卒業生の体験談紹介

はじめに:近未来チャレンジへの挑戦のお誘い

近未来チャレンジサポーター 阿部明典(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)

近未来チャレンジが始まってから10年以上がたっています。

近未来チャレンジが始まった頃は人工知能は役にたたないと烙印を押されていました。人工知能冬の時代と言われていた頃です。世間からは、かなりつらい北風が吹いていました。それではいけないということで、人工知能の良さを社会に再度アピールするために始まったのが近未来チャレンジです。5年以内に実現可能であるという条件をたてました。つまり、SFではないのです。始まってから何件かのチャレンジがめでたく卒業し、チャレンジの間に企業と共同で開発を行ったチャレンジもありました。卒業後、研究会を立ち上げ、更に継続して研究を進めているチャレンジもあります。このように一度は北風にさらされ、枯れ木になったかも知れませんが、人工知能の木は春の風を受けて、着実に実をつけてきていると思います。

新しい研究は他人からは、中々理解してもらいづらいものです。しかしながら、近未来チャレンジでサバイバルすることにより、学会からその研究に対してお墨つきをもらったような感じになります。又、やや義務と感じるかも知れませんが、サバイバルをすると論文を書く権利も与えられます。幸い、人工知能学会の論文は無料でオンライン公開されているので、色々な分野の方の目に触れることが多いです。論文が他の分野の方の目に触れることで、一生会う機会もなかったかも知れない人との繋がりも出来る可能性が十分あります。当然、近未来チャレンジセッションに新たな邂逅を求めてくる人もいます。チャレンジが始まると、すべてが提案者を中心として回り始めます。最初の一歩はおっかなびっくりかも知れないですが、兎に角、一歩足を踏み出してください。是非、チャレンジを提案して、自分が主導して研究を進めることが出来るという愉しさを満喫してください。

以下では、今までにニューチャレンジと4回のサバイバルを勝ち抜き、見事「サバイバー」の称号を獲得された近未来チャレンジ卒業生のみなさんに、近未来チャレンジ参加のきっかけやそのメリット等について、ざっくばらんに語っていただきました。これらの体験談をご参考に、ぜひ新しいチャレンジャーとしてお申し込みください。

阿部明典近影阿部明典

認知症予防回復支援サービスの開発と忘却の科学

近未来チャレンジサバイバー 大武美保子氏(東京大学)
(チャレンジ期間:2007-2011年)

大武美保子氏近影大武美保子氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 近未来チャレンジ卒業生で、学科の先輩の矢入郁子先生にチャレンジを勧められ、存在を知りました。取り組み始めたばかりの新しい研究テーマ「認知症予防回復支援サービスの開発と忘却の科学」が、社会に役立つ人工知能技術の開発という近未来チャレンジの趣旨に合致していると考え、参加を決めました。

oohtake_kaigo.JPG介護予防施設における共想法に基づく認知症予防回復支援サービスの様子

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • 近未来チャレンジに参加したことによって、当初計画を立てた方向に向かって研究を展開することができました。具体的には、2007年にニューチャレンジとして提案するのと同時に、実施研究拠点としてほのぼの研究所を設立し、千葉県柏市で本格的に活動を開始、翌年運営組織をNPO法人化しました。認知症予防回復支援サービスの核となる、写真を用いた双方向を支援する提案手法、共想法の実施研究基盤となる情報システム「ほのぼのパネル」を開発し、2010年には長崎県の病院、埼玉県の福祉NPOでのサービス実施研究が始まりました。
  • また、毎年開催した近未来チャレンジセッションをきっかけに、新たに多くの人とのつながりができました。これまでセッションに参加された方が参加するメーリングリストには約60名が登録されています。特に、セッションで発表頂き、議論することを通じて、その後の共同研究や様々な企画のきっかけをつかむことができました。広範囲の分野の方をお誘いしたので、セッションで初対面の人が多く、異分野の研究に興味がある方に、参加を楽しんで頂けたと思います。また、チャレンジで知り合った参加者同士の共同研究もどんどん生まれていて、次の年のセッションで、新たな組み合わせの発表があって、びっくりしたほどです。セッションが一種の触媒になれたのではないかと思います。また、このセッションに特有かと思いますが、認知症予防回復支援サービスの研究に一緒に取り組んでいる、ほのぼの研究所の市民研究員の方が、毎回のセッションにトップバッターで発表しました。84歳の方を皮切りに、これまで4名の方が発表にチャレンジされました。文字通り、チャレンジセッションだったと思います。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • これまで、いろいろな分野の学会に参加したことがありますが、近未来チャレンジのような自由な取り組みができる学会は他になかなかないと思います。趣旨と合う研究に取り組まれる方、これから取り組もうと考えている方に、是非お勧めします。5年後の目標を宣言するのはチャレンジングですが、多くの仲間を得て、目標からぶれずに研究を進めることができます。

