人工知能学会 編集委員会
編集委員長 松尾豊
副編集委員長 栗原聡
数多くいただいたご意見の中でも、最も多かった批判は「女性蔑視ではないか」「女性差別ではないか」というものでした。今回の表紙デザインに、女性を差別するような意図はありません。しかしながら、「ロボットが女性型をしている」「それが掃除をしている」「ケーブルでつながれている」等の要素が相まって、女性が掃除をしているという印象(さらには女性が掃除をすべきだという解釈の余地)を与えたことについては、公共性の高い学術団体としての配慮が行き届かず、深く反省するところです。
また、このデザインの技術的な背景に関するご批判もいただきました。デザイナーがデザインに込めた意図は下記(※)の通りです。こうした人工知能の将来像は、想像しうる数多くの将来像のなかのひとつであると思います。人工知能を搭載したロボットが将来、日常生活で使われる際に、その外見はどうあるべきかというのは深い問題であり、さらに議論を重ねていきたいと思っております。
今回の表紙にはロボットが描かれておりますが、本来、人工知能という技術は、目に見えるものではありません。知能がどのように実現され得るのか、知識がどのように生成され処理されているのか、そもそも知能や知識とは何か、そこに身体性やインタラクション、言語、社会、ウェブなどがどのように関わるかという、いわば目に見えないものを研究するのが人工知能という学問分野です。したがって、表紙のデザインにあたっては、「見えないものを分かりやすく提示する」ことが最も難しい部分であり、今回はその部分で多数のご批判をいただいたと考えております。
編集委員会では、さまざまにいただいたご意見を受け止め、今後の改善につなげていきたいと考えております。また同時に、学会が新しい形で社会に発信していきたいという当初のビジョンを見失わず、多くの方に人工知能の技術や研究を知ってもらえるよう、新しい試みを続けていきたいと思っております。今後とも、編集委員会一同、尽力して参りますので、厳しいご意見を含め、引き続きご支援いただきますようよろしくお願いいたします。
デザイナーによるデザインの意図(※):
人工知能を描くにあたって、昭和な感じを出すことを意識した。なぜなら生活や人間自体は時間が経っても案外変わらず、最新の技術であっても、夢見たような未来ではなくアナログな部分が必ず残るからである。従来のAIの未来予想を考えてみても、そこまでの変化は起こっていない。
部屋は、和風な洋室、読書家のひとり暮らしで、掃除をする人がいないので掃除ロボットを使っている。女性型のロボットが本を読んでいるのは、自律性を示している。日本の家屋を掃除するには、やっぱりほうきがよい。背中のケーブルは電源で、電気自動車の高速充電で使われているようなもので、ここも従来技術がアナログ的に使われていることを表現している。
「擬人化」という表現技法を用いて、日常生活に人工知能が擬人化され溶け込む場面を描いた。このロボットはほうきや本と互換性があり、いままで人間が育んできた文化を置き換えるのではなく、いまの文化や生活を大切にしながら、そこに溶け込んでいく技術であって欲しいという願いを表現している。