Vol.16 No.2 (2001/03) 情報可視化とデジタルミュージアム


私のブックマーク

情報可視化とデジタルミュージアム

角 康之(ATR知能映像通信研究所)

1. はじめに

今回は、情報可視化とデジタルミュージアムに関連するWebページを紹介します。
まず言い訳を…。これは、情報可視化技術やデジタルミュージアムの学術研究に直接役立つような網羅的なサーベイを目指したものではありません。網羅的なサーベイや体系だった解説論文であれば過去にいくつかありますし、有用なWebページのリストについても、例えば、増井俊之氏による私のブックマーク:ヒューマンインタフェース編(本誌 Vol.14, No.4)がありますので、それらを合わせてご覧ください。
それにしても、なぜ「情報可視化」と「デジタルミュージアム」が一緒になってるんだ、と不思議に思う方が多いと思います。それは単に、私自身が普段ネットサーフしていて面白いと思ったページを集めてみたらこうなったからなんです。でも、考えてみたら、「情報可視化」も「デジタルミュージアム」も、大量の情報や知識をコンピュータ技術を使ってうまく見せよう、といった動機を共有していますし、実際に以下のページをご覧頂くと、技術的にも共有している部分が多いことに気づかれると思います。
とにかく、今回は実際に体験してインタラクティブに楽しめるようなページを集めてみました。どこが人工知能と関係あるんだとお叱りの声が聞こえてきそうですが、今回はちょっとお気楽に、Webならではの最新技術を利用した情報可視化技術、デジタルミュージアムページをご体験ください。

2. 博物館や美術館の総合リンク集

最近は、博物館や美術館がWebのホームページを持っているのは当たり前になっていますので、それらのリンク集を提供しているサイトもたくさんあります。
ここでは、その中のいくつかを紹介します。

  • インターネットミュージアムのページ
    博物館及び博物館専門職のプロモーションを行っている国際団体ICOM(国際博物館会議)の支援のもとに、VLmpというオンラインミュージアムサイトの索引サービスを運営しています。
    VLmpは、Jonathan Bowenという大学教授が個人で管理しているようです。

  • デジタルミュージアム推進協議会
    自治省が中心になって始めたデジタルミュージアム推進のためのサイトです。
    ミュージアムのホームページ検索などができます。

  • ネット・ミュージアム計画推進委員会
    Web上に仮想ミュージアムを創作していくことを提案し、そのサポートをするグループのページです。
    国内のミュージアムやWeb上の仮想ミュージアムの膨大なリンク集を提供しています。
    さらに、Web上の仮想ミュージアムを利用して、個人のコレクションや作品を展示するための展示スペースのレンタルや、個人が一品だけ自慢のものを展示するコーナーの設置など、大変ユニークな試みがなされています。

  • 博物館の博物館
    大阪大学大学院生の松下幸司氏が運営している博物館ホームページのリンク集です。
    ここは単なるリンク集にとどまらず、博物館情報の編集と博物館見学者の声をまとめることで学びの場の提供を試みています。

3. 技術に関するページ

インターネットを介して、電子的な展示データを提供したり、訪問者がインタラクティブに展示見学を体験可能にするための技術に関するページをまとめてみます。

  • インターネット上で3次元画像を利用したインタラクティブなアプリケーションを記述する技術をWeb3Dと呼びます。
    その標準化のためのコンソーシアムとしてWeb3Dコンソーシアムがあります。
    ここには、Virtual Reality Modeling Language (VRML)の情報をまとめたページがあります。

  • Web3Dについて日本語で見れる有用なページとして、アトム社によって提供されているVRMLのチュートリアルページがあります。
    VRML以外の別のWeb3D技術を集めたページも大変役立ちます。

  • VRMLを利用した3次元仮想空間のモデリングは大変な労力を必要とします。
    3DMLは、簡単なブロックの積み重ねで3次元モデルを構築しようというアイデアです。

  • まともに3次元モデルを作らなくても、複数の2次元の写真をパノラマ状につなぎ合わせて、没入間を演出することが可能です。
    そういったツールとしては、アップル社によるQuickTime VRが有名です。
    また、Live Pictureを採用しているデジタルミュージアムサイトも増えてきているようで、Live Picutureを使ったサイトのリンク集もあります。
    インターネットを介して絵画作品などを鑑賞する際、全体像を眺めたり、ある部分を拡大表示したりしたくなります。
    そういった要望に応えるため、何段階かの解像度で画像データを持ち、必要に応じてズーム表示ができるような画像ファイルフォーマットであるFlashPixを利用しているサイトも増えています。

  • インタラクティブなWebコンテンツ提供手段の先駆けとなったのは、間違いなくSun Microsystems社のJavaでしょう。最近は、3次元画像を扱うためのJava 3D APIの開発も進められています。
  • インタラクティブなWebコンテンツを提供するサイトでは、マクロメディア社のShockwaveを利用しているサイトも多いです。