━━━その他、何か印象に残っておいでのことはありますでしょうか?

  • セッションで初顔合わせの方が多いこともあり、必ず前夜には交流会を開催してきました。2008年旭川(ラーメン)、2009年香川(うどん)、2010年長崎(ちゃんぽん)、2011年盛岡(冷麺、じゃじゃ麺、わんこそば)と、毎年ご当地の麺を楽しみました。ここ数年、人工知能学会全国大会が、麺で有名な土地で開催されていることに気づいたのは、2008年のセッションにトップバッターで発表されたほのぼの研究所の市民研究員の方です。2009年から開始した、ほのぼの研究所のブログ、ほの研ブログに、近未来チャレンジセッション参加報告と旅行記が掲載されています。
  •  また、2012年1月には、共想法に関する世界初の書籍「介護に役立つ共想法」が出版されました。実際に用いられた写真と話題が、全部で30件以上掲載されています。

セッション交流会記念撮影セッション交流会記念撮影

情報編纂の基盤技術

近未来チャレンジサバイバー 加藤恒昭氏(東京大学)
(チャレンジ期間:2006-2010年)

加藤恒昭氏近影加藤恒昭氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 自分で問題を解決する力がないからなのですが、旗振りばかりをやっています。NTCIRという評価型ワークショップで、質問応答に関するタスク(QAC)や動向情報の要約と可視化に関するタスク(MuST)の運営に絡んできました。評価型ワークショップでは、参加者に閉じて密な議論をすることが多くなります(ただ、MuSTは評価型ではなかったので、NTCIRの中では異質でした)。MuSTを運営していて、そういう方向とは別に、興味や成果を広くアピールし、開かれた形での議論をする場を持ちたいと思い、近未来チャレンジに応募しました。最初にその話を持って来てくれたのは、MuSTを一緒に運営していた松下氏だったと記憶しています。一定のグループで行われた密な議論を発信すると同時に、より広い関心をアピールして多くの方の参加を求める、そんな場として近未来チャレンジを使わせていただきました。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • そのような動機でしたから、我々の近未来チャレンジ「情報編纂の基盤技術」は、ちょっと他の近未来チャレンジと違っていました。提案者の発表は恐ろしく少なく(ある年は一件もありませんでした…)、関連するワークショップであるMuSTの参加者の発表やテーマに共感してくださった方々の発表を中心に構成されていました。参加のメリットはこのことに尽きます。共有できる部分を持ちながら、様々に広がる人達の議論の場を作り出せたことです。
  • また、近未来チャレンジに参加してサバイバルすると「義務」として論文の投稿が課されます。この論文はふつう提案者が執筆するのですが、「情報編纂の基盤技術」では、提案者以外の発表者の優れた研究を論文として投稿させていただくことを実行委員会に提案させていただき、了解され、サバイバル中5件の論文のうち2件はそのような提案者以外の方の論文となっています。こういう機会が作れたこともメリットでした。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 近未来チャレンジには色々な「使い方」があると思います。人工知能学会の運営は柔軟なので、新しい形の近未来チャレンジも受け入れてくださるに違いありません。多くの人間が定期的に集まる全国大会の中で行われるという特徴(多くの人間というのも大事ですが、1年に1度確実にやってくるということも結構大事です)を活用して、それぞれの近未来チャレンジを工夫してください。

━━━その他、何か印象に残っておいでのことはありますでしょうか?

