきます.
また,人工知能技術がこれだけ社会にインパクトを与えるようになった現在,人工知能が単に技術ではなく,社会的要素の一つとして語られることが多くなっています.公器である学会として,オープンで健全な議論を促進していく必要があります.
社会の変革の流れの中で,人工知能技術の発展について会員の皆様と一緒に考え,実践していきたいと思っています.どうぞよろしくお願いいたします.
 

編集委員長のご挨拶

人工知能学会編集委員会委員長就任にあたって

市瀬 龍太郎
(国立情報学研究所)

この度,人工知能学会編集委員会委員長に就任させていただきました.大役を仰せつかり,非常に身が引き締まる思いです.振り返ってみると,初めて,人工知能学会の編集委員に就任したのは,2006 年で,それ以来,シニア編集委員も含めて10 年以上,人工知能学会の編集委員会に籍を置き,編集に携わらせていただいております.その間,委員長も西田豊明先生,山口高平先生,松原 仁先生,松尾 豊先生,栗原 聡先生,山川 宏先生と代わり,編集のスタイルも徐々に進化していきました.先人から良いところを引き継ぎつつ,新たな試みを行う精神をもち,より良い学会誌,論文誌の発行を目指して委員長を務めて参りたいと考えております.
そもそも,筆者と人工知能学会の関わりは,筆者が高校生の頃に遡ります.大学進学を控え,これから何の学問を勉強するかを模索する中で出合った本が,溝口文雄先生が執筆された「知識工学」という本でした.当時は,第二次人工知能ブームでもあり,人工知能の技術の背景や,重要性,魅力などを語っていたこの本を通して人工知能に興味をもちました.そこで,ぜひ,人工知能を勉強してみたいと思い,入学する学科を探していったのですが,当時の人工知能は航空工学などに付随する技術として存在し,情報技術がメインとなる情報科学科,情報工学科自体でさえ,大学にはほとんどない時代でした.そのような中で,どこに入学すれば「人工知能」とその周辺技術を教えてもらえるのかがわからず,いろいろと探す中で,たまたま見つけた人工知能学会が関係した本に,人工知能学会で志村正道先生が中心の一人として活躍しているとの記述を見つけ,そこに行けば間違いなく「人工知能」を教えてもらえるだろうと思い進学を決めました.つまり,人工知能学会は筆者の将来(現在)を決めるのに,大きな役割を果たしています.
さて,現在を見ると,第三次人工知能ブームであり,ネコも杓子も人工知能と言っている状況です.筆者が大学に入学後,実際に人工知能の研究を始め,人工知能学会に入会する頃には,第二次人工知能ブームは去っており,企業の人と話をすると「まだ,人工知能なんてやっていたの?」と言われる状況であり,その頃と比べると隔世の感があります.言うまでもなく,現在の人工知能ブームを支えているのは,深層学習であり,深層学習により従来の人工知能でできなかったことが格段にできるようになったことは間違いないでしょう.その一方で,一世代前の頃から人工知能を学んできた者として,現在を見ると,残念との思いがあります.人工知能は,単一の要素技術ではなく,多くの要素技術を含んでおり,技術を適切に選択し,目的の領域に対して適用することで大きな能力を発揮します.さらに,それらの要素技術を複合させることにより,より多くのことができるようになります.しかし,社会では,人工知能ブームに乗り,深層学習という一つの技術を適用して問題を解く試みだけがなされ,結果として,それだけではうまくいかないと,困惑している話を多く聞きます.そのような場合に,詳細を聞いてみると,深層学習以外の人工知能技術のほうが,より精度高く,容易にできそうなことがしばしばあります.人工知能の技術は,深層学習だけではなく,いろいろな技術があり,第一次人工知能ブーム,第二次人工知能ブームなどで中心となった技術も,その後の技術革新によりさまざまな技術が開発されております.しかし,現在の深層学習ブームにより,人工知能に興味をもった方々には,そういった技術を深く知る機会がないのかと思います.
上記の経験を踏まえ,人工知能学会の編集委員長として,二つのことを行いたいと考えております.まず,1 点目は,将来の人工知能を支える人々の養成です.筆者は,人工知能ブームの中,人工知能について書かれた本により,人工知能の世界に入ってきました.人工知能が社会的に興味をもたれている中で,次世代の人工知能を支える子供達,若者達が人工知能に興味をもつ可能性は多いでしょう.そのような中で,最新の人工知能技術に触れる機会を提供することで,将来の人工知能の発展を支える人材が少しでも増えるような企画を考えていきたいと思います.2 点目は,さまざまな人工知能技術の普及です.人工知能技術は深層学習のみならず,さまざまな要素技術があるにもかかわらず,それらが社会的に認知されていないのは,非常にもったいないと考えています.そのようなさまざまな技術を,学会誌を通して皆様にお伝えすることができれば,技術革新につながり,社会的にも大きな意義があるのではないかと考えております.
今年から,編集委員会では,「読者の見解」という皆様からのご意見を受ける仕組みを整えました.些細なご意見でも構いませんので,ご意見をいただけると,編集委員一同,励みになります.これからも,ご指導とご鞭撻のほど,よろしくお願いいたします.
 

