5月27日 (火) 17:40~19:20 A会場
テーマ
「LLMが変えるAI研究の形:自動研究の最前線」
概要
LLMは従来のデータ解析やモデル構築支援にとどまらず、研究論文の執筆支援や実験プロセスの自動化など、研究のあらゆる段階において新たな可能性を提供しています。特に私たち学生や若手研究者にとって、LLMが道具として身近なものとなった今、研究の進め方や創造性の捉え方が大きく変わろうとしています。ChatGPTで論文を校正・翻訳したり、Copilotで実験コードを書く方も増えているかもしれません。しかし、この急速な進化の中で、研究への応用について慎重に考える必要があります。AIによる分析や執筆支援が増える中で、研究のオリジナリティや倫理性をどのように保つべきかといった新たな課題も浮上しています。
Tyserら(2024)の研究[1]やLuら(2024)のAI Scientist[2]が示すように、LLMを活用した研究プロセスの効率化と自動化の可能性が示唆されています。Tyserらは、LLMベースの自動査読が、大量の論文処理やフィードバック提供、品質管理、バイアス軽減において有効である一方で、人間の価値観や評価基準に整合するレビューには限界があると指摘しています。一方、LuらのAI Scientistでは、LLMが研究アイデアの生成からコード記述、実験の実行、結果の可視化、論文執筆、自動査読までを行うフレームワークを構築し、科学的発見のプロセス全体を自動化する可能性を実証しています。これらの技術は研究者に新たな効率性をもたらす一方で、創造的な研究に対する影響や倫理的な課題について慎重に考える必要があります。
本企画では、LLMが研究プロセスに与える変化について慎重に検討し、査読システムの現状と課題、実験自動化の現状と展望について議論を深めます。特に、LLMの可能性とリスクを両面から捉え、どのように研究活動に取り入れていけるか、またその影響をどのように評価すべきかといった新たな視点や知見を見出すことを目指します。これにより、学生や若手研究者がAI技術と研究の未来について多角的に考える機会を提供し、実践的な取り組みへの一助とする場を目指します。
[1]Tyser, K., et al. “AI-driven review systems: Evaluating LLMs in scalable and bias-aware academic reviews.” arXiv, 2024.
[2]Lu, C., et al. “The AI Scientist: Towards Fully Automated Open-Ended Scientific Discovery.” arXiv, 2024.
講演者

牛久 祥孝 氏
(株式会社NexaScience 代表取締役/オムロンサイニックエックス株式会社 リサーチアドミニストレイティブディビジョン リサーチバイスプレジデント)
本講演では、AIロボット駆動科学の実現と社会実装のための取り組みについて紹介する。基盤モデルによるAIエージェントやエンボディドAIなど、サイバーとフィジカル両方の空間でAIが活躍し、より複雑なタスク遂行とアウトプットを可能にする研究が勢いを増している。人間に創造性が求められるタスクの一つとして研究開発があるが、こうしたAIを活用して研究開発そのものを自律化・加速する試みも盛んである。講演者の牛久はJSTムーンショット型研究開発事業の目標3において、2023年1月からこうしたAIロボット駆動科学の研究プロジェクトを開始しており、さらに2024年10月にはこのスピンアウトを継続的に担う株式会社NexaScienceを創業している。講演ではまず周辺の状況について概観した上で、こうしたムーンショットやNexaScienceでの取り組み・今後の展望について紹介することを通じて、人間の創造性が最大限に発揮される研究者・技術者の楽園を実現するための研究課題について論じる。

熊谷 亘 氏
(オムロンサイニックエックス株式会社, リサーチアドミニストレイティブディビジョン, リサーチエンジニア)
AIの利用により研究のスピードは向上している一方、一部のプロセスでは人的作業が研究進行のペースに影響を及ぼすことがあります。本講演では、主に機械学習研究を対象に、自動化の取り組みを紹介します。ここでの自動化は、従来のAutoMLが実現していた部分的な自動化を超え、仮説創出、文献アクセス、ツール利用、研究計画の策定、実験の実施・デバッグ、研究成果の批判、論文生成など、人間研究者が行う全研究過程を対象とします。さらに、これら各モジュールの連携・組み合わせにより得られる萌芽的成果について、現状の研究進展を踏まえながら概観します。