  • 「情報編纂の基盤技術」の関心は、情報編纂研究会に受け継がれています。こちらも広い関心で多くの参加者(発表)を求めると同時に、密な議論を続けています。ぜひ、ご参加ください。

情報編纂の図(近未来)

情報編纂の基盤技術

近未来チャレンジサバイバー 松下光範氏(関西大学)
(チャレンジ期間:2006-2010年)

松下光範氏近影松下光範氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • ことの発端は2005年に遡ります。自然言語処理を用いたインタフェースの研究を進めていた私は、当時常に「自分はどのコミュニティの研究者なのか?」という問題に悩まされていました。境界領域といえば聞こえは良いのですが、その実態は、言語処理系のコミュニティ、インタフェース系のコミュニティのどちらに行ってもそこはかとない外様感を感じてしまうカモノハシでした。そこで、「必要は発明の母、ベストマッチなコミュニティが無いならば作ってしまえばいい」という極めてシンプルな考えのもとに、 評価型ワークショップNTCIR のパイロットタスクとして「動向情報の要約と可視化(MuST)」というワークショップを、東京大学の加藤先生と共に立ち上げました。所期の想定を超え、MuST には 15 を超える研究機関・企業の方の参加をいただき、活発な議論ができるコミュニティが形成されました。その一方で、評価型ワークショップの枠組みにとどまらない関心や方向性に関するニーズも浮かび上がってきました。そこで、MuST の発展的延長線として、近未来チャレンジという場を利用させていただこうと考えた次第です。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • 多様な背景を持つ研究者が同じ課題・関心の下で共に議論しあえる場の「わくわく感」というのは、研究者にとって何にも代え難いものです。近未来チャレンジは、そのような場を定期的に設ける「仕掛け」として機能しました。他の近未来チャレンジは、すでに形成されたコミュニティが核となり、その外縁を広げていくという形態であったように思います。私たちのチャレンジはその反対で明確な核があるわけではなく、共通の問題意識の下に様々な立場からの研究が集まってくることで結果的にコミュニティが形成される、という形態だったため、提案者である私たちが一番学ばせていただいたり刺激をいただいたりしたように思います。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 近未来チャレンジは、柔軟な人工知能学会ならではの企画だと思います。自らの持つ技術の可能性の追求、社会的な認知度向上のための機会獲得、新規コミュニティの形成など、様々な目的の下で「使える」枠組みだと思います。毎年行われるサバイバルという仕組みや、サバイバル成功後に課せられる論文提出も、研究の Driving Force として有効に機能します。案ずるより産むが易し。どうしようか迷っているなら、騙されたと思って参加してみてはいかがでしょうか。

━━━その他、何か印象に残っておいでのことはありますでしょうか?

  • MuST のロゴは図のようなぶどうの図でした。これは、must という英単語が名詞として「果醪(かもろみ)」という意味を持っていたからです。かもろみとは、ブドウなどの果汁で発酵する前の状態のもののことです。異なる技術(一つ一つのぶどう粒)が集まってひとつの大きなシステム(房)を構成し、そこから成果(果醪)が産み出されるという枠組みこそが、MuSTという取り組みの特徴でもあり、情報編纂の基盤技術というチャレンジに引き継がれた理念でもあります。そして現在、それは情報編纂研究会へと引き継がれています。皆様のご参加が、より芳醇なワインの醸造につながりますので、ご参加をお待ちしております。

MuSTロゴ

オープンライフマトリックス

近未来チャレンジサバイバー 本村陽一氏(産業技術総合研究所)
(チャレンジ期間:2006-2010年)

