学会概要


目次


会長就任のご挨拶

 

AIブームに学会は何を残せばいいのか

山田 誠二
(国立情報学研究所/総研大/東工大)

この度,人工知能学会の会長の任を拝命致しました,山田誠二でございます.よろしくお願いいたします.就任にあたり,一言ご挨拶申し上げます.
人工知能AIは,数年前から第3次ブームを迎えているといわれています.正直なところ,私が会長に就任する頃には,このブームもピークアウトしているのでは,と予想していました.しかし,幸いにもその予想は外れ,AIブームは続いており,マスコミではAIの研究成果,企業のAI応用などに関するニュースが連日伝えられています.研究のブームもそうですが,日本でのブームはアメリカでのブームから数年のタイムラグがあるので,まだあと数年,つまり私の在任中は日本のAIブームが続きそうです.さて,このようなAIブームの時に人工知能学会は何をし.何を残すべきなのでしょうか.これを考え実行することが,私の会長在任中の第1の職務と考えています.と言っても,今ゼロから考え始めたのでは,2年の任期中の実現には間に合いませんので,いくつかアイディアを思索中です.ただし,アイディアレベルなので実行を保障するものではありませんし,明言したことに縛られるのも嫌なのであくまでも達成目標ということでお話しさせていただきます.
現在AIブームであることもあり,おかげでさまで人工知能学会も会員数の増加が続いています.そのため,学会の収入は安定してきており,財政的にも会員の皆様の研究・開発活動をサポートできる余裕が出てきています.そこで,これは私自身と多くの心ある日本人AI研究者が重要と感じている,世界に先駆けたオリジナリティーの高い日本発進の研究を促進する枠組みの構築,財政的なテコ入れを学会として実行していければ,と考えています.このことは,本誌Vol.30,No.1(2015年1月)の巻頭言でも述べたことであり,考えの詳細や方法論はそちらをご覧いただければと思いますが,とにかく日本のAI 研究は新しい枠組みを提案する研究,強力なオリジナリティーで新研究分野を創出できるような研究がまだ十分ではないということです.実際,AI 研究の研究トレンドは,そのほとんどが欧米発であり,日本のAI 研究はすでに流行っている研究トレンドを周回遅れで追いかけているという印象が拭えません.このような状況の打破に,本学会が貢献することは学会の最重要課題であると認識しています.
次に,日本の大学の研究と企業での応用開発のマッチングを促進するシステムを作りたいと思っています.偏見かも知れませんが,日本のメーカーの場合,AIの応用研究をする場合に国内の大学や研究機関よりも海外の大学や研究機関と共同研究・開発を指向する傾向が強いように感じています.それから,現在のITベンチャーでやられているAI応用のデモを見ると,研究レベルでは日本の大学や研究機関で10年以上前にいろいろやられていた枠組みのデジャブが感じられます.つまり,現在そして今後も日本の企業と日本の大学・研究機関が共同研究・開発をすることには大きな可能性があると感じます.ただ,その仲介をするシステムがないため,まだまだ活性化の余地を残していると思われます.おそらく日本のAI研究者・開発者が所属する最大の組織の1つは本学会ですので,そこでそのようなマッチメイキングをシステマティックに行うことには大きな意味があると考えています.
ほかにも,この場では公にできないような学会運営の方針についての方針転換についても,徐々に考え始めているところではありますが,それについては追々に学会執行部,理事会,事務局のみなさまのご協力を得つつ,進めて行ければと思っている段階です.
最後に,これは私の個人的な目標ではありますが,会長職と研究職を両立させる,つまり会長になると研究できない,研究を止めてしまうと言うよくあるパターンから脱却し,会長任期中もこれまでどおり,あるいはできればこれまで以上に自分の携わる研究を推進していければと考えています.もちろん,いろいろな方からご指摘いただくように,会長の職務をおろそかにせずに研究を推進することは非常に難しいことだとは思いますが,自分自身の残りの研究人生を考えると,この2年間の停滞はなんとか避けるべきと感じるからです.これは,ほとんどわがままな目標ではありますが,共同研究者の皆様,学会の皆様のお力を借りながら実現の道を探って行ければと考えています.
以上,学会のこと,個人のことなどについて抱負を語ってきましたが,すべてベースとなる考えは,「学会は会員のために」という精神を再認識しつつ,正会員,賛助会員,学生会員の皆様からのニーズを吸い上げて最大限に応えていけるような本学会でありたいということでございます.理事の方々,事務局を通してでも結構ですし,私 seiji@nii.ac.jp まで直接メールでお知らせ願うことも歓迎ですので,会員の皆様のご意見を気軽に学会にお知らせ願えればと存じます.なにとぞ今後とも本学会をよろしくお願いいたします.

