Vol.30.No.3(2015/05)自然計算(Natural Computing)


私のブックマーク

自然計算(Natural Computing)

鈴木泰博(名古屋大学)

はじめに

「自然計算トハナニカ」と問われても, 実際のところ, なんとも曖昧で, 10人の専門家に聞けば10種類の定義があるでしょう. 洋の東西の”なんとか辞典”なぞをひもとけば, 大多数が不承不承に受け入れるような定義が示されていることでしょう. 本稿を私のような浅学の者に依頼をいただいき大いに戸惑うのでありますが, 自然計算の最左翼しかも末席, を汚させていただいている泡沫研究者としては, 本寸法の「自然計算学」なぞのご紹介はとてもできませんで, それは立派なご成書をご参照いただくこととして, 以下ではパルチザン的に毛色の変わった自然計算についてのブックマークを交えつつ少しご紹介させていただきたく存じます(それしかできないので, 申し訳ありません…世にいう”ひらきなおり”).

と, ここまでを申し上げて, 一気呵成に極左泡沫研究者による, ナナメはるか下をいく個人趣味的なる自然計算の世界に突き進む..ことは私に僅かに残存する社会的道徳心が”やめておけ”と囁くので, まず”ナナメ下の世界”のご紹介を簡単にささていただいて, 現世と迷途(めいど)とのつながりを少々つけさせていただきたく存じます(つながっていないのかもしれないデスガ).

計算

まず自然計算は”自然”+”計算”である…と, で”自然”はそのまま”自然, Nature”とさせていただいて..さて”計算”. 計算は”何らかの処理や動作なぞの列”としてしまいます(本稿をご高覧いただいた碩学諸氏の絶叫が聞こえてまいります…が). そういたしますと”歯みがき”であっても”計算”となりますね. 歯ブラシに, 歯みがき粉をつけて, 歯をみがき, 口をすすぐ. これらひとつひとつはすべて”何らかの動作”になり, その”列”が”歯みがき”になっています. この”列”を”アルゴリズム”とよばせていただいております. そして”プログラミング”とはアルゴリズムの改変といたします.

たとえばこの, 歯みがき計算, で”口をすすぐ”という動作を最初に行うように”プログラミング”してみます. そして計算を実行…果たして口の中が歯みがき粉でいっぱいになった状態で計算が停止することになります. つまり, この計算ではアルゴリズムが違うことにより結果がかわってしまいました(いわゆるChurch-Rosser性が保証されていない計算, もしこうした順序の非可換性をさけたいのであればKnuth-Bendixアルゴリズムなどを用いて計算の正規化を行う必要が…でも, どうやって歯みがきの動作に代数的順序を定義するのだろう..).

ともかくも, こうして計算に関連する概念をすこし一般化することによって, 自然を計算として記述, 理解できるようになりました…(ちょと強引ですが). このように一般化した計算を以て理解した自然現象はアルゴリズムとして抽象化されますので,再利用も可能です. たとえば, マルチスケールでの自己組織化現象のアルゴリズムをビックデータ解析に応用する…なんてことなどが, できるようになったらいいと思いませんか?

自然計算の基礎〜南方熊楠と科学論

このような科学的方法論は明治期に活躍した博物学者, 南方熊楠が「やりあて」として体系化しています. 南方熊楠とは..Nature誌に50本以上の論文をもつ, 世界的にも規格外の博物学者. その興味の範囲は粘菌, 細菌学, 植物学, 民俗学からオカルト現象の物理学的考察ほか多岐にわたるのですが, これまでは主に彼の”怪しさ”ばかりクローズアップされ, またひどく誤読されてきている現状は誠にもって残念無念. 彼は”かなり使える..!!..科学論”を構築しているのですが, いままで全く無視されてきました.. 閑話休題.

