福島 宙輝 (神戸大学)
以前、「ビフテキととんかつとノイヤールスブレッツェル―世界の祝祭食における記号とメタファ―」というタイトルで発表を行った。その際には、味覚の作品が象徴性を持たないことを理由に美学の議論範疇外とされていることへの反例を示すことを主題とした。今回は同じく祝祭食を扱うが、ケアの美学の実践的行為としての祝祭食を考えてみたい。近年、日常の美学や倫理的実践と結びついた美学上の議論としてケアの美学が注目される。ここでは伝統的な美学が対象と判断の学であったことが批判され、美学の議論の焦点を対象から制作者、鑑賞者、実践者の内的な営みにシフトすることが主張される。ケアの美学、日常の美学の主要論者であるYuriko Saitoの議論をもとにして、「物が媒介する思いやりのコミュニケーション」としての祝祭食の性格を検討し、祝祭食とその動機としての願いの間にあるメタファをケア概念が媒介していることを示してみたいが。