本村陽一氏近影本村陽一氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • これまで基礎的研究をしてきたテーマである「大規模データを用いた機械学習研究」を進めるためには社会との接点と、日常生活中にデータを取得する必要があることを感じていた。その時ちょうど、子どもの傷害を予防するために病院で収集される事故情報データを分析するプロジェクトを産総研の西田(下写真)と開始することになった。
  •  そこで、近未来チャレンジを「日常生活行動の計算モデル化」の基礎的な研究プロジェクトの主軸として、そのアウトプットを成果を活用する社会貢献型の別プロジェクトとして進めるというプランを実行に移すことにした。この基礎と社会応用の両方の活動を同時に進めるという決断は限られたリソースの中では、かなり勇気のいる決断であった。
  •  しかし、実際に活動を進める中で、子どもの傷害予防プロジェクトのために小児科医の山中先生や、病院の救急センターの看護師さんや行政の関係者など非常に多岐に渡るステークホルダーと出会い、社会貢献と研究推進を同時に進める活動の意義を感じた。
  •  現在、この研究の進め方については日常生活や実サービスの中でデータを収集しながら計算モデル構築と問題解決を同時に進める「オンライン型のアクションリサーチ」として関連リンクにあげた複数のプロジェクトでも定着しつつある。

産総研西田氏と写真撮影産総研 西田氏(写真右)

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • 毎年全国大会において報告する機会があることから、常に緊張感を持ちながら、中間アウトプットを心がけて活動を進めることができた。また、プロジェクトを進める中で出会った他分野の研究者をセッションに呼び込むことで研究コミュニティの幅を徐々に広げていくことができた。さらに子どもの傷害予防だけでなくサービス工学、復興支援プロジェクトへの発展や、企業との共同研究についても日常生活行動の計算モデル化という視点をしっかり持ちながらも、その適用範囲は大きく展開できたように思う。またセッションを知って参加していただいた他の研究グループの方々との交流も大変有意義であった。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 「基礎研究」と「社会貢献」の両立、あるいは「基礎研究」によって社会に変化をもたらしたいと思う野心的な研究者はぜひ、思い切って飛び込んでみて欲しい。はじめてしまえばなんとかなる。

関連ページ
子どもの傷害予防プロジェクトの発展
サービス工学への発展
復興支援プロジェクトへの発展
医療現場支援プロジェクトへの発展

Community Web プラットフォーム

近未来チャレンジサバイバー 大向一輝氏(国立情報学研究所)
(チャレンジ期間:2005-2009年)

大向一輝氏近影大向一輝氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 近未来チャレンジにエントリーした2005年は大学院を修了する直前、これから就職するというタイミングで、今後の研究テーマについて模索している時でした。いまやウェブとコミュニティは一体化していますが、当時はブログもSNSも新しもの好きのためのサービスのひとつでしかなく、研究のターゲットにしてよいものか確信が持てなかったのが正直なところです。いろいろ悩んだ挙句、自分の考えていることに意義があるのかどうかを人工知能学会のみなさんに投げかけてみようという発想に至り、前から気になっていた近未来チャレンジの仕組みを活用することにしました。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • とにかくまだ名前もついていないような分野に興味を持つ仲間に出会えたのが最大の収穫です。2006年度からの4年間で50件以上の発表がありましたが、その大半が純粋にCFPを見て投稿いただいた、私の知人ではない方からのものだったことが印象深いです。近未来チャレンジのセッションとしては統一感がないというご批判もいただきましたが、振り返ればこの4〜5年間は新しく生まれつつある研究分野における試行錯誤の段階だったと思いますし、それを継続するために必要不可欠な、同じ志を持った仲間のコミュニケーションの場が提供できたのではないかと思っています。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 個々の発表ではなくセッションそのものが評価の対象となる近未来チャレンジの仕組みはとてもユニークです。主催する側としては、そもそも研究者のみなさんに発表の場として選んでもらえるか、また発表が集まったとして評価に値する構成になっているかなど、普段の研究活動で直面することが少ない、けれども今後社会と向き合っていくために重要な視点について集中的に考えるトレーニングになりました。貴重な機会なので、とくに若手のみなさんにどんどん挑戦してもらえればと思います。絶対に損はしません!

