〇林 侑輝 (千葉大学融合理工学府)、 阿部 明典 (千葉大学文学部)
前回のことば工学研究会では、 「主観的内面の言語化を支援するシステムの構築」[2022, 林]というタイトルで、 言語化の支援をするシステムの骨格を提案した。 このシステムは、認知症者の家族や発達障害の当事者、 学習に困難を抱える生徒などを想定したもので、 ユーザが入力した断片的な言葉に自動的に文脈を与えるという意味での「支援」と、 ユーザ自身が文脈を付けるのに役立つ知識を提供するという意味での「支援」 という2つの側面を持つものであった。いわゆるチャットボットとの違いとしては、 「うまく言えないんだけど...」「なんかおかしいような...」 といったような非文を想定している点である。従って、必然的に、 ユーザの陳述や要求に明確な「応答」を返せるシステムの実現は、 あまり期待できない。ナラティブ・アプローチが矮小化されて「傾聴」 ばかり重視された向きもあったが、ユーザの断片的な言葉に「はいはい」 と相槌を打ってやるだけでは、あまり意味をなさない。そこで、ユーザの 「うまく言葉に表せない意思や悩み」は、 いっそユーザ自身で解決するほかないのではないか、 というのを本システムのコンセプトに据えてみる。 特に、本発表では、医師や家族、ロボットには対処が難しいと思われる「おぼろな」 言葉に焦点を当て、ユーザ自身でそれに対処可能かどうかを、検討する (発表までに、簡単な実験も予定している)。おぼろな言葉には、 必ずしも輪郭を与えなくても、ユーザ自身は満足するポイントがあるのではないか、 というのが現時点での仮説である。