平 知宏 (大阪市立大学・大学教育研究センター)
比喩理解の過程では、主題と喩辞の比較を通じて共通する意味を抽出しつつ、喩辞を主題の一種として見なすという過程が含まれているとされる(Bowdle & Gentner ,2005; Jones & Estes, 2006)。その中において、特に喩辞については、主題に適用するため比喩理解と直接的に関わる意味を活性化しつつ、無関係な意味を抑制するという2つの過程が同時並行して生じているとされる(Gernsbacher, Keysar, Robertson, & Werner, 2001)。一方で、こうした喩辞の処理過程とその結果に対して、主題の処理過程については不明な点も多い。主題それ自体は喩辞に比べて広範で抽象的な意味を持つため、喩辞の処理結果に関わらず全ての意味を活性化させている可能性があるという議論もあるが(Taira & Kusumi, 2012)、従来の研究の多くが隠喩表現(例:人生はギャンブルだ)を先行呈示した意味判断課題を用いているという性質上、主題単独の処理過程に文全体の処理過程が介入することで、主題単独の処理過程のみを取り出して検討することが困難であるという問題点もある。
そこで本研究では直喩表現とその意味(例:人生はギャンブルのようだ:人生はどうなるかわからない)をもとに、主題の意味を直接判断させる文(例:人生はギャンブルのようにどうなるかわからない)、また主題の意味判断までの過程が明確になるよう語順を操作(例:ギャンブルのように人生はどうなるかわからない)した文を用い、両者の意味評定や理解時間を用いた心理実験を行い、主題における直喩と直接的に関わる意味の活性化と、無関係な意味(例:人生はギャンブルのようだ:人生は人と歩む)の抑制の過程について検討を行った。実験の結果、主題においても喩辞の過程と同様、喩辞との相互作用性をもとに直喩と直接関連する意味の活性化とそれに基づく意味の適用が生じていること、また直喩の理解に伴い無関係な意味の棄却は、主題の処理の初期段階において生じていることが示唆された。これらの結果を踏まえ、比喩理解全体における主題と喩辞の双方の処理過程に共通する点、相違点などを総合的に議論する。参考文献:
- Bowdle, B., & Gentner, D. (2005). The Career of Metaphor. Psychological Review, 112(1), 193-216.
- Gernsbacher, M. A., Keyser, B., Robertson, R. R. W., & Werner, N. K. (2001). The role of suppression and enhancement in understanding metaphors. Journal of Memory and Language, 45(3), 433-450.
- Jones, L., & Estes, Z. (2006). Roosters, robins, and alarm clocks: Aptness and conventionality in metaphor comprehension. Journal of Memory and Language, 55(1), 18-32.
- Taira, T., & Kusumi, T. (2012). Relevant/Irrelevant meanings of topic and vehicle in metaphor comprehension. Metaphor & Symbol, 27(3), 243-257.