Vol.29.No.5 (2014/09)汎用人工知能


私のブックマーク

汎用人工知能

市瀬龍太郎(国立情報学研究所)

荒川直哉(フリーランス)

はじめに

「汎用人工知能」は “Artificial General Intelligence(AGI)” の訳語であるが,個別の課題に対して設計されるのではなく,さまざまなスキルを習得しうるように設計されるという意味で「汎用な」人工知能を指す.人工知能分野は長らく個別の課題に対処する “Narrow AI” の研究、開発にあたってきたが,近年,国内外で汎用人工知能 への興味が復活してきている.また,汎用人工知能が実現し,その知能が人間を超えてしまうことによる「技術的特異点(=シンギュラリティ)」についても議論がはじまっている.本稿では,汎用人工知能とシンギュラリティについて、Web 上でアクセスできる参考情報を中心に紹介を行う.

汎用人工知能一般

汎用人工知能の一般的な解説としては,汎用人工知能の名付け親で,関連会議やOpenCog[1]プロジェクトなどを主宰している Ben Goerzel 氏の日本語の解説論文[2]を人工知能学会のサイトで読むことができる.また,英語であるが,同氏執筆のより新しく詳しい解説論文[3]もある.2014年5月に開催された人工知能学会大会オーガナイズドセッション「汎用人工知能とその社会への影響」で筆者らが発表した解説記事[4]も人工知能学会のサイトで読むことができる.発表スライドも多少の修正の後に公開[5]されている.
汎用人工知能を目指した推論システムNARS[6]を開発しているPei Wang氏によるArtificial General Intelligence – A gentle introduction[7]では,歴史的な状況や基礎が簡潔に解説されている.
その他、ここで紹介するものと重複する参考文献リストは,筆者らが運営する「汎用人工知能と技術的特異点」のサイト[8]に記載されている.

認知アーキテクチャ

汎用人工知能の実現には,認知アーキテクチャの研究が重要である[9].認知アーキテクチャとは,人間の総合的な認知機能をモデル化するものであり,人工知能の創成期より様々なモデルが研究・開発がされてきている.さまざまな認知アーキテクチャがこれまでに開発されてきているが,既存の認知アーキテクチャとして,たとえば下記のようなものがある.

ACT-R [10](プロダクションを中心とした認知アーキテクチャ)

ICARUS [11] (概念記憶とスキル記憶を中心とした認知アーキテクチャ)

LIDA [12] (全域的作業空間理論(Global Workspace Theory)に基づく認知アーキテクチャ)

MicroPsi [13] (心理学者Dietrich D?rnerのPSI理論に基づく認知アーキテクチャ)

OpenCog [14] (多数のモジュールの集合体によって構成されている認知アーキテクチャ)

Soar [15](長期記憶と作業記憶からなる古典的,記号主義的な認知アーキテクチャ)

SPAUN (Nengo) [16](脳全体をモデルとする認知アーキテクチャ)

この中のいくつかの認知アーキテクチャについては,筆者による解説が公開[17]されている.

認知アーキテクチャに関しては,認知システム財団[18]により「認知システムの進歩国際会議」が毎年開催され,人間レベルの知能実現のための認知アーキテクチャなどが議論されている.また,近年では生物にヒントを得た認知アーキテクチャという研究も注目されており,「生物からヒントを得た認知アーキテクチャ学会(BICA Society)[19]」が毎年開かれている.この学会では,様々な認知アーキテクチャの比較を行い,その結果を公表[20]している.日本でも人間の脳に学んで認知アーキテクチャを設計しようという試みが始まっており,そのための全脳アーキテクチャ勉強会[21]が開催されている.

学習

学習は汎用人工知能に必須な機能である. 機械学習については,別途,「私のブックマーク」でDeep Learning[22], 強化学習[23],学習[24]の記事があるので,そちらを参照していただきたい.また,近年の機械学習全般に関しては,朱鷺の杜[25]に様々な情報が集約されている.

汎用人工知能の文脈においては,いかなる環境下においても最適な戦略をとることができるようにするAIXI[26]モデルがよく研究されている.このモデルに関しては,小林らによる解説が人工知能学会誌29巻3号に掲載されている.

認知ロボティクス

汎用人工知能を実現するには,人間の身体性の観点からのアプローチもある.人間のような知能を持つ機械を作るということは,ロボットに人間並みの汎用的な知能を持たせるということであり,必然的に汎用人工知能の研究を伴う.こうした研究分野は認知(発達)ロボティクスと呼ばれている.ここでは,国内外の研究へのリンクをいくつか提示しておく.

ロボット動作を中心とした研究

大阪大学浅田研究室[27]

東京大学ISI研究室[28]

iCub[29]
言語獲得を中心とした研究

岡山県立大学岩橋教授 [30]

立命館大学創発システム研究室 [31]

Evolutionary Linguistics [32]
社会的知能を中心とした研究

社会的知能発生学研究会 [33]

VUB AI Lab [34]

Robot Cognition Laboratory [35]

汎用人工知能の今後

汎用人工知能がいつごろ実現するかの専門家の予測については,いくつかのWebページ[36,37]が参考になる.また,汎用人工知能実現に向けたロードマップについては,AIマガジン33巻1号で議論をされている[38].その日本語訳は,人工知能学会誌29巻3号に掲載されている.上述した OpenCog プロジェクトでも,汎用人工知能に向けたロードマップを作成している[39].