4. 研究プロジェクトに関するページ

ここでは、デジタルミュージアムに関連する研究プロジェクトのページをいくつか紹介します。

  • 東京大学総合研究博物館
    TRONで有名な東大坂村教授のグループが中心になって進めているデジタルミュージアムのページです。
    デジタルアーカイブ、Augmented Reality、携帯端末ガイド、MUD、ストリーミング技術、多国語・多漢字環境構築など、体系的に研究開発が行われています。

  • UCLA Cultural VR Lab
    CAVE, VRML, Quicktime VRなどのVR技術を利用して、古代ローマの建造物などの仮想空間での再構築を試みています。
    古代ローマの広場が時代と共にどのように変化していったかを見ることもできます。
    既に存在しない遺跡のCGによる再現や、経年変化を表現した展示方法は、リアルミュージアムを越えた、デジタルミュージアムならではの効果です。

  • HUMIプロジェクト
    人文科学研究の促進を目指したプロジェクトで、慶應大学が所蔵する稀覯書のデジタル画像データを集め、Webから閲覧できるようにしています。
    グーテンベルクによって印刷された聖書などをFlashPixで好きな場所を拡大しながら見ることができます。
    こういった稀覯書は、実際の博物館に足を運んだとしてもせいぜいガラスケースごしに決められたページを見ることぐらいしかできませんが、こういったデジタルアーカイブのプロジェクトが進むと、どこからでも同時に多くの人が好きなページを見ることができるので、人文科学研究の裾野が広がることは間違いないでしょう。

  • デジタルシティ京都
    3DMLを利用して京都の街(四条通りと二条城)を再現したり、MS Agentを利用した二条城バスツアーの実験サイトがあります。
    後者は、3次元CGで再現された二条城の中を、MS AgentキャラクタのPeedyにガイドされながら見学するというもので、一緒にツアーに参加した人同士でチャットをしたり、一緒に見学してまわることができます。
    京都などは街や建造物そのものが展示物になり得るわけですが、今までのリアルな博物館や美術館では物理的な制約からそれらを展示対象にするのは困難でした。
    コンピュータの中にそれらを再現し、複数の訪問者がインタラクティブに一緒に見学できるような仮想空間をインターネット上に構築する、というのは、今後のミュージアムの大きな一方向になるでしょう。

  • 個別の研究プロジェクトを紹介するページではありませんが、デジタルアーカイブ推進協議会のページや、デジタルアーカイブや博物館の情報学に関する会議や出版を推進しているA&MI (Archives & Museum Informatics) のページも参考になるでしょう。

5. 情報可視化に関する情報を集めたページ

情報可視化は研究領域としてかなり成熟しつつあるので、研究プロジェクトのページのリンク集などもたくさんあります。
その中でも、増井俊之氏のページ古畑理香氏のページは大変役に立ちます。

6. 個別のデジタルミュージアムサイト

ここでは、個別のミュージアムのホームページをいくつか紹介します。
単なる収蔵物の案内だけでなく、インターネットを活用した面白い試みがなされているものを選びました。
したがって、実際に存在するミュージアムに対応したものだけでなく、電子的にしか存在していないデジタルミュージアムのサイトもあります。

  • バーチャルスミソニアン
    スミソニアン博物館のハイライトを音声ガイド付きでツアーできます。Shockwaveを利用したインタラクティブな展示と、Quicktimeによる動画を見ることができます。

  • ボストン科学博物館
    ボストン科学博物館は、展示物を触って楽しむことができる体験型の博物館なのですが、それをオンラインバージョンで楽しむことができるようになっています。
    主にShockwaveとQuicktime VRを利用しています。

  • ルーブル美術館
    Quicktime VRを利用して、いくつかの展示室をぐるっと見渡すことができ、いくつかの展示物についてはFlashPixを利用して拡大表示ができます。

  • ニューヨーク近代美術館
    過去の特別展の情報を提供したり、通常は美術館では展示しないような情報をWebページで発信しています。
    主にShockwaveを利用して、Webならではのインタラクティブな情報発信が色々と試みられています。

  • アメリカ国立美術館
    Quicktime VRを利用して、特定の時代や画家に焦点を当てたバーチャルツアーが体験できます。

  • エルミタージュ美術館
    IBMによってデジタルアーカイブが進められ、パノラマ画像とJavaアプレットを利用したバーチャルツアーが提供されています。

  • ロンドン自然歴史博物館
    VRMLなどを利用して、教育目的のオンライン展示がなされています。

  • Virtual Museum of Arts El Pais
    実際の博物館は存在せず、VRMLを利用して仮想的な美術館だけが存在している面白い例です。

