教養知識としてのAI

【記事更新】教養知識としてのAI 〔第1回〕AIってなに?


第1回
AI って何?
What’s AI

市瀬 龍太郎 国立情報学研究所,人工知能学会編集委員長
Ryutaro Ichise National Institute of Informatics. /
Editor-in-Chief, Jounal of the Society for Artificial Intelligence.

Keywords: artificial intelligence, reasoning, learning, strong AI, weak AI, narrow AI, artificial general intelligence.

【連載開始にあたって】 昨今の人工知能ブームにより,社会的に人工知能技術に大きな関心が集まっています.そのため,人工知能学会には,さまざまな分野の方が新たな会員として多数参加してきています.従来は,学会誌において,人工知能の専門家のみを対象として,最新技術の解説などの記事を提供してきました.しかし,新たな読者層が増えたため,従来型の記事だけでは,読者のニーズに十分に応えられないと考え,新たな企画を編集委員会で練ってきました.そこで,これまでの学会誌に足りない視点として,二つのタイプの記事が必要と考えました.一つ目は,すそ野の拡大に伴い,人工知能の専門家でも全貌が把握しにくくなっているため,人工知能技術各種に関する全体像を把握するための概観的な解説記事です.もう一つは,現在,人工知能技術は,さまざまなところで応用が試みられていますが,そのような実用化技術とその背景にある人工知能技術の関係がわかりにくくなっているため,企業などで使われる人工知能応用技術に関する解説記事です.このような記事は,従来からの読者を含めた学会員の知見を広め,さらに,人工知能技術の理解を社会に広めるためにも必要と判断し,新たな記事企画を始めることとしました.
 この企画では,人工知能技術を俯瞰し,多様な技術を気軽に理解できるようにするために,漫画による解説記事8 ページ,および技術解説記事2ページ程度により構成することとしました.漫画による解説記事は,人工知能学会の担当者が取材し,技術の概要がわかるような記事を漫画で作成します.漫画だけでは,技術的な背景を十分に説明することが難しいため,別途,技術解説記事を付けることとしました.技術解説記事は,学会監修のもとで,学会担当者または取材先の担当者が中心となって,技術の詳細を解説する記事を作成します.
 また,新たな試みとして,企業のもつ実用化技術を取材して記事にすることにし,いくつかの企業にご協力をいただくことにしました.その関係で,技術解説記事は,取材先の企業・団体がもつ技術の解説がありますが,取材先の技術のみではなく,幅広い視点からの基礎的な解説を目指し,内容に関しては,企業・団体の単なる宣伝記事にならないように,学会のほうで責任をもって監修を行っております.
 今回は,教養となるような人工知能の知識を解説するために,高校生以上であれば,十分に理解できるように心がけて記事の作成を行いました.身近な人と共有しながら,記事を楽しんでいただければ幸いです.

1.人工知能とは?

 そもそも,人工知能(AI:Artificial Intelligence)とは何であろうか.一般的には,映画などに出てくる仮想のロボットや対話を行うプログラム(Siri,Google Assistant, …),将棋や囲碁などのゲームをプレイするプログラムなどのイメージをもっていることだろう.これらの答えは,ある意味,正解を示しているが,改めて「人工知能」とは何かを問うと,戸惑う人も多いだろう.
 実は,「人工知能とは何か」という問いに対する答えは,単純ではない.人工知能の専門家の間でも,大きな議論があり,それだけで1 冊の本となってしまうほど,見解の異なるものである.そのような中で,共通する部分を引き出して,一言でまとめると,「人間と同じ知的作業をする機械を工学的に実現する技術」といえるだろう.ここでのポイントは,「知的作業をする機械」と,「工学的に実現する」という点である.
 まず,簡単な後者の「工学的に実現する」という点から説明しよう.ここで「工学的に実現」というのは,実際に役立つものをつくるという意味が含まれている,深層学習(Deep Learning)に関して,一般の報道などで,「人間の脳と同様の仕組みを用いた深層学習」といった解説を見ることがあるが,人工知能の技術の一つである深層学習も工学的な技術である.そのため,人間の脳から最初のヒントは得ているが,工学的に有用な方向で発展した結果,現在の深層学習技術は人間の脳とは似ても似つかないものになっている.つまり,「工学的に実現する」とは,人間の知能と同じように動作すれば,人間と同じ仕組みでなくても構わないことを含意している.しかし,人間の仕組みは,知能を実装しているため,人工知能をつくる際の重要なヒントも多く含まれている.
 次に,前者の「知的作業をする機械」という点を説明する.「知的作業」というのは,「力作業」とは対照的に,ビジネスにおける意思決定といった知能が作用する作業のことを指す.そのため,冒頭に出てきた対話や,将棋のプレイなどは,確かに知的作業であり,それを機械(コンピュータ)が行えば,人工知能と言えるであろう.しかし,ロボットにおいては,腕や足といった物理的なハードウェアとそれをどのように動かすかというソフトウェアは分けて考える必要があり,一般的には,ハードウェア自体は機械工学の技術,それを動かすためのソフトウェアが人工知能の技術となる.
 上記の説明で,一点,重要な部分の議論が抜けている.何が「知能」かという点である.人工知能の議論で一番難しい部分が,この「知的作業」を遂行する「知能」とは何かという点である.実は,「知能」が何かというのは,定義が難しく,考え方も時代とともに変化している.昔は,計算機言語をコンパイルする作業を人間が行っていたため,それを代替する「人工知能」をつくることが試みられていた.しかし,それがいったん,機械で自動的にできるようになると,それが当たり前になってしまい,もはや,誰も「人工知能」とは呼ばないようになっている.つまり,人間がやっている複雑で難しい作業には知能が必要であるが,いったんそれが機械で当たり前のように実現できるようになってしまうと,もはやそれを知的作業と呼ばず,その作業をこなしても人工知能と呼ばなくなってしまうのである.そのため,人間にしかできない知的な作業の代替方法を永遠に模索する学問が人工知能ともいえるのである.

