○小方 孝 (大和大学 情報学部)、小野 淳平 (青森大学)
物語の多重性もしくは多重物語構造は、ある物語が先行作品、視点や時空間、技法や修辞等意味的・内容的及び形式的諸要素の多重性を持ち、この巧みな実現が作品の芸術的・文学的価値・意義と大きく関連するとする概念である。 本稿ではこのような理論的背景に基づき、歌舞伎舞踊(『京鹿子娘道成寺』)、道成寺伝説、日本昔話をベースに虚構的及び私的(自伝的)挿話を用いた、『仮揃・昔話乞食道成寺【第一稿】』という題名の実験的小説の試作について紹介し考察を試みる。 また多重性の別のレベルとしてシステムと人間との制作上及びコンテンツ内でのそれがあり、800以上の日本昔話の要約構造から生成された文章を小説の中に点綴し、文章生成AIからの出力も一部利用する。但し何れも筆者自身が大幅な修正を施している。 筆者は620ページのこの小説をAmazon Kindle Direct Publishingとして2024年末に出版した。本小説の文章をもとにした展開と公表―単語の自動置換による「暗号化版」の作成、画像及び音楽の生成AIを利用したマルチメディアコンテンツ化、外国語への翻訳等―と共に、上記概念や展開等に基づく第一稿の第二稿への改訂を進めている。