【講演概要】

メタバース空間におけるファントムセンスの誘発特性と生理的反応の比較

○加賀 奏汰 葵 隼,角 薫 (はこだて未来大学)


本研究は、メタバース空間において、実際の物理刺激が存在しないにもかかわらず触覚が生起する現象であるファントムセンスに着目し、複合感覚提示が主観評価および脳活動に与える影響を明らかにすることを目的とした。近年、ソーシャル VR 環境では「触れられた気がする」といった体験が多く報告されている一方で、視覚・聴覚・触覚の組み合わせを系統的に操作し、主観指標と生理指標(脳波)を同一の実験枠組みで比較した研究は十分とは言えない。そこで本研究では、仮想環境上で、視覚のみ、視覚+聴覚、視覚+触覚、視覚+聴覚+触覚の4条件を設定し比較実験を行った。被験者は大学生男女60名であり、脳波計を装着した状態で、落下・斬撃・温感の3種類の課題を体験した。各課題の前後には安静着座状態でのベースライン計測を行い、課題条件との差分に基づく解析を実施した。主観評価としては、ファントムセンスの強度を中心とした質問紙調査を実施した。生理指標としては EEG を用い、μ帯域、β帯域、および 1?40 Hz の総帯域パワーを算出した。解析では、試行全体の平均値に加えて、スライディング窓を用いた時間変化解析を行い、前頭・頭頂・後頭の各 ROI に集約した上で、条件間の差を 2×2 要因分散分析により検討した。結果、試行全体の平均値では明確な差が確認されにくい一方で、時間変化を考慮した解析により、特定の時間帯において触覚刺激の付加が μ帯域や total 帯域の変調に関与することが示された。特に斬撃課題および温感課題では、触覚刺激を伴う条件で脳活動の変化が顕著に現れる区間が確認された。以上の結果から、ファントムセンスは単一感覚ではなく、複数感覚の統合過程として理解される現象であり、とりわけ触覚の付加が脳活動の時間的変調に影響を与える可能性が示唆された。