学生企画


今年度の全国大会では昨年に引き続き,人工知能学会 学生PC委員による学生企画を実施いたします.

6月10日(木) 11:00~12:40 K会場

テーマ
「観点に基づく研究のデザイン~主観から客観へ~」

概要

今日の学術研究の文脈では,相互評価(ピアレビュー)は,学問の積み上げの根幹をなす仕組みとなっています.このとき,自身が大事だと思う個人的な評価観点(主観)と,相対的に多くの読者による合意が容易である,共通化された評価観点(客観)の2つの観点が存在します.

研究成果の刊行を目的とした研究サイクルの中では,個人の研究テーマの創出およびそれらに対する興味や独創性に基づく主観的な洗練を経たのち,最終的には他者による客観的な評価にさらされることになります.このとき,新たに創出された主観と価値判断の共有された客観との間のバランスをとることが重要だと考えられます.したがって,研究者は各々の研究テーマに対する主観を大事にして研究を進めるとともに,自分の成果物に対する多様な客観的評価もまた考慮して研究をデザインしていくことが求められます.

そこで今年度の学生企画では,将来,AI研究者となる学生や若手研究者が独創的な研究遂行とその公表していくために,研究デザインにおける主観と客観の位置付けを見つめ直す機会を創出します.

具体的に,主観については「何が研究を駆動するのか」というような講演者個々人の発想や背景を問い,客観については「他者に受け入れられるためにどのように表現しているのか」というような講演者個々人が気を付けている自分の研究テーマの表現方法を講演者に問うことを予定しています.

本セッションは,上記テーマに関する招待講演に加え,参加者の皆さまからのご質疑・ご意見を反映させられる形式で議論を進行したいと考えております.

セッションの詳細は,人工知能学会2021年度全国大会ホームページにて,随時お知らせしていきます.

講演者

柏原 昭博 氏

柏原 昭博 氏
(電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報学専攻 教授)

学習支援システム研究では,人の学びについて知ることがなにより重要であるとの観点から,学びのモデルデザインに取り組んできました.特に,人の学びを分析して解明することよりも,意図的にどう学ばせたいかという観点からモデルをデザインし,モデル通りに学ぶことができるシステムを開発してきました.こうした研究アプローチは,様々な情報通信技術によって多様化してきた学びの様相・形態をモデル化する上で今後有望になると考えられます.一方,主観的にデザインしたモデルをいかに客観的に評価するのかについては,開発システムを実践的に利用してもらい,そこから得られる学習効果を示すことが一つのやり方になり得ると考えられますが,理論的にもモデルの必要性や重要性に対する理解や共感を得ていくことが極めて重要と考えています.本講演では,これまでの学びのモデルデザイン研究を概観しながら,日頃感じてきた研究成果の評価を得る上での問題点や難しさなどについてお話ししたいと思います.

大澤 博隆 氏

大澤 博隆 氏
(筑波大学 システム情報系 助教)

ヒューマンエージェントインタラクション(HAI)は人間の持つ社会性に働きかけ,人間に資するシステムを作りだす学問分野であり,人工知能,認知科学,言語学,シミュレーション,ロボティクス,コンピュータグラフィックス,バーチャルリアリティ,遠隔存在感,倫理学,哲学,社会学など,多くの学問との接点を持つ分野である.HAIはエージェントを媒介として人間社会を人工的に拡張する研究であり,既存の価値観をひっくり返すような大胆な発想と,それを人間社会に抵抗なく受け入れるかたちで実装する繊細な調整の両方が求められる分野であると言える.本発表ではHAI研究を遂行する上で,どのような観点から研究テーマを思いつくと大胆な発想に迫れるか,また,それを社会に接続する上で,どのような客観視点を持つべきかを議論する.


皆さまのご参加をお待ちしております.