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一般社団法人 人工知能学会(会長:浦本直彦)は本日、AI ELSI賞2部門(Perspective部門、Practice部門)を受賞した活動を公表いたします。なお、本賞の授賞式は、人工知能学会合同研究会(2019年11月23日、慶應義塾大学矢上キャンパス)にて執り行います。

本賞の趣旨

AI技術は現在、様々な形で社会に利用されるようになってきました。AI技術は汎用技術でありかつ人に近い技術であるため、社会へ広範な影響を与えることや、人々の生活に直接的な影響を与えることが予想されます。このため、単に研究開発の中でのAIを考えるのではなく、社会とのAIの関係やAI技術の倫理的側面も同時に考える必要があると考えます。AI ELSI賞は、そのような点において顕著な活動を表彰することで、社会におけるAIという課題を広く共有することを目指しています。なお、本賞は人工知能学会倫理委員会が企画、運営をしております。

AI ELSI賞 Perspective部門受賞

  • 受賞活動名:「AIの公平性に関する⼀連の研究」
  • 受賞者:神嶌 敏弘 氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
  • 受賞者略歴:
    1968年生。1992年京都大学工学部情報工学科卒業。1994年同大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了。2001年博士(情報学)。1994年電子技術総合研究所入所。2001年電子技術総合研究所は産業技術総合研究所へ再編。2003、2008、2011、2014年人工知能学会全国大会優秀、2014年電子情報通信学会IBISML研究会賞、2009年人工知能学会功労賞。推薦システム、データマイニング、機械学習に関する研究に従事。AAAI、ACM、電子情報通信学会、人工知能学会 会員。

国際会議(FAT*2018)や国内セミナーでの講演風景

選定理由

AIの社会における活用が進むにつれて、AIの判断に人種、性別、国籍などの個人属性に関する公平性が求められる流れが2000年代に入って欧米を中心に強くなってきました。日本では公平性の研究は盛んではなく、世界の趨勢に遅れをとっていました。
神嶌氏は2011年ごろより、日本ではいち早くAIの公平性の研究を開始し、ほとんど孤軍奮闘の状況で研究を続け、難関国際会議でAIの公平性に関する論文を公表し、海外からも高く評価されています。現在この分野の最重要会議であるFAT2020のCS Track Co-Chairに就任しています。
今回のAI学会ELSI賞の受賞理由になった活動は、上記の学問的業績もさることながら、神嶌氏の公平性の技術状況に関する基礎から最新の進展までをわかりやすくまとめた100ページ以上にわたるスライドを公開と、それらを常に最新の情報を加えてアップデートし続けていることです。これによって、AIの公平性について研究、開発活動への取り組みを始めた研究者、開発者は容易に同分野の技術水準にキャッチアップすることができるようになりました。神嶌氏に触発されて公平性の研究を開始した研究者は現在数名ですが、そのいずれもが日本を代表するAI研究者として成功を収めており、AIの公平性の研究における水準向上、日本の存在感に貢献しています。
以上、AI公平性の分野の日本における立ち上げと、発展に寄与した業績は余人をもって代えがたいものであり、第1回AI ELSI賞の受賞に十分に値するといえます。

AI ELSI賞 Practice部門受賞

  • 受賞活動名:「AIの遺電子」
  • 受賞者:山田胡瓜 氏
  • 受賞者略歴:
    漫画家。2012年に「勉強ロック」でアフタヌーン四季大賞受賞。ニュースサイト「ITmedia」記者として活動した経験を基に、2013年から「ITmedia PC USER」にて「バイナリ畑でつかまえて」を発表。2015年から「週刊少年チャンピオン」にてSFコミック「AI(アイ)の遺電子」を連載し、同作は文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した。続編「AIの遺電子 RED QUEEN」が2019年に完結している。

『AIの遺電子』シリーズ ©︎山田胡瓜(秋田書店)2016

選定理由

人工知能を題材にしたフィクションには、人間以外の存在と人間の間の対立を扱ったものが多くあります。そのような中、「AIの遺電子」の主人公はヒューマノイドを治療する人間の医者であり、「愛」、「友情」をベースに描くオムニバス形式のSF漫画です。本作は、SFという舞台を通して,人工知能論、知能・心身問題、責任論などの広範囲のテーマを、ヒューマノイドロボットの治療を行う医者を主人公に、少年誌でハイペースの連載を行い、高い評価を得ました。
「AIの遺電子」は人と同じ扱いの「ヒューマノイド」、身の回りの世話をするだけの「産業AI」、世界を統括している「超AI」という3種類が併存する世界観を提示しています。「超AI」が存在する社会という近未来な前提にあるものの、様々な種類の機械が混在しているという世界観や、毎回のオムニバスで扱われるテーマには、今日の社会が直面している人工知能の倫理的・法的、社会的な課題を多く含んでいます。
技術や倫理・法の専門家が具体的/専門的な課題から議論を始めてしまう一方、本作は登場人物の日常生活や心情を中心に扱うことで、広く一般の人にも読みやすい物語となっています。一方で物語の核には、人と人、人と機械の関係性を扱い、鋭く切り込んでいます。また漫画という学術関係者が表現できない媒体を用いることで、学術における課題と社会を繋いだ点がAI ELSI賞のPractice部門にふさわしいと評価されました。

問い合わせ先:

人工知能学会事務局
住所:〒162-0821
東京都 新宿区 津久戸町 4-7 OSビル402号室
電話:03-5261-3401
ファクシミリ(FAX):03-5261-3402