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人工知能 38巻3号(2023年5月)アーティクル
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論文査読のシングルブラインド化にあたって
鳥海 不二夫(東京大学)
人工知能学会論文誌は,日本時間で2023年6月1日投稿論文から,査読をダブルブラインド査読からシングルブラインド査読に変更することとなりました.
一般に論文査読には,オープン査読,シングルブラインド査読,ダブルブラインド査読の3種類があります.オープン査読では著者,査読者ともに公開された状態で査読が行われます.シングルブラインド査読では,査読者は著者が誰かを知りますが,著者は査読者を知りません.ダブルブラインド査読では,査読者は著者が誰かを知らず,著者も査読者を知りません.
このうち,人工知能学会論文誌では長年ダブルブラインド査読を採用してきました.ダブルブラインド査読では,論文投稿者のジェンダー,年齢,名声,所属機関といった査読者の個人的な偏見の要因となり得る情報を取り除くことができ,論文査読の公平性を保てるという利点があります.一方で,著者は論文本体とは別に著者情報を削除した査読用の原稿を用意する必要があるため,負荷が大きくなるという問題点がありました.特に,著者情報が含まれた論文は不採録となるため,以前に執筆した論文を引用する場合などに特に注意が必要でした.
一方で,昨今では論文はインターネットで検索して読むことも多くなり,投稿論文に関連する発表を研究会や全国大会で行っている場合,容易に著者を知ることができてしまいます.特に,関連論文を調べようとした場合に簡単に著者がわかってしまうという問題は以前より編集委員や査読者から指摘されています.検索などによって偶然著者が推定できてしまった査読者からの問合せによって編集委員の対応が求められることもあり,編集委員会への負荷も増大しています.また,和文論文誌の性質上,査読者と著者は同じ研究分野コミュニティに所属していることが多いため,必然的に著者が誰かを簡単に類推することが容易であるという実態もありました.以上のように,現状では厳密なダブルブラインドの体制を維持するのは非常に困難です.
このような状況に鑑みて,編集委員会では,著者や査読者の負担を考慮してもなおダブルブラインドを継続する必要性はないという結論に達し,論文査読を「著者は査読者が誰かわからないが,査読者には著者を公開する」シングルブラインド査読に変更することとなりました.
これによって,著者は,個人を特定できる部分をすべて削除してから投稿するといった作業が不要になり,負担が減ります.また,査読者も,意図せずに著者を推定してしまうことに対する心理的負担を感じることなく,関連論文などの調査にあたることが可能となります.
シングルブラインド化にともない,原稿執筆案内,TeX スタイルファイルが変更となりますので,2023年6月1日以降にご投稿予定の方は新しい原稿執筆案内およびスタイルファイルをご利用くださいますようお願いいたします.
なお,原稿執筆案内では同時に以下の変更も行っております.
まず,Springer から発行されている「New Generation Computing」が,2023年から人工知能学会の正式な英文論文誌となりましたので,それに伴い,人工知能学会論文誌では英文論文の投稿を原則受け付けないことになります.そのため,英文論文の投稿に関する記述を削除しました.また,昨今の情勢に鑑みて,論文誌への顔写真の掲載は任意とすることになりました.それに伴い,掲載時の写真の提出を必須事項から削除しました.
シングルブラインドによる査読審査は,2023年6月1日以降の投稿からとなります.それ以前に投稿された論文は従来どおりダブルブラインド査読を行います.また,すでに投稿済みの論文についても継続してダブルブラインド査読を行いますのでご注意ください.
人工知能学会編集委員会では,今後も査読審査プロセスの質と効率の向上に努めてまいります.皆様の積極的なご投稿をお待ちしております.