2.推論と学習

 人間は,現在もっている知識から,新しい知識を生み出すことができる.このようなプロセスを推論と呼ぶ.代表的な推論として,三段論法が知られている.例えば,「すべての人間は死ぬ」,「ソクラテスは人間である」という二つの知識があったときに,「ソクラテスは死ぬ」という新たな知識を人間は導き出すことができる.このような推論は,ランダムに新しい知識を生成しているのではなく,一定の法則があることが知られている.推論は,人工知能の世界で長年取り組まれてきた課題の一つであり,近年では,確率と組み合わせて推論を行う方法が広く用いられている.
 新たな知識というのは,学習によっても生成することができる.人間は,学習能力をもち,知識を新たに獲得することができる.例えば,人間の子供は,ネコを見た際に,親から「ネコがいるよ」と教えてもらうことにより,ネコにはとがった耳があるなどの特徴を学習し,次にネコを見た際に,そこにいるのがネコと識別する知識を学習できる.そのような学習能力をもつ人工知能を実現することを目指すのが機械学習である.しかし,機械は,人間と異なり,基本的に身体がないため,人間のように経験から学習することができない.そのため,機械の学習では,経験の代わりに,データを用いる.
 機械学習において,学習の枠組みとして,さまざまなものが考えられているが,その中で「例からの学習」が一般的に広く利用されている.機械に対して例を与えることで,その例に共通する特徴を知識としてデータから抽出するのが,例からの学習の大まかな枠組みである.例えば,ネコを識別する知識を得るためには,大量のネコの画像とネコ以外の鶏などの画像が与えられることにより,ネコに共通する特徴である4 本脚,とがった耳など識別に有用な特徴を選別する一方で,白い色などは鶏にも見られる識別には役立たない特徴として無視することで,識別に役立つ特徴を知識として学習する.

3.強い人工知能と弱い人工知能

 人工知能を議論する際に欠かせない話題の一つとして,人工知能は意識をもち得るかという点がある.意識をもち意味を理解する人工知能は,強い人工知能と呼ばれ,しばしばSF の世界に登場する.一方,人間の思考を表面的に模倣するような人工知能は,弱い人工知能と呼ばれ,現在,世界に存在する人工知能は,このカテゴリーに属する.人工知能が意識(心)をもち得るかについては,そもそも人間がもつ意識や心とは何かという問題について,深く考えていく必要がある.

4.特化型人工知能と汎用人工知能

 人工知能の歴史を振り返ると,当初の人工知能は,人間の知能と同様に領域やタスクに依存しない汎用的な知的処理を機械で実現することを目指していた.しかし,当初の期待とは異なり,研究が進むにつれて,知能の複雑さが明らかとなり,しだいに特定の領域で使える人工知能の開発にシフトしていった.例えば,将棋を指す人工知能は,将棋という領域に特化して開発されたものである.このような特定の用途に使われる人工知能は,特化型人工知能(Narrow AI)と呼ばれ,現在でもさまざまな領域で研究されている.しかし,将棋に特化した人工知能は,将棋を指すのが強くても,似たようなゲームであるチェスをプレイすることはできない.人間の場合は,将棋のコツがわかっているプレーヤは,似たようなゲームであるチェスに対しても,知識を転用してプレイすることができる.一方,汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)は,人間のように,さまざまな状況,問題に対応できる汎用性をもつ人工知能で,特化型人工知能の対極にある概念の人工知能である.
 汎用人工知能は,さまざまな領域・タスクに適用できるという点で,従来の主流である特化型人工知能と比べると強力な人工知能である.そのため,強い人工知能としばしば混同されることがある.しかし,汎用人工知能は,領域やタスクに依存しない汎用性に着目して分類がなされており,強い人工知能,弱い人工知能を区分する意識があるかという軸とは,全く異なる軸で分類されている点に注意が必要である.