浜田 秀 (天理大学)
マンガには,絵画とも文学とも異なる,一種の「記号性」ともいうべき特質が存在している。 マンガ記号は文学表現や絵画表現とは異なっているが、 それらは約束事の上に成り立っているために我々はその意味するところを容易に了解できる。 マンガにおいては、時間もまた記号的に表現される。本発表では、 言語学研究によって近年議論されている 「アクチュアルーポテンシャル」概念がマンガのコマ内の時間性を分析する上で有効であることを示す。
現代日本のマンガのコマは内部に何らかの 「アクチュアルな時間性」を文体上のプロトタイプとして持つ(マンガのコマの時間性仮説)。 この「時間的アクチュアリティ」は言語表現の「運動」および「一時的状態」に相当し、 吹き出し内のセリフ・吹き出し外のオノマトペ・マンガに見られる固有の抽象的記号といった諸要素によって表示される。
また、以上の要素を持たない場合、マンガのコマは、「異化効果」をもつものとして認識され、 種々の修辞的効果をマンガにもたらす。