自然と計算

さて, 煙にまくように計算の定義をおこなったところで, さきほどなんとなくスルーした”自然”にもどります. ここで自然について考え込んでしまうと大変なので「日常的にわたしたちがつかっている自然という概念」としておきます. そうしておいて自然+計算=自然計算としてみます. するとちょっと困ったことがおきます. 足し算やソーティングなどのいわゆる”アルゴリズム”は計算のおわりが明示されてます(オペレーティングシステムや発券システムは計算がおわらないじゃないか!とおっしゃりたい諸氏, それは停止する計算(ファイルをとってくる, 発券する, など)がとまらないだけなので…). ですが, 自然+計算, たとえば「料理の仕上げにいつまで塩をふりつづけるか」, 「シグナル分子と受容体分子がいつまで結合しつづけるか(適当に離れないと次のシグナルを受信できません)」などは, 料理人の好みや分子の状態によるわけで, ソーティングのアルゴリズムみたいに, こうしたらおしまい, とはアプリオリに決められていません.

少しそれっぽく表現するとこれは, 自然計算ではアルゴリズムを与える主体と計算を実行する主体がおなじになってしまうことによるのです. なので, いつ計算をやめるか(停止問題)は, 計算主体が決めるもので, 計算主体の”外”からアルゴリズムを決めてしまって「すべて私のゆうとおりにやりなさいね. それ以外のことやったらデバックしちゃうぞ!」と計算主体を隷属させることはできないのです(やるなら, かなりスパルタ的に”自由”を完璧に奪って完全に隷属させないと..). もし分子反応を完全に隷属させることができるなら, 分子計算で”リーク(擬陽性のシグナル)”の問題で悩む必要なぞないでしょうね..また, 一挙手一投足が決められている寿司職人, はやってらんないでしょうね..あ, それって寿司ロボットか.

というわけでございまして, 計算を計算主体の外からアプリオリにアルゴリズムとしてすべて決めてあげれば, どうやってはじまってどこで終わるかが明快で合理的なのですが, 自然+計算の場合には..その時の気分や分子の状態などによってかわってしまいます. 自然+計算の場合には”心地よい(美とか), 安定的な(ポテンシャルが云々とか), 楽な”状態に到達すると計算がとまります. ちょうどよい塩加減だから塩をふるのをやめるし, 安定的であまり分子相互的に無理のない状態であるから比較的長く結合するわけです. そんなもんは科学じゃない!ってお叱りが聞こえてきますが…自然+計算だとそうなっちやうんです(計算って実はかなり主観的なものなのです). なのではからずも, 自然+計算となると, 計算は美学をおのずから含むことになってしまいます. 美学というと芸術や芸術史, とおもいがちですが, 美学とはそもそも”美”をあつかう学問でありますので, 計算での美学, 計算美学, をかんがえる必要がでてきてしまいます.

ハーネス計算

はてさて「そったら自然計算系でどうやって計算するか?」これはなかなかに難しい. なにしろ, アプリオリにアルゴリズムをつくって計算系を動かすということが, 本質的に困難, でありますので. そこで”なんとなく, そんな気にさせる計算みたいなもん”を考えさせていただいております. なにしろ計算主体がかなり自律的なので, 「こうしなさいねっ!」ってアルゴリズムを決めても, 自由を完全に奪って隷属させないと, 云うことを聞いてくれません. それに, その計算主体にはどんな”隠れた能力”があるかなんて, わからないわけでありまして…偏狭な見方でその計算主体の可能性を潰してしまうのも, まったくもってもったいないなと. だって, なんか計算せんといかん私たちからしても, 計算主体がすごい能力もってるならそれを存分に発揮してもらったほうがいろいろと手間も省けて楽だし, 計算主体としてもきっと, したり顔したワケノワカラン外野なぞいないほうがいいでしょう.

とうわけで, 計算主体さまに存分に能力を発揮していただきつつ, きっちりと目的の仕事をしていただく方法を「ハーネス」と名付けさせていただいております. ハーネスとは馬の轡(くつわ)だったりしますが, 轡はよくできていて,馬に自由をかんじさせつつ手綱で上手に操っているわけです. いわゆる”人馬一体”の状態がハーネス計算系でありまして, 馬の都合をかんじつつ騎手は馬に最大限の能力を発揮させるようにします. 一方で従来の「アルゴリズム計算系」をこの人馬の例でもって強引に言いかえてみますと,アルゴリズム計算系では馬の都合はともかく手綱さばきのアルゴリズムが予め決められているので, それにそって馬の自由を阻害しまくることになります. その結果, たぶん馬に振り落とされちゃうか, 馬はいやになって動かなくなっちゃうでしょう. たぶん乗馬の初心者は「アルゴリズム計算系」的で馬の状態なぞを把握する余裕がなく…あたふたと強引に操作しまくって結果として落馬..みたいになってしまうのでしょうかね. そして上達してくると, 馬と一体になってうまくハーネスできるようになってくるのでしょうか..(ちなみに私は馬には乗れません..).

