本多 啓 (神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科)
本論は本多(2009, 2011)を踏まえ、その知見の応用として、 生態心理学の観点から時空間メタファー表現における視点ないし主観性の問題を検討する。
メタファー全般については、本論ではLakoff らによる概念メタファー論の考え方を採用する。 この考え方では、メタファーとは、ある事物についての経験・理解を、 別の事物の経験・理解に基づいて行うことである。時空間メタファーの場合には、 人間の時間についての経験・理解の一つのあり方が、 空間についての経験・理解と時間についての経験・理解の間に構造的な対応関係(写像関係) を確立・慣習化・定着させることによって成立しており、 空間表現が体系性をもった形で時間表現に転用されているのは言語におけるその現れである、 と考えることになる。
本論の直接の課題は、 移動動詞の主語として人物が現れているような``Moving Experiencer'' モデルと時点が移動動詞の主語となっているような``Moving Time'' モデルの関係を再考することにある。 そしてその議論を運動の相対性の概念と生態心理学の自己知覚論によって基礎づける。 それを踏まえて、時空間メタファーの構造を再考し、新たな分類を提案する。