【講演概要】

言語に現れた主観性と間主観性 ― 生態心理学の観点から―

本多 啓 (神戸市外国語大学)



.本論は、言語に現れる主観性と間主観性について、 生態心理学の観点から検討することを目的とする。 その過程で浮かび上がるのは、 主観性が間主観性に支えられているということである。 主観性に関しては、生態心理学では、 環境の知覚に知覚者自身の自己知覚が伴うと考えるので、 「世界を語ることは、同時に自己を語ることだ」と言える。 また生態心理学では、他者の知覚にも自己知覚が伴うと考える。 これは間主観性に関わる問題である。 本論ではこれに関して、 環境内の事物の知覚が他者の知覚にガイドされる場合があり、 それが言語現象として現れることを示す。 これは、主観性が間主観性に支えられていることの一端である。 次に、間主観性が関わる現象として、英語における一人称代名詞 I の習得を取り上げる。 「自己」の表現という一見「主観的」と見えるものが、実は間主観性に基 礎づけられていることになる。 最後に、アフォーダンスとコミュニケーションの問題を検討する。 事物の持つアフォーダンスは、厳密には個体ごとに異なる。 このような「共有されない環境の意味」をめぐるコミュニケーションをもとに、生態心理学に おけるこれまでのコミュニケーション論を批判的に検討し、 より妥当なコミュニケーション論を目指す。 本論は、認知言語学に今なお見られる暗黙の独在論ないし個体能力主義的な傾向を自覚的に越える方向性をもつものである。