[What's AI]人工知能のFAQ

マッカーシー教授がまとめたFAQ(質問と回答)形式のAIの解説(原文: What is Artificial Intelligence)を翻訳したものです.
Q. 人工知能とは何でしょうか?
A. 知的な機械,特に,知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術です.人の知能を理解するためにコンピュータを使うことと関係がありますが,自然界の生物が行っている知的手段だけに研究対象を限定することはありません.
Q. では,知能とは何でしょうか?
A. 知能とは,実際の目標を達成する能力の計算的な部分です.人間,動物,そして機械には,種類や水準がさまざまな知能があります.
Q. 人の知能と結び付けることなく知能を明確に定義できますか?
A. まだ無理です.どんな計算的な手続きが,我々人類が知能と呼びたいものであるかを一般的に特徴付けられないからです.私たちは知的機構の一部を理解しているにすぎません.
Q. 知能とは,『機械は知的ですか?』という二者択一の質問ができるような単純なものでしょうか?
A. いいえ.知能はそれを実現する仕組みが必要で,AI研究はその一部をコンピュータにさせる方法を見つけただけなのです.目的を達成するのに,すでに分かっている仕組みだけしか必要としないのなら,コンピュータプログラムは非常に優れた性能を発揮します.そのようなプログラムはある程度は知的と考えられるべきです.
Q. AIは人の知能をまねようとしているのではないのですか?
A.

ときにはそうしますが,いつもというわけではありません.あるときは,機械に問題を解決させることについて,他人や自分自身がどうするかを調べます.一方,AIのほとんどの研究は,人間や動物について研究するよりも,知的に解決しなければならない問題そのものについて研究しています.AI研究者は,人間やらないような方法や,人間ができるよりも多くの計算を伴う方法を用いることもできます.

Q. コンピュータプログラムには知能指数(IQ)があるでしょうか?
A.

いいえ,知能指数は子供の知能の発育の度合いを基にしています.その子供の年齢に対する,子供がふつうにその子供の得点をとる年齢に対する比率です.この尺度を成人にも適用できるよう拡張します.IQは生活の中でものごとができたり,できなかったりすることとよく関連がありますが,IQテストが高いコンピュータが役に立つとは言えません.なぜなら,子供が長い数字の列を繰り返して答えられる能力は他の知的能力と関連があります.なぜなら,どれだけ多くの情報を一度に扱えるかということの目安になるからです.しかし,長い数字列を扱うのはコンピュータにはたやすいことです.

けれども,IQテストのいくつかはAIの研究目標として役立ちます.

Q. 人間とコンピュータの知能についての比較には他にどんなものがありますか?
A.

人間の知能に関する先進的研究者である Arthur R. Jensen が発見的な仮説として提案するところによれば,全ての人間は同じ知的機構をもち,知能の違いは生体の定量的な状態と精神状態に関連しています.これらは短期記憶や,正確で回復可能な長期記憶の形成能力に見ることができます.

Jensenの人間の知能に対する意見がただしいかどうかはさておき,今日のAIでは状況が逆です.

コンピュータプログラムは高速で大量の記憶ができますが,その知的能力は,プログラムの設計者がプログラムに埋め込むことのできるほど十分に理解できている知的機構と等価です.そのような能力には10代になるまで普通の子供は獲得できないものがあったり,2歳の子供に備わっているものがなかったりします.認知科学においていまだ人間の能力がなんであるかを正確に決定できていないため,問題はさらに複雑になっています.AIの知的機構の構成が人間のそれと違っていることは大いにありうります.

人間が与えられた課題をコンピュータよりうまく行なう場合,あるいはコンピュータが人間と同じことをするのに膨大な計算をしなければならない場合は,そのプログラムの設計者はその課題の実行に必要な知的機構がよくわかっていないのです.

Q. AIの研究はいつ始まったのでしょう?
A. 戦後,知的な機械についての研究を独自に開始した研究者が何人かいます.イギリスの数学者 Alan Turing が先駆者だといわれています.知的機械について彼は1947年に講義でふれました.機械を作成するよりも,コンピュータプログラムによってAIは研究されるべきであるとしたのも彼であるといわれいます.1950年代の終わりには,多くの研究者がAIに携わり,そのほとんどはその基盤をコンピュータプログラムにおいていました.
Q. AIは,人間の心をコンピュータに宿らせることが目的でしょうか?
A. それが目的であるという研究者もいますが,それは比喩的な意味です.人間の心には多くの特色があり,それらの全てを本気でまねようとするひとがいるとは思えません.
Q. チューリングテストとは何ですか?
A.