ここまできて, ハーネス, について少し冷静になってかんがえてみますと..,私たちは多くのことをハーネスしつつ自然系を操作していることに気づきます.たとえば教育. 子供から完全に自由を奪い隷属させてしまうと, 親なり教師が与えるアルゴリズムを完璧にこなす子になるでしょう(アルゴリズム的教育).一方で子供が自由に能力を発揮させるようにしつつ, ある方向へと誘う(ハーネス的教育)もあります. いわゆる「ほめてのばす」教育. ただ, ハーネス的教育では”ある方向へ誘う”ことが困難な場合があるので, 両者の折衷もありま すね, いわゆる「アメと鞭」.

なんか概念論になってきてちっとも科学じゃないな..とお思いでしょう. でもね, このハーネス的計算は, 科学の分野でも用いられているのです. ですが..それを実際にやっている方々は”ハーネス”なんて意識していらっしゃらないでしょう.ただ, 「自然計算 with ハーネス」の立場から一方的にみると, ハーネス的になっている事象は結構あるということです.

ハーネス計算の例

諸先生方の他の原稿に比べ, かなり長文になってきておりますので詳細は省きますが例えば, 幼児性中耳炎(好発は2歳)の治療では抗生物質が用いられるのが普通なのですが乳児に抗生物質を多用することは望ましくありません. そこで一計を案じた北欧のある先生が, 炎症の原因菌と戦う常在菌を選抜して(実際に戦わせて選抜)それをスキムミルクで培養して, 患部に噴射してしまうという方法を考案•実現化し抗生物質と同等の効果を得ています. 抗生物質で”爆撃”してしまうと,友軍である常在菌も..爆死してしまうので, 爆撃をせずに援軍を送り武運長久を祈るという方法です.

また癌の免疫療法で最近注目を浴びているのがハーネス法とよばれるものです(たまたま名前だけ一致しているだけですが, 考え方はハーネス計算的). これは, 本来は癌細胞との戦う能力がある免疫細胞を”トレーニングして”ガン細胞を攻撃するように活性を高めて,患部に送り込み武運長久を祈る方法です. これは抗がん剤のような”激烈な爆撃”とは異なります. なにしろ自分の免疫細胞をつかうので副作用がなく,また手術適用ができない部位のガンにも有効で注目されています.

以上は医療での応用例ですが, いずれも中耳炎, ガンを”外野”が完全に制圧するのではなく, 能力を有する計算主体(細菌, 免疫細胞)に”お願い”をして武運長久を祈りつつ送り込んで健常な状態へと誘う, というハーネス的方法です.

さて, ほとんど息つぎもせずに大急ぎで”現世”からななめはるか下をいく(迷途の世界の)自然計算をご紹介いたしました. かなりすっとばしてご紹介をいたしましたが, もう”おなかいっぱい”ですかね…もし万が一に, この詳細をお知りになりたい勇敢な方, いらっしゃいましたらどうぞ拙著「自然計算の基礎」(近代科学社刊)をご参照くださいませ.

自然計算に関連したリンク集

まず, 本寸法の自然計算の定義, をご紹介しましょう. さる先生に教えてもらったのですが, この自然計算の定義はTheorecial Computer Science誌にある定義です.論文誌のWebサイトにある定義なのですが, なかなかいい得て妙なものをかんじます. では, 五月雨式に適宜解説をはさみつつ関連するブックマークをご紹介してまいります.

“南方熊楠記念館”

文献はさまざまにありますが, 解説なり関連書籍を読まれるよりも, 彼が書いたものを直接に読まれることを”強く”おすすめいたします. もし幸いにも興味をもたれたら, ぜひ一度直接に紀州白浜にある南方熊楠記念館へ.

“料理計算”

自然計算である”料理”については, IBMが展開しています(このWebサイトがいつまで維持されるのかわかりませんが…). Watson氏@電脳が考案したレシピもダウンロードできます. お試しあれ..! (ちなみにNew Scientist誌(Jan. 2015)に 試食レポートがでています).

