【講演概要】

ラウール・ハウスマンによる<ことば>の造形

小松原 由理 (神奈川大学 外国語学部 国際文化交流学科)



芸術の危機、言葉の危機 ――20世紀転換期に多くの芸術家たちが直面した二つの危機に際し、 示唆に富む思想と作品を残したのがラウール・ハウスマン(1886-1971)である。 初期の作品である視覚音声詩は、同時代的な前衛詩のなかでも、 とりわけ共感覚性の創出に重点が置かれ、またダンスというパフォーマンスを詩学に融合させながら、 詩と身体の接点の先にあらたな〈ことば〉の形を模索した。 この試みは、これまで絵画における実践として捉えられてきた 〈フォトモンタージュ〉 の発明、そして共感覚創出のマシーンであるオプトフォンのアイデアとともに、 やがて脱人間的・脱主観的知覚の実践〈場〉へと大きく展開していく。 本講演においては、さらに亡命を経て書きつづられた文学作品『ヒュレー』をも、 彼の〈ことば〉をめぐる探求の一つと位置付けながら、 「ダダイスト=破壊者」というレッテルを超えて、ハウスマンの芸術的挑戦を 〈ことば〉という観点から再考察したい。