【講演概要】

物語形成に伴う“人間の誕生”に関する考察
視点の形成とそれにともなう連想の惹起

原田 暢善 (千葉大学フロンティア医工学センター)



「宗教という技法」(竹沢尚一朗氏著)、 において物語の機能に対して以下のように述べられている。第一として、 「物語がさまざまな出来事を筋立て(プロット)の形に結び合わせることで、 出来事のあいだに一定の秩序を打ち立てるものであること」と述べている。 第二Aとして、「物語がさまざまな行為や出来事の継起として成立するためには、 それらの行為をおこない、それらの出来事を経験する登場人物を必要としていること」 と述べている。第二Aの機能に対してさらに第二Bの言及が行われている。 第二Bは、丁度第二Aの逆からの言説となる。 「物語とは登場人物が何かをなにかをなすことと定義されるが、 (中略)、 おそらくその逆も真実である。」、続けて、「物語とは、 出来事と行為について語ることによって、行為者を生み出す作業である。」 加えて、「物語とは、そこに主人公を、つまりさまざまな出来事を経験をしながら、 一つの主観を持ってそれらを統合するような<私>を生みだす作業である。」 と述べている。本項は、上記の第二Bの機能に着目し、検討を行いたいと考えている。
回想法の機能に関して、上記の第二Bの観点の適用を行いたいと考えている。 回想法とは、特に高齢者において、他者に対し、自身の過去を、“振り返る”、 “過去をあるまとまりとして語る”、“過去をある物語として語る”、ことにより、 自身の“語った過去”と向き合い、受け入れることで、 現在の自分を受け入れることを促す、という心理療法である。 彼らの語りを良き聞き手が、受容的、共感的に聴くことで、 うつ病などの高齢者の治療に有効であるとされている。回想法の物語形成過程に、 上記の、第二Bの観点を適用しようと考えている。
自閉症 (ASDスペクトラム) 者の研究において、視点の形成 (取得) に関する研究がある。視点の形成(取得)とは、 “他者の立場になって状況をはあくすること”と言われている。 他者の立場になって状況を把握することとは、他者の立場になって視点を形成し、 その視点に基づいて、連想を惹起させてゆく過程である。視点の形成 (取得) とそれにともなう連想の惹起こそが、ある意味、物語形成過程の“人間の誕生” 関連していると考えている。本課題にも、上記の、第二Bの観点を適用したい。
物語形成過程において、“初め”+“中間”+“終わり”の構造において、 “中間”が、“初め”と“終わり”における、 連想のギャップを補完する機能を有すると考えている。 “中間”の連想のギャップを補完する機能は、広い意味での“アモーダル補完” に相当する機能であると考えている。物語形成過程の“中間”の機能としての “アモーダル補完”に関し、上記の、第二Bの観点を適用したいと考えている。