Vol.18 No.6 (2003/11) ナレッジマネジメント


私のブックマーク

ナレッジマネジメント

1. はじめに

ナレッジマネジメントは学術的にもビジネス的にも様々な視点から持続的に関心をもたれています。人工知能の視点からの学術的解説は人工知能学会誌Vol.16,No.1(2001年1月)でなされています。ナレッジマネジメント一般に関する膨大な研究成果の蓄積をWeb情報から読み取ることはとても困難ですので,人工知能研究者の視点からナレッジマネジメントに対する問題意識をブックマークという形で提示してみたいと思います。

2. ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントの全体像を理解するには太田秀一「KM/CRM 学習ガイド」が役立ちます。初級,中級,上級に分けてトピック単位でナレッジマネジメントに関する解説がなされており,もちろん,ダベンポート氏,野中氏の理論などに関する説明もあります。現場レベルの問題から理論まで,また現状での問題点など,ナレッジマネジメントに関して自分なりの俯瞰図を作るうえで大いに参考になります。ポータルとしては,英語ページですがKM Networkに膨大なリンクがあります。その中にある インデックスページが適当な出発点になると思います。他に,David Gurteen 氏の個人ページヨーロッパのKMコミュニティのページなども,リンクがよく整理・更新されています。また,最近注目を集めているコミュニティオブプラクティスと野中氏の「場」の関係についての野村氏(富士ゼロックス)の記事も参考になります。
[2-1] 太田秀一「KM/CRM 学習ガイド」
http://www.cio-cyber.com/pj/KMCRM_Study_Guide.html
[2-2] KM Network
http://www.brint.com/km
[2-3] David Gurteen 氏によるKnowledgeManagementに関する情報ページ
http://www.gurteen.com/
[2-4] ヨーロッパのKMコミュニティ
http://www.knowledgeboard.com/
[2-5] 野村氏(富士ゼロックス)によるコミュニティオブプラクティスと野中氏の「場」の関係に関する記事
http://hrm.jmam.co.jp/hrm/keyconcept/kc11_1.html
[2-6] 日本ナレッジマネジメント学会
http://www.kmsj.org/

3. ナレッジマネジメント支援ツールの実例

上で紹介したページは,我々(人工知能研究者)からみると,ナレッジマネジメントに関する興味深い問題の宝庫です。しかし,曖昧で混沌としている問題ばかりで,どこから,どのように手をつけたらいいか途方に暮れがちです。そのような場合はナレッジマネジメントの情報ツールの実例が参考になります。以下に特に説明が充実しているページを挙げておきます。ActiveKnowledge(NEC),
ConceptBase(ジャストシステム)は,典型的なドキュメントマネジメント機能を備えており,また,それぞれが特徴的な先進機能をもっています。富士ゼロックス社のKDIは包括的・実践的なコンサルティングサービスを提供しており,ホームページでは野中理論との関連も説明されています。TRIZページと失敗知識データベースは,組織(固有)のナレッジマネジメントの範疇に属しませんが,これらのページで示されるビジョンを読むと,成功事例・失敗事例を体系的に蓄積することによって,新しい知識が生み出しうること,そして,それに情報技術が大きく貢献しうることがわかります。また,ナレッジマネジメントの実践には,ビジネスプロセスとの連携が重要ですが,ビジネスプロセスのモデリングとマネジメントを包括的に支えるツールセットの一例としてADONIS(BOC社)のページが参考になります。
[3-1] NEC ActiveKnowledge:さまざまな視点から知識を検索できるナレッジマップ機能,ナレッジ活用状況の分析・把握を支援する機能を備える。
       http://www.sw.nec.co.jp/products/soft/knowledge.html
[3-2] ジャストシステム:強力なテキスト情報処理機能を備えたConceptBaseを中核としたナレッジマネージメントソリューションを提供。
http://www.justsystem.co.jp/km
[3-3] 富士ゼロックス社:KDIは創造的な個と場のトータルデザインのコンサルティングサービスを提供。ソフトウェアとしてはドキュメントの統合マネジメントシステムのDocuShare がある。
http://kdi.fujixerox.co.jp/http://www.fujixerox.co.jp/product/docushare/
[3-4]大阪学院大学中川研究室 TRIZホームページ:Trizは発明問題解決の理論。発明事例の概念構造を分析して蓄積し,発明の種を提供する。このページはTRIZの理解と普及のための情報公開の場になっている。
http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/index.html
[3-5]失敗知識データベース:科学技術分野の事故や失敗の事例の分析結果のデータベース(科学技術振興機構)。
http://shippai.jst.go.jp/