Alan Turingは,著作“Computing Machinery and Intelligence”で,機械が知的であるとみなせる条件について議論しています.見識のある観察者を相手に,人間であるかのようなふりをうまくすることができれば,機械は知的であると見なせると,彼は述べています.
このテストは多くの人を納得させましたが,全ての哲学者を納得させたわけではありませんでした.このテストでは,観測者は機械や本物の人間とキーボードや画面を通じて(人間の姿や声をまねする必要をさけるためです)対話し,本物の人間は観察者に自分が人間であると確信させようとし,機械は観察者をだまそうとします.

チューリングテストはかたよったテストです.テストに合格した機械は知的であるとみなされるべきですが,まねをできるほど人間についてよく知ることなく知的であると見なされることはありません.

Daniel Dennettの著書 "Brainchildren" にはチューリングテストに関するすばらしい議論があり,観察者のAIについての知識と質問の主題を限定するなどの制限を加えて今までに行われたチューリングテストについて述べられています.単純なプログラムでも知的であると簡単に信じてしまう人がいることが分かっています.

Q. AIは人間並みの知能を目標としているのでしょうか?
A. はい.最終的な目標は,人間と同じ程度に,世の中の目標を達成し,問題を解決できるコンピュータプログラムを作ることです.ですが,専門的な分野の研究をしている多くの人はこのような考えを持っていません.
Q. AIは人間の知能とどれくらい差がありますか?いつごろ追いつくのでしょうか?
A.

現在あるようなプログラムを数多く作成し,多くの知識を現在の方法で埋め込むことで,人間並みの知能を達成できると考えている人もいます.

しかし,AI研究者の多くは,新しい基本アイデアが必要であると思っており,よって,いつ人並みの知能が達成されるかは予測できません.

Q. コンピュータは知的になりうる機械なのでしょうか?
A.

コンピュータは,どんな種類の機械をもまねるようプログラムすることができます.

コンピュータプログラムとは違った方法で知的になることを目的として,コンピュータではない機械を製作した研究者は数多くいました.しかし,たいていの場合は,作った機械と同じことがコンピュータでできたので,新しい機械をつくる価値があるかは疑問です.なぜなら,コンピュータをより速くするために大金をつぎこんでいるので,その種の機械は,コンピュータにその機械と同じことさせるよりもずっと速くなくてはならないからです.

Q. コンピュータは知的となれるほど高速でしょうか?
A. 新しいアイデアと同様に,より高速なコンピュータが必要であると考える人がいます.私自身の意見では,どのようにしてプログラムするかがわかりさえすれば30年前のコンピュータでも十分な早さがあると思います.もちろん,AI研究者の野心的な目標とは関係のないところで,コンピュータはより早くなり続けるでしょう.
Q. 並列コンピュータではどうでしょうか?
A. 複数の演算装置をもつコンピュータは一つしかもたないものより高速です.並列に計算すること自体には有利な点がなく,並列に計算するようにプログラムを作るには困難がともないます.限界の速さが必要なときには,この難しさに直面します.
Q. 本などを読んだり,経験から学んだりして成長できる“子供の機械”を作れるでしょうか?
A. このアイデアは,1940年代の始めから何度も提案されてきました.やがて,それは研究されるようになりました.しかし,AIプログラムは,子供が現実の経験から学ぶことのほとんどを学ぶことができる水準にまでは達していません.また,本を読むことなどで多くを学ぶのに十分なほどに言葉を理解するプログラムも存在しません.
Q. AIシステムは,AIについての考察によって,より高い水準になるよう自らをプログラムできるのではないでしょうか?
A. 私は,可能だと思います.ですが,このようなことを始めることのできる水準のAIはまだありません.
Q. チェスはどうでしょうか?
A.

ロシアの人工知能研究者 Alexander Kronrod は「チェスはAIのショウジョウバエである」と述べています.彼は,遺伝学者がその研究にハエを用いることにたとえています.チェスの対戦には,知的な要素とそのほかのものが必要です.チェスをするプログラムはグランドマスターの水準にありますが,人間のチェス選手が用いている知的手段うちの限られたものを備えるにすぎず,ものごとの理解を大量の計算によって代替しています.これらの手段を理解しさえすれば,現在のプログラムよりより少しの計算で人間並のチェスプログラムを作ることができるでしょう.

