岩垣 守彦
シュテファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』の中に、 アントワネットの台詞として「パンがなければケーキを食べればいいじゃないの」 がある。アントワネットが言ったという記録はないし、 「ケーキ」ではなく「ブリオッシュ」だとも言われている。 しかし、この台詞から「パンを食べる部類の人」と「ケーキを食べる部類の人」 の区別が透けて見える。それはイギリスのgentlemanの定義の一つ 「食うために働かなくてもよい人」を連想させる。 ガラスの靴を置いて帰ってしまったシンデレラの話と同様の話が中国南部に残っているが、 「パンがなければ・・・」に似た台詞は中国にもある。 同じような話や台詞が東西にあるということは、 何か共通する認識があると考えることができる。それは「物語」にもいえる。 昔話はたいてい「ケーキを食べる部類の人たち」、つまり、王様や王子様、 お后様やお姫様を主人公にして話が進む。 これはどのような認識が基盤になっているのだろうか。