【講演概要】

会話 (口頭言語) と文字言語におけるスキーマの普遍性の違い
―ASD 特性から 見えてくること― (OL)

青木 慎一郎 (岩手県立大学)、小方 孝 (大和大学)、小野 淳平 (青森大学)



「ことば」が使われるとき、それが会話 (口頭言語) であっても、文字言語 (小説、映画、演劇等) であっても、そのストーリー (物語内容) の受け入れには無意識のうちにスキーマ (情報を受け手が処理するにあたっての型や枠組み) が用いられる。しかし、会話と文字言語を比べると、文字言語は対象が限定されず、情報は多いのだが視覚や聴覚に限られやすく、記憶としては長期記憶の情報が多い。これに対して会話は対象が「今、ここ」に限られる一方で、情報は視覚、聴覚だけでなく多彩である。そして、ワーキングメモリ―と呼ばれる、その場だけで多くは消去される短期記憶の役割が大きい。つまり、それぞれのストーリーを受け入れるスキーマが異なることが予想される。  このような会話と文字言語におけるスキーマの差異について検討されてこなかったのは、人間の感覚がほぼ一定であるという仮定に基づいているからだろう。この感覚に差があれば情報量も異なるためスキーマ、ひいては受け入れるストーリーに影響するはずである。ASD特性の方には「感覚入力に対する敏感性」による情報過多がある。注目したのは、ASD特性の方が文字言語は得意だが会話は不得意だというその差である。  上述のように、会話においては対象が限定されているし、背景となる情報の種類が多様である。そのため、会話では文字言語と比べると、その場かぎりの絞り込まれた普遍性の低いストーリーを受け入れるスキーマが要求される。会話の場合は相手がだれかによっても普遍性が異なる複雑さもある。一方、対象や状況を問わず伝えられるという意味での普遍性は文字言語の方が高くなる。ジュネットは「物語の言説 (表現された言葉) 」と「ストーリー (物語内容)) と「語る行為 (物語行為) 」の三つを分ける。会話においては、文字言語に比べて言説からストーリーを作る「物語行為」においてスキーマの普遍性が低く絞られるということである。 ASD特性者はその敏感性から情報量も多く記憶力も優れている。会話においても情報過多のために混乱した場合には、過去の文字化した経験や読書や辞書的な受けとめに等の多くの情報を含んだストーリーをつくる選択をする。ASD特性の方は情報を簡略化することなく文字言語的なストーリーを作り出す。つまり、ASD特性発言はスキーマの普遍性を低く絞らない。そのため、定型発達者からみれば、発言が文字言語的であり会話に行き違いが生じる。これが「字義的」「空気が読めない」といわれる。このような、文字言語に対する会話スキーマの幅の狭さ、つまり作られるストーリーの普遍性の低さを表現しているのが、萌芽状態 (リクール) 、コンテクストの反映 (オング) 、会話の含み (グライス) ともいえるだろう。