金田 重男 (同志社大学大学院・工学研究科/総合政策科学研究科)
ソフトウェア開発工程の最上位である要求分析では,対象世界をクラス 図・ER図により表現する.クラス図等は,英語圏で開発されており, 英語の認識構造が反映されている.しかし,我が国のSE(ソフトウェア技術者)は, オブジェクト指向方法論を日本語訳で読み, 当該方法論を日本語の認知構造の中で習得しようとする.たとえば, Objectを「もの」と訳し, 「ものの視点で対象世界を認識することがオブジェクト指向」と理解する. しかし,英語と日本語の認知構造が異なる以上,英語圏の手法を単語対応に 「翻訳」しただけでは,当該手法の本質を実現できていない恐れがある. 本稿では,認知言語学の視点から,クラス図等が, 英語の認知構造そのものであることを示す.結果的に, 日本語で書かれたユースケース記述からクラス図等への変換は日英翻訳となる. オブジェクト指向を日本語で理解している限り,日本人のSEは, 欧米人よりも余計な手間が掛かる恐れがある.この問題を回避するため,本稿では, いくつかのプラクティスを提示する.