“日本馬術連盟”

とくに手綱さばき(ハーネス)について詳しく解説されているわけではありませんが, 古代から行われているハーネス制御の例であります.

計算美学

計算美学に関連したリンクにつきましては秋庭史典先生(名古屋大学)にいろいろ教えていただきました. 秋庭先生に教えていただいたのですが, 人工知能の観点からは川野洋が計算美学を考察し活動されていたそうです(ただ, その後に続く系譜がなかったとのことです). 川野先生の資料についてはドイツのZKMという美術館のサイトに少しあります(“作品アーカイブ”“解説”). ちなみにZKM(カールスルーエ•アート•アンド•メディア•センター)はドイツのカールスルーエにある公営のメディアアートや現代美術の美術館です.

また, Richard Shusterman(フロリダアトランティック大学)は,身体美学の観点から(Feldenkraisメソッド)計算美学にかなり関係がふかい活動をされています. 何度か日本に招聘されていてご一緒させていただく機会があり, 私どもの触覚のワークショップ(Haptica Bodyworkshop)にもご参加をいただきました. 
Jerome Pelletier先生(CNRS, Jean Nicod研究所)には, 台北で開催された第22回 国際実験美学会議(2012, 台北)で知り合い触譜に大きな関心をもっていただき, さまざまに議論をさせていただいております. Pelletierさんは絵画そのものではなく”描き方のアルゴリズム”に絵画がつくりだす美の本質があるのではないか?との観点から研究をされています.

自然計算+計算美学+触覚によるハーネス

“ハーネス”は云うは簡単なのですが, 実現それも社会実装まで考えるとなかなかハードルが高いです. とくに社会となると, ただでさえ複雑なヒトの集団になりますので…そこで, いろいろと, ややこしいこと..認知とか言語とか…, ととっぱらっていって, 最後に残ったのが”触覚”でした. 
触覚は赤ちゃんとしてこの世に生まれてきたときに備わっているものなので, それに, 触覚工学には長い伝統がありますし,”マッサージ”. ハーネスの立場からすると, マッサージは触覚を介してヒトの状態を変えていくもので, とくに手術をしたり投薬をしたりと”外からアルゴリズムをあたえる”ことはしません.なので, マッサージを自然計算として分析してアルゴリズムを抽出し, 触覚におけるここちよさ(美)をアルゴリズム的に理解(計算美学)できれば, 工学的にハーネスが実現できる…ことになります. 
とはいっても,マッサージをどうやって扱ったらよいかわからず試行錯誤をいろいろいたしまして…その結果の苦肉の策が”触譜”という「触覚刺激の記述法」です. “楽譜”の記法を流用させていただいて, 音の高低に相当するところを”圧力”の高低などとして, まずマッサージを触譜で記述できるようにしました. この触譜をもちいることで”マッサージのアルゴリズム”を抽出することができ, ここちよい・ここちわるいマッサージを工学的に設計することができるようになってきました…とはいってもまだまだ道半ばですが.
触譜に関連した資料としては, Tactile Score(Springer Verlag)では, 主に触譜に至るまでの経緯から, 触譜の紹介をしています. また, ファセテラピーメソッド(春秋社)は(美容)触覚デザイナーの鈴木理絵子による一般向けの美容の本ですが, その中身には触譜やハーネスの解説がひそませてあります.

Matchatria

マッサージの研究がすこし落ち着いたので, 触譜を触覚以外に視覚や聴覚などでもつかえる”感覚言語”としようと, 文学作品の触覚性を抽出(ACM CHI 2014)する試みを少しやったりしておりました. この方向での展開へ強力に後押しされたのが, Matchatriaというパフォーミングアートの企画からのお声がけでした.