残念ながら,コンピュータチェスの競争と商業的な側面は,科学として研究することよりも優先されています.これはあたかも,1910年以降に遺伝子学者がハエについての競争を行い,これらの競争に勝てるハエを育てることに労力を集中させたことのようです.

Q. 囲碁についてはどうでしょうか?
A.

囲碁は中国や日本で行われているゲームで,盤上に交互に手を打ちます.囲碁は,人間がするゲームにある知的手段についての我々の理解の弱さを露見させます.チェスほどではありませんが,かなりの努力がなされているにもかかわらず,囲碁のプログラムは非常に弱い打ち手です.最初に別々に考えることになる部分的な領域に心の中で盤上を分割することが,囲碁では問題となっているように思えます.人間はチェスでもこのようなことを行っていますが,チェスプログラムは全体をまとめて考慮します.チェスプログラムは,このような知的手段がないことを,数千倍(DeepBlueの場合は数百万倍)の回数の手の評価をすることで補っています.

遅かれ早かれ,AI研究はこれらの屈辱的な弱点を克服するでしょう.

[訳者注:DeepBlueはチェスチャンピオン Kasparovと対戦したコンピュータです]

Q. AIの実現は無理であるという人はいないのですか?
A. 哲学者 John Searle は,生物ではないものが知的であることには矛盾があるという考えを述べています.哲学者 Hubert Dreyfus はAIは不可能であると述べています.コンピュータ科学者 Joseph Weizenbaum は,このような考えは不愉快,非人道的,かつ,反道徳的であると述べています.現在も人工知能は人間並みにはなっていないため,不可能であると述べる様々な人がいます.投資した会社が倒産したことに失望する人もいます.
Q. 計算可能性理論と計算複雑性はAIにとって鍵となる要素でしょうか?

注:これらは数学理論とコンピュータ科学の専門的な問題で解答も専門的です.

A.

いいえ.これらの理論は関連はありますが,AIの基本的な問題点を扱うことはできません.

1930年代に,数理論理学者,特に Kurt Goodel と Alan Turing は,ある種類の重要な全ての数学的問題を解くことを保証するアルゴリズムが存在しないことを示しました.1階述語論理の命題が定理であるかとか,複数の変数をもつ多項式が整数解を持つか,などがその例です.これらの種類の問題を人間は解いてきましたため,コンピュータは人間がすることを本質的にできないという主張として,時には誇張されて,このことは引き合いに出されました.しかし,人間もこれらの種類のどの問題も解けると保証されているわけではありません.

1960年代にコンピュータ科学者,特に Steve Cook と Richard Karp はNP(non-deterministic polynomial)完全問題の理論を確立しました.これらの問題は解くことはできますが,問題の規模に対して指数関数的に時間がかかるとみられています.命題演算のどの命題が充足可能かという問題はNP完全問題の基本的な例題です.人間は,NP完全な問題を汎用のアルゴリズムが保証するよりも短い時間で解くことができることもありますが,一般には速く解くことはできません.

AIにとって重要ことは,人間が解ける問題と同じ能力のアルゴリズムがあることです.よいアルゴリズムが存在する問題領域を特定することは重要ですが,AIの多くの問題の解決には容易に特定できる問題領域は関係がありません.

問題の一般的な種類の困難さに関する理論は計算複雑性と呼ばれます.今までは,この理論は期待されていたほどAIとは関連がありませんでした.人間やAIプログラムによる問題解決がうまくいくかは,複雑性の研究者もAI分野でも正確にはまだ特定されていない問題解決手法や問題の特性に依存しているように思えます.

Solomonoff,Kolmogorov,および Chaitinらによって確立されたアルゴリズム複雑性理論も関連があります.これは,記号的な対象物の複雑性を,それを生成する最短のプログラムの長さによって定義するものです.プログラムが最短であるか最短に近いかを証明する問題は解くことができませんが,対象をそれを生成する最短のプログラムによって表現することは,たとえプログラムが最短であることが証明できなくても,何らかの知見が得られることがあります.

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ジョン・マッカーシー:現在のAIの始まりといわれる1956年のダートマス会議の主要メンバーで,AIの名付け親です.他にも,プログラミング言語LISPや極小限定(circumscription)などの業績があり,1971年にチューリング賞を授与されています.

 
 
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