4. ナレッジマネジメントに関する人工知能研究

ナレッジマネジメントの支援を標榜する情報システムについて「ドキュメント管理システムにすぎないのではないか」という批判的な質問をよく耳にします。野中理論で言うところの形式知に関する知識変換プロセスの支援に限定されていて,知識創造に重要な暗黙知に関するプロセスの支援が欠落しているという批判もあります。この疑問や批判は,人工知能研究者としてナレッジマネジメントの問題にアプローチする際には心にとめておく必要があります。人工知能分野では,知識の根底にある構造や,知識レベルのコミュニケーションの仕組みを明らかにし,それに基づいた知的機能を研究し,成果を蓄積してきています。ナレッジマネジメントに関する人工知能研究では,そのような研究成果を,形式知・暗黙知の変換プロセスの連鎖を促し,そこでの協同的な創造的な人の活動を支えることに活かすことが目的になります。そのため,ユーザモデル(アウェアネス情報)の可視化,テキスト(データ)マイニング,エージェント技術,オントロジー工学,セマンティックウェッブといった,人工知能の様々な研究課題が関連します。それぞれの研究課題については,既にブックマークの紹介がなされていますので,ナレッジマネジメントとの関連性を考えながら,もう一度,目を通してみると良い研究アイデアが浮かぶかもしれません。以下に,ナレッジマネジメントに関する研究と開発事例のうち興味深いものを紹介します。また,蓄積する「知識」をモデル化することにくわえて,組織の中で知識が生まれる「プロセス」のモデル化も重要です。3で紹介したKDIやADONISはそのような視点で開発されたサービス・製品であると言えます。プロセスモデリング指向のナレッジマネジメントを考えるうえで基礎になりうる人工知能系の研究プロジェクトとしてはTOVEプロジェクトがあります。
[4-1] 北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科;研究科としてナレッジマネージメントに取り組んでいる。
ナレッジマネージメント方法論と実践(梅本研究室),知識創造支援(國藤研究室杉山研究室知識科学教育センター),など。
http://www.jaist.ac.jp/ks/index.html
[4-2]大阪大学溝口研究室:知識の体系化と知識流通支援技術に関する研究。
http://www.ei.sanken.osaka-u.ac.jp/japanese/topic/KS/fbrl-j.html
[4-3] MMMプロジェクト:オントロジー構築技法とセマンティックウェブ技術への展開を目指す研究プロジェクト。
http://panda.cs.inf.shizuoka.ac.jp/mmm/
[4-4] 野村直之氏(法政大学):XMLによるビジネスモデル開発,ナレッジメネジメントを推進している野村氏のコメントを掲載したページ。
http://xml.fujitsu.com/jp/talk/2002_07_01_b.html
[4-5] OntoWeb : オントロジーを基礎にしたセマンティックウェッブ技術を用い,情報検索,ナレッジマネジメント,e-Commerceに関する研究コミュニティ。
http://ontoweb.aifb.uni-karlsruhe.de/
[4-6] OntoKnowledge:オントロジーベースのナレッジマネージメント研究プロジェクト。ツール群のリポジトリもある。関連プロジェクトのリンクも充実している。
http://www.ontoknowledge.org/index.shtml
[4-7] KMi: The Open University(英)のKnowledge Media Instituteのホームページ。多数のプロジェクトを強力に推進している。
Scholarly Ontologies Project:学術オントロジーの構築と学術コミュニティの交流支援ツールの開発を目指してKMiで行われているプロジェクト。
http://kmi.open.ac.uk/home-f.cfm
[4-8] DFKI knowledge Management Dept.: ドイツDFKIのナレッジマネジメント研究部局。ナレッジマネジメントのための人工知能技術の開発を推進している。
http://www.dfki.uni-kl.de/km
[4-9] Ulrich Reimer: SwissLife社で高度で実用性の高いナレッジマネジメントツールを開発し実績をあげた(現在,プロジェクトのページが失われている)。
http://www.fmi.uni-konstanz.de/~reimer
[4-10] TOVE Ontology Project:組織に関する包括的なオントロジーの構築とモデリング手法の開発を目指すプロジェクト。
http://www.eil.utoronto.ca/enterprise-modelling/tove

5 おわりに

ナレッジマネジメントに関する研究は,組織としての,知識の創造・継承活動を活性化させることを目指しています。その基礎となるのは組織構成員の知識と能力です。そのため,学習・訓練支援に関する研究(e-Learning,組織学習)と密接な関係を持っており,学習支援を包括するナレッジマネジメント支援に関する研究にも関心が集まっています。この原稿の作成の段階では,掲載するに足る内容のページを見つけることができませんでしたが,多数の研究成果が国際会議で発表され,また論文として論文誌に掲載されるようになってきています。オントロジー,セマンティックウェッブ,エージェント,学習支援技術を,統合し,知識の創造・継承に関する様々な活動を支援する技術の開発が今後,急速に進むものと考えられます。これに関しては,今後も適時ブックマークをアップデートしていくつもりです。

謝辞

有益なご助言をいただいた和泉憲明氏(産総研),國藤進先生,林雄介氏(北陸先端大)に感謝いたします。
(北陸先端科学技術大学院大学 池田満 ikeda@jaist.ac.jp)