私のブックマーク
位置ベースソーシャルメディア (Location-based Social Media)
若宮翔子(奈良先端科学技術大学院大学)
はじめに
ソーシャルメディアの発展,ならびに,スマートフォンのようなGPS搭載携帯端末の普及に伴い,特定の場所に関する情報が付与されたコンテンツが発信されている.
このようなソーシャルメディアは,位置ベースソーシャルメディア (Location-based social media: LBSN) や地理ソーシャルメディア (Geo social media) と呼ばれており(本稿では位置ベースソーシャルメディアと呼ぶことにする),
コンテンツの例として,Twitter のジオタグ付きツイート,Instagram やFlickr のジオタグ付き写真,Swarm (Foursquare) におけるチェックインなどが挙げられる.
位置ベースソーシャルメディアコンテンツを用いた研究は分析から応用まで幅広く行われている.
特定の場所に関する情報が付与されているコンテンツにおいて,その位置情報は必ずしも明確なもの(ジオタグ:緯度経度座標)であるとは限らない.特に,昨今はプライバシー保護の観点などから,多くのユーザが位置情報を非公開にしている.
このことから,たとえ明確な位置情報が付与されていない場合でも,曖昧な位置情報(コンテンツやプロフィール)をもとにしたプロファイリング(ユーザの居住地,イベント発生場所などを特定すること)やデータの補完に関する(位置情報が明らかな発言の量を増やす)研究が盛んに行われている.
また,異なるタイプの位置情報を組み合わせて利用するために,ジオタグとコンテンツにおける位置表現の差異を分析する研究から,応用(地理的・社会的イベント検出,地域特徴抽出,ナビゲーションなど)に至るまで,様々な研究が行われている.
本稿では,位置ベースソーシャルメディアコンテンツの分析や応用に関する研究をいくつか示し,研究に必要な情報について紹介する.
なお,地理データの一種とみなすこともできることから,本誌企画の私のブックマーク「GISシステムについて」も参照していただきたい.
代表的な論文・サーベイ論文など
位置ベースソーシャルメディアの性質を調査・分析した研究
Luke Sloan and Jeffrey Morgan. Who tweets with their location? understanding the relationship between demographic characteristics and the use of geoservices and geotagging on twitter. PLoS ONE, Vol. 10, No. 11, p. e0142209, 2015.
位置情報の利用に関する人口動態の差異を分析している.
Brent Hecht, Lichan Hong, Bongwon Suh, Ed H. Chi. Tweets from justin bieber’s heart: The dynamics of the location field in user profiles. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI), pp. 237–246, 2011.
Twitterのユーザプロフィールに記載された場所名に関して調査している.
Eunjoon Cho, Seth A Myers, and Jure Leskovec. Friendship and mobility: user movement in location-based social networks. In Proceedings of ACM SIGKDD international conference on Knowledge discovery and data mining (ACM KDD), pp. 1082–1090, 2011.
友人関係ネットワークがユーザの移動パターンに与える影響などについて分析している.
位置推定に関する研究
Oluwaseun Ajao, Jun Hong, Weiru Liu. A survey of location inference techniques on Twitter. Journal of Information Science,
Volume 41 Issue 6, pp. 855-864, 2015.
Twitterにおける位置推定技術をまとめている.
荒牧英治,若宮翔子.岩波データサイエンス4(ソーシャルメディアでインフルエンザ流行を捉える).岩波書店,2016.
位置ベースソーシャルメディアにおける位置推定研究を簡単にまとめている.また,位置推定により実現可能となる,詳細な粒度(都道府県単位など)での感染症サーベイランスへの応用についても紹介している.
応用に関する研究
Takeshi Sakaki, Makoto Okazaki, Yutaka Matsuo. Earthquake shakes Twitter users: real-time event detection by social sensors. In Proceedings of the International Conference on World Wide Web (WWW), pp. 851-860, 2010.
Twitterの発言から地震を検出・報告するシステムを提案している.
Alan Mislove, Sune Lehmann, Yong-Yeol Ahn, Jukka-Pekka Onnela, J. Niels Rosenquist. Pulse of the Nation: U.S. Mood Throughout the Day inferred from Twitter, 2010.
Twitterの発言から抽出した感情を時空間単位で集約し,その結果を変形地図により可視化している.
Daniele Quercia, Rossano Schifanella, Luca Maria Aiello. The shortest path to happiness: recommending beautiful, quiet, and happy routes in the city. In Proceedings of ACM Conference on Hypertext and Social Media (ACM HT), pp. 116–125, 2014.
ジオタグ付き写真に付与されたキーワードタグを活用して経路推薦する手法を提案している.
Ryong Lee, Shoko Wakamiya, Kazutoshi Sumiya. Geo-social media analytics: exploring and exploiting geo-social experience from crowd-sourced lifelogs. SIGWEB Newsletter Spring, Article 4, April 2014.