 

編集委員長のご挨拶

編集委員長就任にあたって

Happy Academic Life 2016: 命の燃やし時

山川 宏
(ドワンゴ/全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

10年前,冬の時代のAI学会にて20周年記年事業「AI若手研究者のためのキャリアデザイン能力育成事業:幸福な研究人生に至る道」としてHappy Academic Life 2006というゲームを本学会の仲間とともに作らせていただきました.当時伝えたかったメッセージは,若手研究者が,論文などを発表し,学会などで人脈を広げることが将来のキャリアに好循環を生み出し得るということです. このメッセージは多くの他職業においても概ね成立するものでした.
しかし,こうした伝統的なキャリアデザイン観は,私達を含む多くの専門家がつくりあげてきたAIが人間の様々な知的能力を代替できるようになることで崩れ始めています.これは当然,AI專門家自身のキャリアにも影響を与えていますが,AIを知る私達だからこそ上手対処しうるのではないでしょうか.2016年の今,著者が編集委員長の役目を頂いたのは, AIの研究者や技術者が幸せなキャリアを構築することについてAI学会の多くの会員の皆様とともに考えていく機会を与えられたともいえる気がしています.
私見とはなりますが,以下にてAIコミュニティにおける研究の在り方をキャリア形成の観点から考えてみます.
やや乱暴ですが,AIを,人間が意識的に操作・記述できる概念や記号を扱う広範な大人のAIと,人間が無意識に獲得する実世界情報と概念と結びつける基盤的な子供のAIの二つから構成されるとします.大人のAIが主導していた以前の状況では,それらに与えるデータの整備や知識の構築の大部分に人間の介在が必要でした.つまり不足していた子供の知能部分を専門家が補っていたのです.しかし今回,三度目のAIブームは,子供が発達時に獲得する認識や運動などの基本的な知能を,深層学習や強化学習などといった汎用的な機械学習の組合せで実現しつつあります.こうして専門家からの手助けを要する範囲が減ることで,AIはビジネス価値が高まり投資が加速しています.
ところで專門家というものは(AI研究者らに限らず),何らかの専門性に基づいて対象を理解し,その専門的知性を活用して価値を生むことで社会に貢献しています.しかし, AIにデータと計算資源を投入すれば,素人でも専門能力を利用できるならば,時間をかけて積み上げた専門家の知性を発揮する価値は損なわれます.例えば,10年前には,コンピュータ将棋に機械学習が導入されたことにより,それまで営々と手作りされてきた指し手ルールの知識は無効化され,それを作製する専門性の価値が失われました.そしてコンピュータビジョンにおいては,一般物体認識が実現されたことで,專門家が設計してきた特徴量の多くは不要となり,それを設計するための専門性は価値を失いました.現在進行中の画像とキャプションのペアデータから概念間の関係を抽出する技術が確立すれば,オントロジやそれを設計する専門性さえ不要になるかもしれません.
ここで,AIを車とみなせば,それを突き動かすエンジンが機械学習といえるのではないでしょうか.明らかに「車と社会」や「AIと社会」は興味深いテーマですが「エンジンと社会」や「機械学習と社会」というテーマは色褪せて見えます.つまりAIは機械学習に対して価値ある仕組みや枠組みを与えているのかと思います.
こうして不可逆的にAIが専門性を侵食する流れの中でAIの専門家はどのようにキャリアを構築すべきでしょうか.現状では,汎用機械学習の性能が急成長し,良いエンジンをもつ者はビジネスにおいても優位になり得ます.この領域にアタックすることは非常に大事ですが,しばしば大量の計算リソースを要し,なおかつ,熾烈な競争が繰り広げられている領域です.このため,キャリア形成の点から見れば他の可能性も考える必要があります.
何らかの個別領域において,機械学習をツールとして適用するスタイルはどうでしょうか.常に変化への適応が求められるとはいえ,エンジニアリングとしては比較的有望そうです.一方で,研究者は領域ごとの知識に精通した上でオリジナルな成果を生み出すことが求められるでしょう. AI専門家が60年間にわたり磨き上げてきた知識やノウハウは深淵です.例えばメタな観点から特定分野の問題や知識などを再定義する能力は,仮に機械学習で実現されるとしても未だ時間を要しそうです.しかし遅かれ早かれ、自身の専門性もAI化されると考えるなら,世界に先駆けてそれを機械学習化した研究者が寧ろ世に名を残せるかもしれません.だとすればその瞬間を掴み取るように備える戦略もありえます.これは私達が幸いにもAIに携わってきたからこそ享受しうる,命の燃やし時とも言えそうです.
少々偏った見方であるとお叱りを受けそうではございますが,著者としてはこうした危機意識も踏まえながら,編集委員会の皆様とともに学会誌と論文誌を価値あるものとできるよう努力していきたいと思います.