歴代会長

 

  氏名 就任期間
第17代 浦本 直彦 2018年6月27日~
第16代 山田 誠二 2016年6月24日~2018年6月27日
第15代 松原 仁 2014年6月13日~2016年6月24日
第14代 山口 高平 2012年6月14日~2014年6月13日
第13代 西田 豊明 2010年6月10日~2012年6月14日
第12代 堀 浩一 2008年6月12日~2010年6月10日
第11代 溝口 理一郎 2006年6月8日~2008年6月12日
第10代 石塚 満 2004年6月3日~2006年6月8日
第9代 田中 穂積 2002年5月30日~2004年6月3日
第8代 白井 良明 2000年5月26日~2002年5月30日
第7代 白井 克彦 1998年6月18日~2000年5月26日
第6代 田中 英彦 1996年6月26日~1998年6月18日
第5代 堂下 修司 1994年6月22日~1996年6月26日
第4代 志村 正道 1992年6月25日~1994年6月22日
第3代 辻 三郎 1990年6月23日~1992年6月25日
第2代 大須賀 節雄 1988年6月24日~1990年6月23日
第1代 福村 晃夫 1986年7月24日~1998年6月24日

 

平成30年度役員構成

平成30年度人工知能学会役員構成
 
全員:非常勤

役職名 種別 氏名 所属
会長 新任 浦本 直彦 (株)三菱ケミカルホールディングス
副会長 留任 折原 良平 (株)東芝
副会長 新任 津本 周作 島根大学
理事 新任 市瀬 龍太郎 国立情報学研究所
理事 新任 伊藤 孝行 名古屋工業大学
理事 留任 上田 晴康 (株)富士通研究所
理事 新任 植野 研 (株)東芝
理事 留任 大澤 幸生 東京大学
理事 留任 大原 剛三 青山学院大学
理事 留任 加藤 恒昭 東京大学
理事 留任 越仲 孝文 日本電気(株)
理事 新任 木村 昭悟 日本電信電話(株)
理事 留任 小島 一浩 産業技術総合研究所
理事 新任 斎藤 博昭 慶應義塾大学
理事 新任 坂本 真樹 電気通信大学
理事 新任 櫻井 祐子 産業技術総合研究所
理事 留任 柴田 博仁 富士ゼロックス(株)
理事 新任 堤 富士雄 (一財)電力中央研究所
理事 新任 平嶋 宗 広島大学
理事 留任 藤尾 正和 (株)日立製作所
理事 留任 森川 幸治 パナソニック(株)
理事 留任 矢入 郁子 上智大学
理事 新任 吉岡 真治 北海道大学
理事 新任 吉住 貴幸 日本アイ・ビー・エム(株)
理事 留任 脇谷 勉 (株)本田技術研究所
監事 留任 中野 幹生 (株)ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン
監事 新任 福島 俊一 科学技術振興機構
代表理事:会長,副会長 (理事は五十音順,敬称略)