Matchatriaは舞踊家の 川口ゆいと, 映画監督の石橋義正の共同プロジェクトで, 石橋さんが制作する3D映像と音楽, NTT(CS研究所)の渡邊淳司と大阪大学の安藤英由樹が制作される心臓のかたちをしたハプティックデバイスを介した触覚刺激の呈示といった, 視•聴•触•覚のマルチモーダルな環境のなかで川口さんが舞踊を行うものでした. この企画に関連して「川口さんが書かれたテキストから, 触覚性を抽出できないか?」とのご依頼をいただき, テキストから触譜に”翻訳”行ってみました. そして, でき上がった触譜を音楽と振動に変換してみました. 川口さんは私たちが翻訳した触譜をさらに舞踊譜へ再翻訳したものをもちいて舞踊をされました. 触譜から舞踊譜への再翻訳といっても, 単に変換(直訳?)してしまうと動きが人工的になってしまうそうで, 舞踊的な”揺れ”の表現のために”音楽化された触譜”をピアニストに演奏してもらい音楽的な解釈も参考にしつつ, 舞踊として成立するように試行錯誤して触譜から舞踊譜へ再翻訳をされたそうです.
実際のパフォーマンスでは, 触譜は石橋さんにより抽象的な図形のアニメーション変換され(視覚), さらに音(聴覚)と振動(触覚, ハプティックデバイスによる呈示)そして舞踊譜(身体運動)へとマルチモーダルに変換され, 作品としてひとつに融合されました(といっても…このパートは作品の”ごく一部”であります). このプロジェクトから触譜を感覚言語の記述法とすることにめどが立ってきました.

そもそもハーネスの工学化と社会実装を目指してはじめたのですが, しだいに”マッサージのための触譜”から, 感覚をハーネスする感覚言語としての”触譜”へと展開しつつあります.
秋庭先生のご紹介で知己を得たフランスの作曲家の Eric Maestriには, 触譜に大きな興味をもっていただき, その両者の比較や楽譜と触譜を融合させた作品の可能性について共同研究をはじめています. Ericさんは, IRCAM(Institut de Recherche et Coordination, フランス国立音響音楽研究所)という現代音楽の世界的な本拠地みたいなところを修了された作曲家で, 電子音楽とアコースティック音楽の融合を指向しているので”触覚”は偶然にも共通したキーワードになりました(彼のVISIONI(ベネチアビエンナーレ招待作品, 2013)はその特色が感じられます).
グラフィックの分野では, すでに独自の視覚感覚言語を用いて優れた作品を多く制作している(Cell誌の表紙のデザインほか受賞多数) Insil Choiに, 私たちの計算美学の概念に賛同していただき, 計算を意識した感覚言語への発展について共同研究を行っています. Insilさんはサイエンティフィック ビジュアライゼーションの創設者のひとりジョン マエダが学長をつとめていた, ロードアイランド•スクール•オブ•デザイン卒で, デザイン, アートのみならずサイエンスにも深い造詣があります(美術だけではなく科学も深く学ぶことの重要性をジョン マエダは強調していたそうです..そのような教育は今後はもっと重要になるでしょうね).
またヘアデザインの分野から, 日本を代表するヘアデザイナーの土屋信也さん(ZaZa)にご協力をいただいています. 土屋さんはヘアデザインについて独自でかなり詳細なアルゴリズムを構築されています.土屋さんのアルゴリズムでは, まず頭蓋骨のかたちを基準として, 頭髪を頭蓋の曲率から直線•平面近似できる部分空間に分割します. そしてまず最終的なデザインのフォルムをイメージし, そこから”このフォルムをつくるには…”と各部分の3次元的な折り重なりをすべて逆算して各々の部分の形状を決定し, ヘアデザイン(美)を具現化していきます. このアルゴリズムはヘアデザインのみならず, さまざまな応用が予見されるアルゴリズムです.
そのほかTetsu Kondoさん, や慶応大学の 田中浩也先生などの方々も,(勝手な思い込みですが)計算美学とおなじ”空気”をかんじる活動をされています.
「自然計算としての見方」からみると, 分野横断的に”自然計算している”方々はいろいろといらっしゃることがみえてくるので, そうした方々と幅広く連携していきながら, アルゴリズムとして抽出していければと思っております.

自然をハーネスする

ハーネスの概念は医療の分野ではすでに用いられています. もちろん,それを実際になさっている 方々はハーネスだなんておもっていなくて, 私たちが後からそれを”ハーネスしてる”って云っている だけですが. 例えば, 先述の幼児性中耳炎での “バクテリアをもってバクテリアを制する”ハーネス法 は2001年に発表されて以来, 多くの関連研究が行われているようです. Googleなどで”bacterial spray, inner ear infection”などのキーワードで検索してみると, 2001年以降の研究の進捗を知ることができるでしょう.