事例に基づくデザイン技術と評価基盤の構築

近未来チャレンジサバイバー 片寄晴弘氏(関西学院大学)
(チャレンジ期間:2003-2007年)

片寄晴弘氏近影片寄晴弘氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • コンテンツデザインを行う際には、オリジナリティを追求するより前に、受容者の気持ちをどの方向に持って行きたいかということをよく考えていく必要があります。僕自身、インタラクティブメディア作品の制作に携わった経験があります。チームでお仕事を進めることも多かったのですが、その際、イメージの共有をはかるのに、サンプルというか事例を使ってお話を進めてきました。このことを、いろんなデザイン領域の人と考えてみたいと思ったことが、参加のきっかけです。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • 科研費の調査研究が採れていたこともあるのですが、合宿が開催できて、さまざまなデザイン分野の人とお話することができました。大変ではありましたが、いわゆるリサーチの場とこの近未来チャレンジでの発表の場の双方が確保できたことは研究をドライブするにあたって大きなメリットとなりました。ここでの経験は、後のCREST採択(音楽デザイン支援・能動的音楽鑑賞での研究)にもつながっています。

座談会の写真1座談会の様子1

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 自身の研究を進めて行くことはもちろん重要なことですが、コミュニティを作っていくことで、その領域の新たな展開が見込まれます。近未来チャレンジは、コミュニティを広げるのに、良い機会になると思います。

座談会の写真2座談会の様子2

事例に基づくデザイン技術と評価基盤の構築

近未来チャレンジサバイバー 平田圭二氏(はこだて未来大学)
(チャレンジ期間:2003-2007年)

平田圭二氏近影平田圭二氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 最初、関西学院大学の片寄晴弘先生に加わらないかと声をかけていただきました。すでに存在している作品やコンテンツ(事例)を利用して自分の作品を生みだすという方法論は、当時自分も同じようなことを考えていて興味が合いました。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • 近未来チャレンジの「近未来」とは、「5年以内で社会貢献できる現実路線の人工知能技術」という意味です。毎年のチャレンジにサバイバルするためには自分のやっている研究の「近未来性」について考えなければなりません。この考える機会が与えられたことは良かったと思います。
  • デザインや芸術や脳科学などの分野から片寄チームに集まったメンバは多士済々でした。そのような方々と合宿して時間を気にせず議論できたのは有益でした。
  • チャレンジ中の5年間は、毎年人工知能学会全国大会に参加して発表しなければなりませんでした。スケジュールのやりくりが少々大変でしたが、全国大会に参加することでしかで感じ取れない「時代の雰囲気」というものがありましたし、おかげ様で知己を広げることもできました。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 人間は自分一人でどんなに頑張ろうと思っても、いつかどこかで気持が緩んできてしまうものです。そういう時には、近未来チャレンジを利用して、自分に適度なプレッシャーをかけるのが効果的だと思います。

危機管理シミュレーションとその分析

近未来チャレンジサバイバー石田亨氏(京都大学)
(チャレンジ期間:2001-2005年)

石田亨氏近影石田亨氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • デジタルシティ京都というプロジェクトで、避難誘導システムを開発していた頃だったと思います。「近未来チャレンジ」セッションを作るので投稿してほしいというお誘いを頂きました。本来、研究は10年、20年先を見通してチャレンジするものなのですが、妙に「近未来」という言葉に共感したのを覚えています。このときの感覚が、現在取り組んでいる「フィールド情報学」や「デザインスクール」に繋がっているように思います。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • このチャレンジで、二つの避難誘導実験を行いました。一つは、屋内の実験です。地下鉄京都駅の天井にカメラを十数台取り付けて、人の動きを捉えます。人の位置が分かりますので、その動きを仮想空間の中に再現します。例えば図1のように、仮想空間の各エージェントが、地下鉄京都駅の歩行者に対応します。歩行者が登録した携帯を持っていると、画面上でエージェントをポイントすることで個別に話ができます。