ジオタグ付きツイートを用いた地理的社会イベント検出,人々の振る舞いパターンに基づく地域特徴抽出,地域間の関係分析に関する研究についてまとめている.
ReJie Bao, Yu Zheng, David Wilkie, Mohamed Mokbe, Recommendations in location-based social networks: a survey. GeoInformatica, Volume 19, Issue 3, pp. 525–565, 2015.
位置ベースソーシャルネットワークにおける情報推薦技術をまとめている.
データセット
ここでは各位置ベースソーシャルメディア (Twitter, Instagram, Flickr, Swarm (Foursquare)) から提供されているデータ取得のためのAPIやWeb上で公開されているデータセット(2017年3月時点)を紹介する.
利用規約などについては,それぞれのリンク先を参照していただきたい.
Twitter API
Instagram API
Flickr API
Swarm (Foursquare) API
Swarm (Foursquare) におけるチェックインデータ取得API.
Stanford Location-based online social networks (Gowalla,Brightkite)
地理ソーシャルメディアの初期の研究でよく用いられていたデータセット.いずれも位置ベースソーシャルメディアサービスだが,Gowalla はすでにサービスを終了している.
国際会議・ワークショップ
位置ベースソーシャルメディアはソーシャルメディアの一種であるため,論文はWebやソーシャルメディアをはじめとする様々な国際会議やワークショップで発表されている.
また,位置情報を扱うという点から,地理情報システムに関する国際会議でも発表されており,位置ベースソーシャルメディアに関するワークショップも開催されている.
その他,地域特徴抽出のような応用の場合,都市コンピューティング (Urban computing) や都市計画 (Urban plannninng) に関するワークショップやジャーナルでも論文が発表されている.
ICWSM (International Conference on Web and Social Media)
Webとソーシャルメディアに関する国際会議.
ASONAM (IEEE/ACM International Conference on Advances in Social Networks Analysis and Mining)
ソーシャルネットワーク分析やマイニングにおける進歩に関する国際会議.
ACM Conference on Hypertext and Social Media (ACM HT)
ハイパーテキストとソーシャルメディアに関する国際会議.
WWW (International Conference on World Wide Web)
ウェブに関する国際会議.位置ベースソーシャルメディアに関する代表的な論文が発表されている.
ACM SIGKDD (International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining)
知識発見とデータマイニングに関する国際会議.位置ベースソーシャルメディアに関する代表的な論文が発表されている.
UbiComp (ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing)
ユビキタス系の国際会議.位置ベースソーシャルメディアコンテンツをほぼリアルタイムに実空間をセンシングするソーシャルセンサとして活用した研究なども発表されている.
ACM MM (ACM Multimedia)
マルチメディア系の国際会議.位置情報付きの動画像を活用した研究などが発表されている.
ACM SIGSPATIAL (ACM SIGSPATIAL International Conference on Advances in Geographic Information Systems)
地理情報システムにおける進歩に関する国際会議.
LBSN (International Workshop on Location-Based Social Networks)
位置ベースソーシャルメディアに関する国際ワークショップ.2009年よりACM SIGSPATIAL の併設ワークショップとして毎年開催されている.2011年はUbiCompの併設ワークショップとして開催された.
研究プロジェクト
位置ベースソーシャルメディアコンテンツの分析・活用に関するプロジェクトを紹介する.
Location-based Social Networks
Microsoft Research Asia のDr. Yu Zheng とDr. Xing Xie を中心としたプロジェクト.
LBSN(Location-Based Social Network)に関する研究
名古屋大学 石川研究室(データベース系)のプロジェクト.LBSNの各要素技術(LBSNオントロジーとそれに基づくセマンティックなLBSN技術の開発,LBSNのためのプライバシー保護技術,LBSNにおける高次イベント処理など)に関する研究を行っている.
100ninmap project
街歩きにモバイル機器や自然言語処理などのICT技術を導入し,独自の位置ベースソーシャルメディアを立ち上げ,位置情報付き自然言語データの収集および分析・活用を図るプロジェクト.データ分析により街の雰囲気を考慮した不動産検索システムなどの研究開発にも取り組んでいる(アプリ公開中:iPhone Android).
おわりに
本稿では,位置ベースソーシャルメディアに関する研究を行う上で必要と思われる情報源やデータセットなどを紹介した.
本稿で取り上げたように,プライバシー保護の観点などから位置情報が明らかになっていないコンテンツが多いという現状はあるものの,
位置ベースソーシャルメディアコンテンツの分析やその結果の応用にはまだまだ広がりの余地がある.
本稿がこの分野の研究を進める上で参考になれば幸いである.
謝辞
このような機会を与えてくださった,馬場雪乃先生(京都大学)と本誌編集委員会に感謝いたします.