またハーネスの例として免疫細胞を教育してガン細胞と戦わせる”と先述しましたが, こちらも多くの研究が行われています. いろいろな研究結果やそれをアピールするサイトが乱立していて, 結構時間をかけていくつか代表的なサイトがないか探しまわりましたが, この新しいガンの免疫療法(ハーネス法)は日進月歩で進捗しているので, Googleで cancer harness immune system で検索した結果をご覧いただいたほうがいいかと思います(残念ながら, 本記事を執筆している2015年3月現在は,日本語で検索しても全くヒットしてきません..).

私たちも高病原性インフルエンザの主な致死要因である, ウィルス性肺炎(肺炎から急性呼吸急迫症候群, ARDSへ移行して重篤化する場合が多いが, 有効な治療法はチャレンジ)をハーネスする方法をつくろうとしています. 具体的には40,000ぐらいの遺伝子発現の時系列という, いわゆる生物ビックデータ解析, を行っているのですが, 実はこの解析で用いているアルゴリズムは南方熊楠の”やりあて”なのです.”やりあて”は熊楠が新種の植物や菌類を発見するために用いたアルゴリズムですが, 私たちは新矢恭子先生(滋慶医療科学大学院大学)と共同で, それをウィルス学に応用しています(14ページです). この例ように, この毛色が違う自然計算研究では, 分野横断的にフィールドワークして面白そうな”計算”をさがして, そのアルゴリズムとして理解•抽出し, 工学的に応用して問題解決を行う研究を展開してきたいと考えています.

学会・研究会・国際会議

“毛色が違う”自然計算や計算美学に関する研究集会は…なかなかありません. そのため どうしても”お手盛り”の研究集会の紹介になってしまいます…

人工知能学会SIGNAC研究会

人工知能学会の研究会なのですが, 人工知能学会の合同研究会では計算美学のシンポジウムを 行っており, R.Shusterman先生を招聘して講演をしていただきました. また, 触譜をつかって 触覚をつくるいわば”作触家の方々にご参集いただき, 作触家大会の様相も呈しております. またSIGNACでは”SOMA(生命および身体性に関するワークショップ)”と称するブレインストーミングワークショプや,(通称, 膜研)コミュニケーションと膜に関する研究会(@はこだて未来大)というSOMAよりももっと”ギーク度が濃ゆい”集会も行っております.

International Workshop on Natural Computing, IWNC

SIGNAC研究会が主催している, 自然計算の国際ワークショップです(2016年度で10回目になります).IWNCでは自然計算や計算美学に関する研究発表がありますが, なかなか”ギーク”な集会になっていっております.

研究室・研究者・研究プロジェクト

順不同で, 海外と国内で分けているだけです. このリスト作成のアルゴリズムは”ランダム”ですので, どうかご理解とご容赦をいただければと存じます.

Andrew Admatzky(University of West England)

業界(なんの業界だ?)では知るヒトゾ知る怪人. 自然計算一般(粘菌や反応拡散系)からセルラーオートマトンから様々な研究を展開されています(なぜ”怪人”なのかは, 関係者に聞いてみてください).

Vincenzo Manca(University of Verona)

形式言語理論, 計算論がご専門かと思うのですが, 枠にとらわれず生物学者とも積極的に共同研究をしながら, 理論的な立場から自然計算のご研究をされています(多くの優れたお弟子さんが活躍されています).

Giancarlo Mauri(University of Millan, Bicocca)

Mauri先生の本当のご専門はきちんと存じ上げないのですが..計算論, 自然計算一般からバイオインフォマティクスまでとても広範囲の分野でご研究をされています(ダンスでもよく知られていますが…)

Peter Dittrich(Freidrich-Schiller University Jena)

学生の頃に”抽象化学系”なるものの研究をしていた頃の友人なのですが, 現在ではさまざまな数理手法をつかって自然計算の研究を展開されています.

Ferdinand Peper(脳情報通信融合研究センター)

セルラオートマトン(ナノテクとしての実装), ワイヤレスセンサネットワークの研究をされています.