仮想空間を介した誘導の図図1:仮想空間を介した誘導の様子

  • 阪大の石黒浩さんたちのグループが画像処理を、京大の中西英之さん(当時)が仮想空間を担当しました。データの収集から最後にカメラを撤去するまで3、4か月かけて実験を行いました。
  • もう一つは、京都大学周辺で行った屋外の実験です。仕組みは屋内と同じですが、センサーが図2のように、屋内のカメラから屋外のGPS携帯に変わっています。また、現実空間の人をマッピングする仮想空間が、3次元空間から2次元地図に変わっています。携帯端末のインタフェースはKDDI研究所のご協力を頂きました。仮想空間の背後に、100万エージェントのシミュレーションが行えるIBM東京基礎研究所で開発された「Caribbean」を配し、そのエージェント群のシナリオを記述する言語「Q」を京大で開発しました。京大の中島悠さんなどの学生グループが実験の中心となりました。この屋外実験をプレスリリースしたところ、大きな反響があり沢山の取材をいただきました。

携帯電話を用いた個別誘導の図図2:携帯電話を用いた個別誘導

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 近未来チャレンジを卒業して5年経ち、東日本大震災を目の当たりにしました。危機管理がテーマであった私たちの研究が、震災に貢献できなかったことを残念に感じています。
  • 情報技術は成熟するにつれ、研究は一方では基礎に向かい、一方では社会と直面してきています。近未来チャレンジは後者の傾向が強いと思いますが、研究の当初から世の中と組まないと、結局、実を結ばないかもしれません。研究者にとっては難しいことですが、「まず技術開発を行い、次に実証実験をして、最後にフィールドに導入する」という研究スタイルは、見直す時期に来ているのと感じます。近未来チャレンジが、人工知能学会を中心に、フィールドから始まる研究方法論へと進化していくことを期待しています。

日常言語コンピューティング

近未来チャレンジサバイバー 岩爪道昭氏(情報通信研究機構)
(チャレンジ期間:2001-2005年)

岩爪道昭氏近影岩爪道昭氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 2000年当時、理化学研究所脳科学総合研究センター言語知能システムチームで新しく始まった「日常言語コンピューティングプロジェクト」(5ヵ年)を推進していくにあたって、同プロジェクトのマイルストーンとなるものを探していました。丁度その頃、人工知能学会全国大会の新企画として近未来チャレンジがスタートしており、人工知能分野の錚々たる先生方がチャレンジされており、同プロジェクトのプレゼンスを高める絶好の機会だと思い「若気の至り」で参加しました。

日常言語コンピューティングの実用化イメージ
記号ベースの構成

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • まず、アカデミアから毎年定期的にピュアレビューを受けられることが挙げられます。近未来チャレンジでは、学会会場で聴講される研究者の方々、そして近未来チャレンジ実行委員を含む選考委員の方々から、非常に多角的な視点で有益かつ忌憚のないコメントやご意見を頂きました。
  • 通常、論文や国際会議の査読の場合、多くても3名程度、大型の外部資金でも数名のアドバイザリーコミティからレビューを受けることがほとんとですから、このように多くの研究者、先生方から定期的にご意見を頂ける機会というのは、めったにないことです。これは、当所の目的であったプロジェクト推進にも大いに役立ちましたし、私自身にとっても成長の機会を頂けたと思います。
  • また、同じ関心や問題意識を持つ同志となる研究者を発掘して、新しい研究コミュニティを作っていけるところも大きなメリットではないでしょうか。現在は、オーガナイズドセッションがその一翼を大きく担っていますが、プロジェクト指向、実現志向、ピュアレビュー機能という意味では、依然として近未来チャレンジ企画の持つ意義は大きいと思います。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 若手の研究者の方々には、「若気の至り」でどんどんチャレンジして頂きたいです。万一、途中でサバイバルできなかったとしても、そこから得るものは非常に大きいと思います。

日常言語オペレーションシステムLOS基本構成図

日常言語コンピューティング

近未来チャレンジサバイバー 小林一郎氏(お茶の水女子大学)
(チャレンジ期間:2001-2005年)

