2022年6月14日、2022年度人工知能学会全国大会「AIによるクリエイティビティと著作権」を一般公開企画として開催しました。
最初に倫理委員会の武田委員長から開会の挨拶と企画説明がありました。深層学習等のAI研究の発展によってAIの社会適用の可能性は大きく広がりました。当初は未知な技術としてシンギュラリティといった脅威の面が強調されることもありましたが、現在は技術の価値と限界もより正確に認識され、社会適用もより現実的な方向性が見えてきています。本企画では、再び社会の中でAIをどう使うかに関する可能性・期待・限界について多様な視点から議論しました。

話題提供

松原仁氏

最初に小説、俳句、漫画、映画の脚本など様々な分野でAIによるコンテンツ創作を試みられている松原仁氏(東京大学・教授)が、いくつかのプロジェクトを紹介されました。AIの創作への関与度合いはプロジェクトによって幅はありますが、いずれにせよ人とAIの共作であるため、著作権は人間側にあります。これらのプロジェクトではその多くは著作権者の了解を得て進めていることがポイントとなります。
しかし、過去の作品に似せた場合の著作権はどうなるのか、また「似ている」の定義は何にあるのか、さらには作品が金銭的価値を持った場合、利益はどのように配分するのかなど様々な課題があります。また、著作権など法的な権利をクリアしているからといって、AI創作にまつわる様々な課題が倫理的に認められるかは別次元の問題であり、様々な観点から議論をしていくことが重要であると指摘されました。

浜中雅俊氏

続いて、浜中雅俊氏(理化学研究所・チームリーダー)がAIを使った音楽制作を紹介されました。コンピュータ作曲は1957年に始まっており、著作権に関する議論は尽くされていると浜中氏は指摘します。またもっと古くはモーツァルトがサイコロを振って作成した「サイコロ作曲」なるものも存在するなど、ランダムに作られた曲も存在しています。
現代のAIによる音楽制作の肝となるのは、音楽理論GTTMに基づいた曲分析です。分析の結果、タイムスパン木を獲得してメロディの構造を把握し、演算したりすることも可能となります。現在、AIが作曲したとされる多くの曲があります。その中でも、特定の作曲家の個性を抽出した作曲をするためには、まだ課題があります。浜中氏はアーティストとのコラボレーションを通して音楽的な個性を模倣したAI実現を目標としています。そこでも、曲が価値を持った時に、その利益分配をどのようにするかは課題であるため、アーティストの方を客員研究員として迎えて、研究室で研究を行うという形をとっています。

栗原聡氏

栗原聡氏(慶應義塾大学・教授)も、松原氏と同様に様々な創作プロジェクトに関わっています。AIを道具して使用をする場合、生成物の著作権は人間にあります。しかし道具自体の性能が高くなると人間が想像した以上のものを作り出します。そうすると人間が創作に寄与していたとしても「AIが作った」とみなされる可能性があります。そのためAIと人間の合作の場合は、人間の寄与率を判断することが重要になってくると指摘しました。また、他のAIが創作したデータを元にAIが創作をすることで多様なコンテンツを生成する可能性もありますが、それは盗作にあたるかのかも考える必要があります。
一方、AIが自律的に動く場合はAIの著作権を考える必要がでてきます。現在、メタバースなどバーチャル空間でアバターを動かす場合、裏で人がアバターを操作している人がいるため、アバターは完全自動で動いているわけではありません。しかし、アバターの動きには間違いなく自動化されているため、その動きに関しても人間の寄与度を考えることが重要になってくるかもしれません。このように人間の寄与度によって法的に許容されるラインは変わるかもしれませんが、同時に人間の感性も変化していくため、研究者としては「やってみないとわからない」として話題提供を締めくくりました。

