【お知らせ】人工知能学会設立40周年にあたっての提言


人とAIが共生する社会の実現に向けて

人工知能学会は今年設立40周年を迎えた.40年前は第2次AIブームの真っ只中であった.しかし,この40年間におけるAIの加速的な進展,とりわけ近年の生成AIは,社会,産業,教育,行政,安全保障など,あらゆる領域に抜本的な影響を及ぼす基盤技術へと発展し,人間の知的活動や社会の仕組みに大きな変化をもたらしつつある.一方で,我が国は少子高齢化に伴う労働力不足や,研究開発力・イノベーション力の国際的立ち位置の低下,教育の変革,法制度やガバナンスの整備遅れ,そして安全保障や環境負荷への対応など,複合的な課題に直面している.AIはこれらの課題に対する有力な解決手段となり得るが,利活用の在り方を誤れば依存による思考力や創造力の衰退,社会的格差の拡大などを招くおそれがある.このような認識のもと,人工知能学会は,人間の尊厳,文化の多様性,社会の持続可能性を重視し,人とAIが共生する社会の実現に向けて,以下の4つの柱を提言する.

  • 第一に,独創的なAI研究と持続可能な研究基盤の強化である.我が国のAI研究は,単に既存技術を追随するだけでなく,日本発の独創的な研究を生み出す方向へ進まなければならない.そのためには,攻めの取り組みとしての,失敗を恐れず挑戦する研究文化,若手研究者を支える環境,長期的視点に立った研究支援が必要である.また,守りの取り組みとしては,日本社会に根ざした信頼できるAIを実現するため,経済安全保障の観点からも,独自の基盤モデル構築やデータセンター・計算資源の強化を進めるべきである.加えて,AIの発展を持続可能なものとするため,省電力なアルゴリズムや高効率な計算基盤など,グリーンAIの推進も不可欠である.
  • 第二に,人間の知性と学びを支えるAI活用の確立である.AIは人間の知的活動を支える有力な手段である一方,過度な依存は思考力や判断力の低下を招くおそれがある.とりわけ若年層においては,自ら問い,考え,試行錯誤する経験が必要不可欠である.AIは人間の思考を代替するものではなく,それを支えるものとして活用されなければならない.教育現場への導入に際しては,教員や保護者による支援を前提に,学習者の主体性を損なわないよう慎重にAIの利活用を進めるべきである.
  • 第三に,公共性・安全保障・倫理に基づく責任あるAIの推進である.AIは軍民両用のデュアルユース技術であり,安全保障との関係を避けて通ることはできない.防衛,サイバーセキュリティ,重要インフラ保護などにおいてAIの活用可能性が高まる一方,その利用には,人権,平和,民主主義,国際秩序との整合といった重要な論点が伴う.ゆえに,AIの公共的利用と安全保障上の研究開発と運用については,盲目的に否定したり過度に萎縮することなく,倫理的・法的・技術的観点を含めた総合的かつ国民的な議論を深めた上で決定すべきである.
  • 第四に,社会課題解決とAI共生社会に向けた制度基盤の構築である.人口減少・少子高齢化が進む我が国において,AIは介護,物流,製造,地域インフラなどの分野で社会を支える重要な技術となる.AIとロボティクスの社会実装を進めることで,我が国は課題解決先進国として新たなモデルを示し得る.同時に,雇用や産業構造の変化に対応するため,問題解決やイノベーションにAIを活用できる人材への移行を支えるリスキリングを強化しなければならない.また,AI利活用に関わる著作権や責任の所在,透明性,公正性などに関する法制度とガバナンスを整備し,イノベーションの活性化と権利保護を両立する社会制度を構築する必要がある.

AIは「人間に取って代わる存在」ではなく,「人間の知性と創造性を拡張し社会の持続可能性を支える技術」である.人工知能学会は,設立40周年という節目にあたり,研究者,技術者,教育者,政策立案者,産業界,市民社会との対話をさらに深め,AIと人とが共により良い未来を築くための知の基盤として,その責務を果たしていく.本提言が,我が国におけるAIの健全な発展と社会実装に向けた議論の一助となることを期待する.