Vol.23 No.6 (2008/11) ヒューマンコミュニケーション支援


私のブックマーク

ヒューマンコミュニケーション支援

Human Communication Support
東京大学大学院工学系研究科 西原陽子

1.はじめに

大辞林にてコミュニケーションは「人間が互いに意思・感情・思考を伝達し合うこと.言語・文字その他視覚・聴覚に訴える身振り・表情・声などの手段によって行う.」と定義されています.様々な手段を用いることからから,コミュニケーションに関する研究は情報学,社会心理学,認知科学など,複数の分野で研究が進められているように思います.例えば文部科学省の特定領域研究のプロジェクトの一つである「情報爆発時代におけるヒューマンコミュニケーション基盤」を見ると情報学でくくられているとはいえ,様々な分野の研究者が集まって研究を進めていることが分かります.

2.ヒューマンコミュニケーション支援研究の分類

ヒューマンコミュニケーション支援に関する研究は

  • 人のコミュニケーションの特性を理解する研究
  • 理解した特性を支援する通信技術に関する研究

と,その他に分類できると考えています.前者は実世界やオンラインの世界における人のコミュニケーションを分析する研究や会話やコミュニケーション行動を記録するためのシステムに関する研究が相当しますし,後者には福祉ロボットや会話ロボットが相当します.人文・社会心理学,認知科学の分野では前者のコミュニケーション特性を理解するための研究がよく見られ,情報学では両方の研究が見受けられます.

人とロボットのコミュニケーションを扱う研究もありますが,本稿ではヒューマンコミュニケーションに関する研究をする上で参考になるであろうリンクを情報学,人文・社会心理学,認知科学の分野から抽出して紹介したいと思います.

以下では,まず情報学に関するリンクをまとめます.
その後,人文・社会心理学,認知科学に関するリンクを紹介します.

3.情報学に関するリンク

情報学に関するリンクをまとめます.

3-1. 国外のリンク

国際会議のうち,Computer Supported Cooperative Workに関する会議としては

があります.計算機や携帯電話などのデバイスを用いたコミュニケーション特性を分析する研究を調査できます.評価実験にて質的な評価を行う際にその手法が参考になります.CSCWは隔年でアメリカにて開催されます.CSCWが開催されない年はECSCWがヨーロッパにて開催されます.

他にも

があります.GROUPでは主に協調行動の分析に関する研究,CSCLでは主に協調学習に関する研究を調査することができます.これらの会議ではConversation and Referential Communicationや,Formation of Groups, Teams, and Communitiesのセッションがあり,関連する研究を調査することもできます.

ヒューマン・コンピュータ・インタラクションに関する会議としては

があります.CHIは毎年開催され,それぞれの研究者がインタフェースのデモンストレーションを行っており,それをWebで検索することもできます.HCIIは非常に多くの発表がなされるので,セッション名を俯瞰すると研究分野の状況を知る事ができます.これらの会議では,Multimodal Interaction, Collaboration at Work, Ethnograpyのセッションがあり,コミュニケーションをとる人間の特徴を広く調査することができます.

自然言語処理に関する会議としては,

があります.これらの会議では,Multimodarity, Discourse and Dialogueのセッションで発表される論文が参考になり,談話分析,会話分析,機械学習に関する研究を調査する事ができます.

ジャーナルとしては

があります.前者はCSCWに関する論文を調査できます.後者ではではCHIに関する論文を調査できます

ユビキタスコンピューティングに関する論文であれば,

にて探すことができますが,同じ内容の論文でも国際会議で発表される方が速いと思われます.

3-2. 国内のリンク

人工知能学会では,論文誌にてコミュニケーション支援をテーマとした論文を調査することができ,学会誌では「コミュニケーションと人工知能」特集(Vol.8,No.6)を参照することができます.ことば工学研究会では「言語感覚とコミュニケーション」を研究テーマの一つに扱っており,言語・音声理解と対話処理研究会では「対話モデル,コミュニケーションモデル,マルチモーダル・インタラクション」などを研究テーマに扱っています.

電子情報通信学会学会誌では「コミュニケーション支援」「情感のコミュニケーション」に関する特集が組まれています.和文論文誌Dではコミュニケーションに関する研究が多数見られます.ヒューマンコミュニケーション基礎研究会では人間のコミュニケーションの特性を理解し,支援するための通信技術に関わる基礎的な研究が多数見られ,ヴァーバル・ノンヴァーヴァル・コミュニケーション研究会では,人間同士のコミュニケーションを支える,言語・非言語情報の役割に焦点を当てた研究が多数見られます.