技術的特異点

汎用人工知能が実現し,機械の知能が人間の知能を超える時を技術的特異点と呼ぶ.技術的特異点で起こる問題点などについては,技術的特異点大学[40], Humanity+[41].オックスフォード大学人類の未来研究所[42]などいくつかの場所において議論が行われている.また,汎用人工知能実現後の世界については,SFの世界で多く取り扱われている.そのような世界を概観したい場合は,フィクションにおける人工知能の記事[43]が参考になる.

会議・コミュニティ・キーパーソン

汎用人工知能を標榜する国際会議としては,汎用人工知能学会[44]が2008年以降毎年催している汎用人工知能国際会議[45]がある.また,汎用人工知能に関する英語のメーリングリストもある[46].その他の情報源としては,英語になるが,Strong Artificial Intelligence[47] が高頻度で情報発信を行っている.日本語の情報源としては前述の「全脳アーキテクチャ勉強会」[48]および,筆者らが主宰する「汎用人工知能について語ろう!」[49]がある.また,筆者らを中心として,汎用人工知能に関して研究を行う汎用人工知能研究会の輪読会[50]も開催している.関連する情報を日本語で流すメーリングリスト[51]も著者らによって運用されている.
汎用人工知能のキーパーソンとして挙げられるのは,汎用人工知能の名付け親であるBen Goerzel氏[52],推論システムNARSの開発者であるテンプル大学Pei Wang氏[53],AIXIモデルのオーストラリア国立大学Marcus Hutter氏[54]らである.また,伝統的なAIも汎用人工知能に含まれ,本人は汎用人工知能を標榜していないが,SOARのミシガン大John Laird氏[55]やPaul Rosenbloom氏[56],ACT-Rのカーネギーメロン大学John Anderson氏[57]らもキーパーソンとして挙げられる.

おわりに

本稿では,汎用人工知能に関する情報源を概観した.読者の中で,この分野に興味を持った方がいれば,是非,このコミュニティに参加して頂きたい.読者が何らかの新しい知識をこの記事から得られれば幸いである.

  1. http://opencog.org/
  2. https://www.ai-gakkai.or.jp/wp/wp-content/themes/shinra-of-the-sun/pdf/228-233_293.pdf
  3. http://dx.doi.org/10.2478/jagi-2014-0001
  4. https://kaigi.org/jsai/webprogram/2014/paper-174.html
  5. http://www.slideshare.net/naoyaarakawa39/4-share-34819908/
  6. https://sites.google.com/site/narswang/
  7. https://sites.google.com/site/narswang/home/agi-introduction/
  8. http://www.sig-agi.org/
  9. http://dx.doi.org/10.1609/aimag.v27i2.1878
  10. http://act-r.psy.cmu.edu/
  11. http://cll.stanford.edu/research/ongoing/icarus/
  12. http://ccrg.cs.memphis.edu/projects.html
  13. http://micropsi.com/
  14. http://opencog.org/
  15. http://sitemaker.umich.edu/soar/
  16. http://nengo.ca/
  17. http://ri-www.nii.ac.jp/publications/WBA140718.pdf
  18. http://www.cogsys.org/
  19. http://bicasociety.org/
  20. http://bicasociety.org/cogarch/architectures.htm
  21. http://www.sig-agi.org/wba/
  22. https://www.ai-gakkai.or.jp/my-bookmark_vol29-no4/
  23. https://www.ai-gakkai.or.jp/my-bookmark_vol26-no3/
  24. https://www.ai-gakkai.or.jp/my-bookmark_vol16-no1/
  25. http://ibisforest.org/
  26. http://www.hutter1.net/ai/uaibook.htm
  27. http://www.er.ams.eng.osaka-u.ac.jp/asadalab/
  28. http://www.isi.imi.i.u-tokyo.ac.jp/
  29. http://www.icub.org/
  30. http://naotoiwahashi.jp/
  31. http://www.em.ci.ritsumei.ac.jp/
  32. http://emergent-languages.org/
  33. http://www.sociointelligenesis.org/
  34. http://ai.vub.ac.be/
  35. http://pfdominey.perso.sfr.fr/
  36. http://sethbaum.com/ac/2011_AI-Experts.html
  37. http://hplusmagazine.com/2011/09/16/how-long-till-agi-views-of-agi-11-conference-participants/
  38. http://dx.doi.org/10.1609/aimag.v33i1.2322
  39. http://opencog.org/roadmap/
  40. http://singularityu.org/
  41. http://humanityplus.org/
  42. http://www.fhi.ox.ac.uk/
  43. http://ja.wikipedia.org/wiki/フィクションにおける人工知能
  44. http://www.agi-society.org/
  45. http://agi-conf.org/
  46. https://www.listbox.com/member/archive/303/
  47. https://www.facebook.com/groups/strongartificialintelligence/
  48. https://www.facebook.com/groups/whole.brain.architecture/
  49. https://www.facebook.com/groups/sig.agi.jp/
  50. http://www.sig-agi.org/sig-agi/
  51. http://www.sig-agi.org/mailing_list/
  52. http://wp.goertzel.org/
  53. http://www.cis.temple.edu/~pwang/
  54. http://www.hutter1.net/
  55. http://ai.eecs.umich.edu/people/laird/
  56. http://cs.usc.edu/~rosenblo/
  57. http://act-r.psy.cmu.edu/peoplepages/ja/