【講演概要】

物語生成と間テクスト性の考察

大石 顕祐、小方 孝、中嶋 美由紀、秋元 泰介 (岩手県立大学ソフトウェア情報学部)



Genetteによれば,間テクスト性とは, 「二つもしくはそれ以上のテクスト間での共存在の関係」, 「あるテクスト内での他のテクストの実際上の存在」とされる. しかしそれはBakhtin による, 文学作品を語り手・ 登場人物間の対位法的で重層的な諸関係として見る文学上のアイディアを源流としていたことからも分るように, 単なる引用やパロディーの方法ではない. 間テクスト性は受容と制作それぞれの側面において考慮することができる. テクストの受容とはその当事者が連想的に他のテクストを記憶から引き出し, 現在のテクストと関連付けながら行う経験を意味する. 一方制作の側面においては, あるテクストの産出に当って当事者は様々なテクストの記憶や連想の網の目の中で制作行為を行う. ともに主体が対象を統御するのではなく, 寧ろそれは1 つの機能としてテクストの海の中を泳いでいる. 当然起源性 (originality) としての創造性の概念は成立しない. その意味で“コンピュータの文学”が将来あり得るとすれば, 間テクスト性は有効な理論的基盤たり得る. 本稿は,小方による物語生成システムの構想を間テクスト性を中心に再構成し直すことを目標に, 幾つかの考察を行う.