小林一郎氏近影小林一郎氏近影━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 理化学研究所脳科学総合研究センター言語知能研究チームにおいて、ヒトの脳のハードウェアモデルではなく、ソフトウェアモデルとして構築することを目指した「日常言語コンピューティング」プロジェクトが、2000年4月に開始されました。日常言語コンピューティングは、ヒトの脳が実現している、高次の情報処理能力である「言葉を操作する」という知的な能力を基本メカニズムにして脳の機能モデルをソフトウェア的に実現することを目的としていました。このプロジェクトを進めるにおいて、客観的な評価を得ながらプロジェクトを推進していくことをしたいと考え、近未来チャレンジへ参加することにしました。

日常言語コンピューティングのシステム概観図日常言語コンピューティングのシステム概観

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • 近未来チャレンジセッションを通じてたくさんの研究者の方たちのから忌憚ない多くのご意見を戴くことができ、プロジェクトに反映させることができました。この間、多くの研究者の方たちと知り合いになれ、そのことは今でもとても大切な財産となっています。また、近未来チャレンジで開催していたセッションは、現在「意味と理解のコンピューティング」という名前のオーガナイズドセッションに変わり、その後も毎年全国大会でセッションを開催し、多くの研究者の方たちとの交流を図ることができています。

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 近未来チャレンジは、オーガナイズドセッションとは異なり、聴衆の方たちの評価により翌年の開催の可否が決まります。自分のやっていることに対して客観的な評価をもらうことができるとても良い機会です。また、多くの研究者と共同してサバイバルすることを目指すことにより、自分たちの新しい分野を切り拓く、新しコミュニティを形成する、絶好の機会だと思います。ご自分の研究に厳しい意見をもらい成長されたい方々は、積極的に参加なさってください。

高齢者・障害者の自立的移動を支援する Robotic Communication Terminals

近未来チャレンジサバイバー 矢入(江口)郁子氏(上智大学)
(チャレンジ期間:2000-2004年)

━━━近未来チャレンジ参加のきっかけは?

  • 夫が第一回目の近未来チャレンジセッションを聞いてきて「面白かった〜」と言っていたのが印象的で、その後、聴きに行くなら自分も出そうかな、とつい若気の至りで参加してしまいました。始まった当時は非常にヤワラカなゆるーい企画だなぁという印象でした。

━━━参加してよかったこと、メリットについて教えてください。

  • サバイバルしたあと、複数年、毎年1セッション運営する、という経験を若いうちに出来たことでしょうか。当時、近未来チャレンジの企画も年々真面目なものになっていき、やっていてどんどんハードルが上がっていったように感じました。あと当時は、いろんな研究者の方々とお知り合いになれ、毎年、全国大会とその後のオマケの人工知能とは何かを熱く語る飲み会に参加するのが本当に楽しみでした。残念ながら今は子供がいるので夫婦で同時に家をあけられず私自身は全国大会に参加できていませんが、いつかまたあんな飲み会に行きたいなというのが研究の励みです(笑)

━━━未来の後輩へ、一言お願いします。

  • 出来心程度のお気楽な気持ちで是非是非、チャレンジなさってみて下さい。いろいろ得難い経験がお出来になると思います。委員の皆さまも学会の皆さまも、本当にオープンマインドで親切です。

━━━その他、何か印象に残っておいでのことはありますでしょうか?

  • 自分の反省点としてですが、当時若かったので、毎年、会場の皆さまや委員の皆さまからいただいた貴重なコメントを上手に研究にフィードバックして生かすことができませんでした。当時は何人聴きにきたか、とか評価は何点だ、とか成果として示せそうな数字にばかり気が取られて、大事な点を忘れていたように思います。一つの研究プロジェクトを全国大会の1セッションをつかってまるごと聴衆が評価する、という面白い仕組みなので、ご自分の研究活動に自由な発想でご活用なさるとよいかと思います。委員の皆さまの仕掛けや遊び心にも期待しております。