今井克暢研究室(広島大学)

セルラオートマトンほか生物物理一般にも大変に大変にお詳しく…底知れませぬ..古きよき阪大基礎工のかほりを感じます.

梅尾博司研究室(大阪電気通信大学)

セルラオートマトン, 特に一斉射撃問題のご研究で世界的に著名な先生です.

中垣俊之研究室(北海道大学)

いわずと知れた, 粘菌をもちいた研究でとても著名な先生です. 南方熊楠についてはじめて教えてもらったのは中垣さんからでした.

礒川悌次郎研究室(兵庫県立大学)

セルラオートマトンをベースとして研究を展開されています.

櫻沢繁研究室 (公立はこだて未来大学)

(広義の)生物物理, (広義の)医用工学, などなど幅広く自然計算のご研究を展開されています. 膜研の開催にいつもご尽力をいただいております.

小野哲雄研究室 (北海道大学)

Human Agent Interaction, HAIをベースにロボット-ヒト間の相互作用など, 独自かつ着実な展開をされています. SOMAや膜研ではいつも”厳しく”ご指導をいただいております..

郡司ペギオ幸夫研究室 (早稲田大学)

自然計算と計算美学の狭間で悶々としているときに, 背中を押してくれたのが郡司先生でした.. とても私などには一言で申し上げることができないぐらいに広く自然と計算について研究を展開されています.

戸田山和久研究室 (名古屋大学)

科学哲学がご専門で, 2014年に出版なさった「哲学入門」が各界に大きな反響を与えましたが, 計算の哲学に関しても深い論考をなさっていらっしゃいます(いつもしょうもない議論におつきあいいただいて恐縮であります…).

横森貴研究室 (早稲田大学)

横森先生の学位がL Systemsであったことからもおわかりになると思いますが, 自然計算の理論のパイオニアです. 私の怪しげな議論に, いつも暖かくそして広い視点からご示唆をいただいております.

萩谷昌己研究室 (東京大学)

そもそも, 自然計算の研究会立ち上げのお声がけをいただいたのが萩谷先生でした. ですので立ち上げの準備段階からずっとお世話になっております. 萩谷先生は計算機科学のみならず, 新学術領域「分子ロボティクス」の領域代表をつとめられるなど, 分子計算においても世界的に著名な研究者です…自然計算がどんどんとgeekな方向にいってしまいまして..申し訳なく思っております.
文中でリンクを張らせていただいた方々につきましては, 重複になって恐縮ですが, 以下にあらためてまとめさせていただきました.

Richard Shusterman(フロリダ アトランティック大学)
Jerome Pelletier (CNRS, Jean Nicod研究所)
川口ゆい(舞踊家)
石橋義正(映画監督)
安藤英由樹研究室(大阪大学)
Eric Maestri(作曲家)
Insil Choi(グラフィックアーティスト)
土屋信也(ヘアデザイナ)
鈴木理絵子(美容家, 触覚デザイナー)
Tetsu Kondo(メディアアート)
秋庭史典研究室(名古屋大学)
渡邊淳司(NTT)
田中浩也研究室(慶応大学)

研究プロジェクト

新学術領域「分子ロボティクス」
いきものを生化学的につくってしまおう..!というプロジェクトです. 自然計算のかたまりのようなプロジェクトになっております.

新学術領域「合成生物学」
こちらは, いまある生命系を利用して, 目的の働きをする生命系にしてしまおう..という,こちらも自然計算(制御が強め)のかたまりのようなプロジェクトです.

謝辞

こったら怪しげな地下活動に興味をもっていただき, ご報告させていただく機会を与えてくださった, 鈴木麗璽先生(名古屋大学)と本誌編集委員会に 深く御礼を申し上げます. また, この活動は新学術領域「分子ロボティクス」と「動的•多用な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築」, 科研費基盤(B)「科学画像の適切な使用に向けての基礎的•総合的研究」,(C)「触譜を用いた触覚の実験美学的研究」とサポートをいただいております(そのいずれもが分担者であるという..もうこのコバンザメ度がはんぱなく…極限まで平たく伏して感謝いたします). そのほか,自分の名前がない!と立腹されている方, 名前がなくて安心している方…すべては私の不徳のいたすところです. 深いお詫びと, 厚い御礼を申し上げます.