  • 兵庫県立人と自然の博物館
    国内では早い時期から積極的にWeb上の情報発信を行っていた博物館です。
    Quicktime VRを利用したバーチャルミュージアムを試すことができます。

  • 石川県立美術館
    パノラマ画像とFlashPixを組み合わせて仮想展示室を提供したり、一般の人から作品を募ってVRMLで作成した仮想展示室に展示するなどの試みがなされています。

  • ArtMuseum.net
    Intelがスポンサーの仮想美術館サイトです。
    The American Centuryのページは、The Whitney Museum of American Artという美術館の収蔵物を、年表に合わせて紹介しています。
    Shockwave、RealPlayer、Live Pictureを利用して、マルチメディアによるインタラクティブな表現をしています。
    興味のある展示物を集めてそれにコメントを書いたり、自分だけのツアーを作ることができる等、興味深い試みがなされています。
    また、ゴッホのページでは、Live Picureを利用してアメリカ国立美術館にあるゴッホの部屋を再現しています。
    さらに、専用アプリケーションを利用することで、3次元MUD空間としての仮想展示空間をウォークスルーすることができ、同時にアクセスしている他の訪問者のアバタと喋ったり、いくつかの特別な絵については、その絵の中にも入っていけるようになっています。

  • サイバースペースミュージアム
    Live Pictureを利用して、仮想展示会場に特定の出展者の作品を展示しています。

  • 連画
    連画とは、ネットワーク上で複数の画家がCG作品を送り合い、相手の作品を引用したり手を加えることで新しい作品を作り上げていく新しい芸術表現の試みです。
    このページはミュージアムを意図したものではありませんが、複数の作り手とそれを鑑賞する人がインターネットごしに混在する空間として、今後の芸術の在り方の面白い方向を示していると思います。

7. 情報可視化技術を体験できるページ

情報可視化技術を利用したデモを体験できるページを紹介します。

  • Inxight
    Xerox PARCで研究開発されてきた様々な情報可視化ツールが紹介されています。
    Javaアプレットを利用したHyperbolic TreeやTable Lensのデモを試すことができます。

  • AT&T研究所WebLab
    インターネット上の情報源を利用して研究者間の関係をグラフで可視化するReferral Webなどのプロジェクトのデモを試すことができます。

  • イリノイ大学I-KNOWプロジェクト
    ネットワーク上のコミュニティに参加する人たちの間の関係を様々な視点から可視化する試みがなされています。Javaアプレットで作られたいくつかのデモを試すことができます。

  • The Brain
    Hyperbolic Tree的な表示手法を利用した情報の意味空間表示ツールを提案しています。
    Javaアプレットで作られており、このWebサイトのナビゲーションツールを提供しています。
    Webサイトの検索インタフェースに適用した例も試すことができます。

  • 村田剛志氏によるWebサイト間の関連性の可視化
    Webサイト間の参照共起性を利用して、複数のWebサイト間の関連性をグラフ表示で可視化するツールのデモを試すことができます。CGIとJavaアプレットを利用しています。

  • Brunel大学のChaomei Chen氏のホームページ
    CHI(ヒューマンインタフェースに関する国際会議)で発表された論文間の関連性をグラフで可視化し、VRMLを使ってインタラクティブに文献検索ができるページがあります。

  • Map of the Market
    Wall Street Journal誌が提供しているページで、Javaアプレットを利用し、刻一刻と変化する金融市場の情報を効率よく見ることができるようにしています。

  • Sinnzeug
    Webページ検索のための可視化インタフェースを提案しています。
    検索キーワードを2次元平面に配置することで、意味的に関連するページをグルーピングしながら検索を進めていくことができます。
    Shockwaveで作られています。

  • Revealing Things
    スミソニアン博物館による、インターネットならでは展示手段のプロトタイプです。
    トピックキーワードをリンクでつないだ意味マップ表示や、写真のサムネールなど、いくつかのインデックス情報から情報空間をナビゲーションすることができます。
    Javaアプレットで作られています。

  • GINGA
    松本文夫氏によるアート作品です。
    本来は目に見えないインターネットのネットワーク構造や、そこを様々な情報が飛び交っている様子を、色々な視点から可視化しようと試みたものです。
    Javaアプレットを利用しています。

8. おわりに

どうもまとまりのない内容になってしまいましたが、個別のページは楽しく体験頂けたかと思います。
これからも、実際の展示会場とインターネットをうまく活用したミュージアムが増えていくと思います。
私も微力ながら、今後のミュージアムを考えた研究や、情報可視化技術の研究を進めていますので、ホームページをご覧頂ければ幸いです。
Javaアプレットを利用した、学会での発表論文間の意味マップの可視化や、デジタルアシスタントのプロジェクトに関するページをご覧頂けます。
最後に、情報収集にご協力頂いた門林理恵子氏、伊藤禎宣氏、坂本竜基氏に感謝の意を表します。