三宅陽一郎氏

三宅陽一郎氏(株式会社スクウェア・エニックス)はプレイステーションなど大型のゲームコンテンツを作成されてきました。1980-1990年代は人間がすべてのデータとプログラムを作っていましたが、2000年代になると3D化や大型化に伴い人間がデータの基を作るがプログラムで自動生成してコンテンツを増加させるようになってきました。それが2010年代に入ると、ツールやコンテンツの中にもAI生成が入ってくるようになり、AIと人間が一緒にゲームを作る時代になりました。
またエージェントモデルに深層学習などを用いて、ユーザーがAIキャラクターと相互作用しながらキャラクターを作る、育てていくことができるようになっています。このような生成系の事例は2018年ごろから急激に増加しておりDQNが多く用いられています。
このようにゲーム業界においては、開発中・ゲーム中双方において、深層学習を用いたコンテンツ生成が増加していますし、クリエイター側としても、大容量のコンテンツを準備するために増加させて行きたいと考えています。一方、このようにして生成したコンテンツの問題も同時に知りたいと考えています。ゲーム産業では、各企業は深層学習技術を使いこなす人材育成や機械学習の重点化などの投資を行いたいものの、今後、この分野がどれぐらい伸びていくかが、その強さの判断材料となります。深層学習で生成されたコンテンツに対して何か問題が生じた時、コンテンツをリリースする側か、データ提供側か、ユーザーか、誰が責任を持つことになるのかを知ることがリスクに備えることになります。

福井健策氏

最後に福井健策氏(骨董通り法律事務所・弁護士)がAIと著作権、知財に関する現行法の解釈を紹介しました。文章、講演、楽曲、映像や写真などは著作権の対象となるため、使うためには許諾が必要になります。2018年に著作権法の大改正があり、機械学習に関しては許諾を得なくても解析や分析を行ってもよい規定が拡充されました。ただ、学習は自由ですが、生み出されたAI生成物が既存の作品に似てしまうと著作権侵害になる可能性はあります。ここでいう「似ている」というのは法的に言えば「特徴的な表現を借りている」場合です。どのレベルだと「特徴的な表現」が似ていることになるかを法律で明記することは無理であり、また価値観や時代によっても変わります。考え方としては、AIによって生まれた生成物を著作権で独占させないと困ったことになるか、あるいは独占させると困ったことになるのかのバランスで判断していくことになります。
学習によって生まれたAI生成物やAIコンテンツに著作権があるかは1970年代から世界では議論が行われており、人間がAIを道具的に使ったなら著作物たりえると通説的に理解されています。そのためAIと人間の共作であったとしても、人間が創作的寄与をすれば著作権が発生します。一方、AIが自律的に生成したものに対して、人間側に独占権がないとわかった場合でも、人間は「自分も寄与した」と言えばよいと考える人もでてくるかもしれません。
また著作権法上「偶然の一致」は許されるものの、大量に生まれるAI生成物に関して、それを学習したAIが似たようなものを作った場合などは、著作権侵害にあたるのでしょうか。侵害に当たるとされる場合、創作や開発活動の萎縮につながらないかと問題を提起されました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、人間とAIの共作において、AIが関与する割合を10割にしたいのが開発者側のモチベーションである一方、現状ではそれだと権利が主張できなくなるという矛盾が指摘されました。人間の権利が残っていると主張したほうが、利益を得たり投資をしたりできるようになります。
また本企画では著作権という権利の主体となった場合、何か問題が起きたときにその責任が伴いやすくなることも繰り返し議論されました。問題を法律で解決しようとすれば国内法だけではなく世界共通でルールを作らねばならず、時間がかかったりすることや個別状況に合わない可能性もあります。そのために、法律だけではなくガイドラインや契約などを組み合わせてAI生成物が生み出す課題と利益について考えていく必要があります。
またAI生成物を作り出すツールやシステムの権利についても議論が行われました。研究者としては、何かを作り出したときにそれにAIツールが関与したことを主張したいものの、ツールが作り出したものにまで権利が発生するということは、現在のソフトウェアなどでも主張することはできません。ツールを作った側と使う側の権利は切り離して考える必要があります。AIが社会で受け入れてもらうための法的、社会的、倫理的、経済的な仕組みをどのように考えていけばいいのか、様々な論点が議論された90分間でした。

写真:パネルディスカッションの様子
(右から武田氏、浜中氏、松原氏、栗原氏、三宅氏。リモートで福田氏)