 

歴代会長

 

  氏名 就任期間
第16代 山田 誠二 2016年6月24日~
第15代 松原 仁 2014年6月13日~2016年6月24日
第14代 山口 高平 2012年6月14日~2014年6月13日
第13代 西田 豊明 2010年6月10日~2012年6月14日
第12代 堀 浩一 2008年6月12日~2010年6月10日
第11代 溝口 理一郎 2006年6月8日~2008年6月12日
第10代 石塚 満 2004年6月3日~2006年6月8日
第9代 田中 穂積 2002年5月30日~2004年6月3日
第8代 白井 良明 2000年5月26日~2002年5月30日
第7代 白井 克彦 1998年6月18日~2000年5月26日
第6代 田中 英彦 1996年6月26日~1998年6月18日
第5代 堂下 修司 1994年6月22日~1996年6月26日
第4代 志村 正道 1992年6月25日~1994年6月22日
第3代 辻 三郎 1990年6月23日~1992年6月25日
第2代 大須賀 節雄 1988年6月24日~1990年6月23日
第1代 福村 晃夫 1986年7月24日~1998年6月24日

 

平成29年度役員構成

平成29年度人工知能学会役員構成

 

全員:非常勤

役職名 種別 氏名 所属
会長 留任 山田 誠二 国立情報学研究所
副会長 留任 野田 五十樹 産業技術総合研究所
副会長 新任 折原 良平 (株)東芝
理事 留任 荒井 幸代 千葉大学
理事 留任 伊藤 孝行 名古屋工業大学
理事 新任 上田 晴康 (株)富士通研究所
理事 新任 大澤 幸生 東京大学
理事 新任 大原 剛三 青山学院大学
理事 留任 尾形 哲也 早稲田大学
理事 留任 小野田 崇 青山学院大学
理事 新任 加藤 恒昭 東京大学
理事 新任 越仲 孝文 日本電気(株)
理事 新任 小島 一浩 産業技術総合研究所
理事 留任 小林 一郎 お茶の水女子大学
理事 新任 柴田 博仁 富士ゼロックス(株)
理事 留任 杉本 雅則 北海道大学
理事 留任 竹内 広宜 日本アイ・ビー・エム(株)
理事 留任 東中 竜一郎 日本電信電話(株)
理事 留任 土方 嘉徳 関西学院大学
理事 新任 藤尾 正和 (株)日立製作所
理事 新任 森川 幸治 パナソニック(株)
理事 留任 森田 千絵 (株)東芝
理事 新任 矢入 郁子 上智大学
理事 留任 山川 宏 (株)ドワンゴ
理事 新任 脇谷 勉 (株)本田技術研究所
監事 留任 石川 泰 三菱電機(株)
監事 新任 中野 幹生 (株)ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン
代表理事:会長,副会長 (理事は五十音順,敬称略)