2015-06-01 14.04.25

日時 2015年6月1日(月)13:20〜15:00
会場 公立はこだて未来大学(人工知能学会全国大会のセッション内)
オーガナイザ 松尾豊(東京大学)
パネリスト(登壇者) 西田豊明(京都大学)、堀浩一(東京大学)、武田英明(国立情報学研究所)、長谷敏司(SF作家)、塩野 誠(株式会社 経営共創基盤)、服部 宏充(立命館大学)、栗原 聡(電気通信大学)、山川 宏(ドワンゴ人工知能研究所)

人工知能学会倫理委員会は、昨年発足した委員会であり、人工知能がもたらす社会的な影響を考えていくことを目的とする。全国大会の3日目、倫理委員会が中心となり、公開討論「人工知能学会倫理委員会」が開かれた。会長の松原氏も議論に加わり、講堂がいっぱいになるほど多くの方が聴講し、注目度の高いセッションとなった。
まず、オーガナイザの松尾氏から、これまでの2回の倫理委員会での議論の紹介があった。人工知能の技術レベルについて、人工知能のもたらす職業や心の問題について、海外での取組状況などである。次に、各パネリストに対して、3つの質問が用意された。
Q1. 人工知能の影響で、職業は増えるか、減るか
社会からの関心が高い質問であり、このような議論はよくメディアでも目にする。山川氏は、人間がやらなければならない職業は減っていく、栗原氏は、稼ぐために働く仕事は減るが、働き方の多様性は増える、服部氏は機械的な仕事は減り、そうでない仕事は増えるという意見であった。塩野氏は、経済的な観点から、GDPに参入されるものと定義した場合には、仕事は減る、一方で家庭菜園やボランティアワークは増えるのではという意見であった。長谷氏は、職業の数自体は増えるが、一時的には減る職業もあり、キャリアを積んでいくタイプのプロフェッショナルでは収入格差が広がり、個人のキャリア設計がより難しくなるのではないかと述べた。武田氏は、これまでも第一次産業が減り、第二次産業が増え、また第二次産業が減り、第三次産業が増えたように、人工知能の進展にともなって仕事は減るだろうが、余剰ができたとき、人を活かすという意味で、新たな職業が生まれるだろうと論じた。西田氏は、プロスポーツ選手など人に感動を与える仕事の重要性は増し、教育、研究、サイエンスコミュニケータとして突出した人々への需要も高まるだろう。他方、これらをバランスよくこなす「大学教授」のようなポジションへの需要は激減するだろう。人工知能に人間社会のことを教えるという職業も出てくるのではないか?と述べた。
議論をまとめると、社会の生産性はあがるが、個人としてのスキルの維持はより難しくなる。一方で、社会に余剰が生まれ、第4次、第5次産業が生まれる。人は働きたいし学びたいので、仕事も生まれる。職業そのものが消えてしまうことはないが、職業のバランスの具合は変わるというのがほぼ一致した意見であった。
Q2. 人工知能の社会的影響を考えると、人工知能を規制すべきか?
倫理委員会という名称からすると、技術の規制は重要な論点のひとつである。松原氏と武田氏は規制すべきではない、あるいは規制しようがないという意見、山川氏は、使用に関してはある程度規制すべきという意見、西田氏は、人を最終的に評価したり,人間社会についての重要な決定をする仕事は人間にとどめておきたいという意見であった。規制すべきという側に寄った意見として、服部氏は、見えているリスクがあれば規制すべき、栗原氏は、人間も変化するので本来は還元論的に考えるのが難しいが、現状で考えて規制が妥当であれば規制すべきと述べた。長谷氏は、リスクあるものは社会に受け入れ態勢が進むまで規制はあり得るとの意見であった。
一方、塩野氏は、やや異なる観点から意見を述べ、この問いは、犯罪が起こったときに電話やネットを規制するかという議論と同じで、つきつめると人間にとっての善悪は何かに至り、目的次第である。規制は、規制者の意図・権力と切り離せず、規制する側は人工知能を使う、される側は使わないということもあり得ると論じた。
Q3. 人工知能の社会との関わりにおいて、人工知能の発展のために倫理委員として最も重要なことは?
最後の質問は、倫理委員会の役割に関わるものである。山川氏は、人類の存続のための科学的な発展に対して、人工知能を役立てる側面から考えたい、栗原氏は、(現状の)人間から見たときにどう見えるかが重要である、服部氏は、人文系や社会と対話しながら人工知能技術は怖くないことを伝えていきたいとそれぞれ述べた。塩野氏は、特に、人工知能を使える人・使えない人というAI格差についても考えたいとのことであった。
社会と人工知能の健全な関係性という観点からの意見も出された。長谷氏は、いかに社会とコミュニケーションをとっていき、人工知能のインパクトを受け入れやすい形にしていくかが重要であると述べた。松原氏は、人間がどのようなコンプレックスをもっているかを踏まえ、人間と人工知能の接点の調整をきちんとすべき、西田氏は、学会として、人工知能の可能性やメリット・デメリットを具体的に書き出して共有できるようにすることが重要であるとの意見であった。
武田氏は、この先20年くらいは自らを設計する人工知能が出現するという事態は起こらず、人工知能には設計者がいるはずで、設計者の倫理をきちんと考えるべきだ、特に人工物は淘汰の過程を経ていないので悪さをしてしまう可能性があることも意識すべきと述べた。
3つの質問を通じ、会場からも多くの質問が出て、活気のあるセッションとなった。人工知能と社会とのあり方に対する最初の議論としてはよい形であった。今後、継続的にこうした議論を続けていく必要があるだろう。