ヒューマンインタフェース学会では,論文誌にてコミュニケーション支援に関する特集号が3回組まれています.研究会シンポジウムも開催され,活発な議論が進められています.他にも,情報処理学会論文誌で関連研究を調査できます.ヒューマンコンピュータインタラクション研究会ではオンラインコミュニティに関する研究を調査できます.情報コミュニケーション学会では教育の現場で生じている情報機器を介したコミュニケーションでおこる問題点を解消するための研究を調べることができます.

4.社会心理学に関するリンク

社会心理学に関するリンクをまとめます.

4-1. 国外のリンク

社会心理学に関するリンク集としてSocial Psychology Networkがあります.ジャーナル,研究チーム,国際会議の情報がまとめられています.

国際会議としては次のものがあります.

ICAでは会話やボディーランゲージなど,実際に行われた人のコミュニケーションを記録して,それを分析した研究が多いです.Creating communication,Communication and Cultureなどのセッションで教育現場や家庭におけるコミュニケーションの分析に関する研究を調査できます.他のセッションとしてAdvertising, Broadcastingもあり,広告やメディアを介したコミュニケーションの分析に関する研究を調査できます.NCAやPACAでは,広く対人社会心理学に関する論文を調査することができますが,前者の方が良い研究が多いように思います.EACHでは医療現場でのコミュニケーション特性に関する研究を調査できます.取りにくい医療現場でのデータを扱っている点で貴重な研究が多いと思います.

ジャーナルには

があります.これらのジャーナルでは対面でのコミュニケーションではなく,オンライン上のコミュニケーションに関する論文を調査することができます.

社会心理学に特化したジャーナルとしては,British Journal of Social PsychologyPersonality and Social Psychology ReviewAsian Journal of Social Psychologyがあります.Patient Education and Counselingではカウンセリングでのコミュニケーションを調査できます.

4-2. 国内のリンク

対人社会心理学では,
日本社会心理学会原著論文大会論文集があります.大会論文集はページ数は少ないですが,さまざまな分野の論文が含まれているので,短期間で分野の把握が可能と思われます.日本教育心理学会教育心理学研究では教育面でのコミュニケーションを社会心理学で扱った研究が見られます.

日本コミュニケーション学会では,論文誌「ヒューマン・コミュニケーション研究」にて教育コミュニケーションを扱った研究を参照することが可能です.対人社会心理学研究では,対人社会心理学に関する研究を調査することができ,他にはヘルスサイエンス・ヘルスケアでカウンセリングでのコミュニケーションに関する研究を調査できます.

5.認知科学に関するリンク

認知科学に関するリンクをまとめます.

5-1. 国外のリンク

国際会議としては,

CogSciやEuroCogSciではCommunication and Understanding, Cooperationに関するセッションが設けられており,子どもの認知プロセスとコミュニケーションを扱った研究,教育現場におけるコミュニケーションプロセスを扱った研究を調査できます.

他にも

でも論文を参照することができます.扱っている内容はCogsciやEuroCogSciとほぼ同じです.

ジャーナルとしては,

があります.

認知科学に関するトピックを調査するならば以下のサイトが有効です.

5-2. 国内のリンク

日本認知学会では論文誌にて「言語コミュニケーションの科学に向けて」「対称性:思考・言語・コミュニケーションの基盤を求めて」が特集として組まれています.コミュニケーション障害学では,医療現場での医者ー患者のコミュニケーションを支援するための研究が多数見られます.社会言語学会では言語コミュニケーションに関する研究を調査することができます.

6.おわりに

ヒューマンコミュニケーションに関して,情報学,社会心理学,認知科学からリンクをご紹介いたしました.全て著者が参考にしているだけの理由から紹介したリンクであり,研究分野の全てを網羅していないことはご容赦ください.

現在,複数の研究分野を統合してヒューマンコミュニケーション研究を進めている機関としてはHuman-Computer Interaction Institute, Carnegie Mellon大阪大学コミュニケーションデザイン・センター電気通信大学人間コミュニケーション学科などがあります.情報学,社会心理学,認知科学と分けてリンクを紹介しました通り,コミュニケーション支援研究はそれぞれの分野で独自に進められており,2つ以上の分野を統合して研究が進められていることはまだまだ少ないように思います.分野と分野の間に新しい分野が生まれることは多くありますので,少しでも多くの方が複数の分野にまたがってコミュニケーション支援を研究していただけるようになれば大変心強く思います.