Vol.29.No.6 (2014/11)政策のための科学(Science of Science Policy)


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政策のための科学(Science of Science Policy)

森 純一郎(東京大学大学院工学系研究科)

はじめに

政策のための科学(Science of Science Policy: SoSP)は、客観的根拠(エビデンス)に立脚した政策(特に科学技術政策)形成のために、科学技術イノベーションの仕組みを科学的に研究する学際的領域として近年着目されている。同研究領域では、科学技術イノベーションを促進・評価するためのデータ収集、分析基盤の構築に関する研究も進められている。例として、技術ロードマップを策定する際に、従来のデルファイ法 [1]やT-Plan法 [2], [3]のような当該分野の専門家によるトップダウンの意思決定に対して、大規模な論文や特許データを分析し、当該分野の現状を客観的に俯瞰した上で、専門家の決定を補完するScience Mapping [4], [5]が挙げられる。

全米科学財団(NSF)によるSoSPのポータルサイトでは、SoSPの要素技術 [6]がまとめられており、”Agent-based model”、”Bibliometrics”、 “Citation analysis”、 “Community network”、”Complex network”、 “Data mining”、 “Quantitave analyses (modeling relationships and statistical inference)”、 “Netowrk analysis”、 “Social network”、 “Soical Web”、 “Visualization”、といった技術が挙げられている。これらの要素技術を見てわかるように、SoSPは人工知能の分野において現在盛んに研究がなされている技術と大きく関わっている。

SoSPは、経済学、社会科学や情報工学などの分野を横断した学際的領域であるが、中でも特に人工知能分野の技術が求められる理由として、一つには、科学技術政策に関連している論文や特許などの大規模なテキストデータを分析することで、政策形成のエビデンスを明らかにしたいという目的がある。また、論文や特許の引用ネットワークや共同研究における研究者、機関・組織やプロジェクトのネットワークのように、科学技術政策関する情報はさまざまなネットワークデータを含む、これらを分析することによって、イノベーションを促進するための体制づくりや研究開発の効果的な投資を実現したい、というねらいもある。

以下では、まずSoSPの動向を概観した上で、SoSPのためのツールおよびデータベースを紹介する。次に、SoSPに関連する研究者・研究機関の紹介を行う。最後にSoSPに関連する国際学会や論文誌の紹介を行う。

政策のための科学の研究動向

海外の動向

2005年に当時の米国科学技術政策局長であったJohn Marburger博士は、政策のための科学的・定量的な研究を提唱した。

The Science of Science Policy [7]

これを受けて、米国政府において省庁を横断したタスクグループが発足し、NSFはSoSPに関する研究を助成するためのプログラム(Science of Science Innovation Policy: SciSIP)を発足させた。

Science of Science and Innovation Policy [8]

SoSPについては現在、複数の機関がポータルサイトで情報を発信しており、以下に代表的なサイトをまとめる。

Science of Science Policy [9]

NSFによるSoSPのポータルサイト。

Center of Science, Policy, and Society Programs [10]

アメリカ科学振興協会(AAAS)によるSoSPプログラムのサイト。

Center for the Science of Science and Innovation Policy [11]

American Institute for ResearchによるSoSPのポータルサイト。社会科学者が中心。

SoSPに関連した動向として、政府の研究開発の投資効果、主に社会に対する影響、を測定するためのデータベースおよびツール構築のために設立されたSTAR METRICSプロジェクトがある。2010年に始まった同プロジェクトはNSFに加えて、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が主導している。

STAR METRICS [12]

SoSPやSTAR METRICSにおけるデータ基盤を構築する上で、研究者に一意な識別子を与えるORCID(Open Researcher and Contributor ID)は重要な取り組みである。

ORCID [13]
国内の動向

国内においては、客観的根拠に基づき科学技術政策の企画立案及び推進等を行い、政策形成プロセスをより合理的なものにすることを目的に、文部科学省を中心として「政策のための科学」の推進体制の整備および以下の複数プログラムの推進(サイレックス事業)が行われている。以下にその主な事業内容を挙げる。

「政策のための科学」の研究や人材育成が以下の拠点が形成されている。

GRIPS科学技術イノベーションプログラム 政策研究大学院大学 [14]

科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」基盤的研究・人材育成拠点 整備事業 東京大学 [15]

「政策のため科学」人材育成拠点 学術的基盤を担う人材育成 一橋大学 [16]

公共圏における科学技術・教育研究拠点 大阪大学、京都大学 [17]

科学技術イノベーション教育研究センター 九州大学 [18]

公募型の研究開発プログラムとして独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)において「科学イノベーション政策のための科学」が進められている。

科学イノベーション政策のための科学 [19]

科学技術・学術政策研究所では、政策形成及び調査・分析・研究のためのデータの体系的・継続的蓄積と、情報基盤の構築が進められている。

科学技術・学術政策研究所 [20]

ツール・データベース

ツール

SoSPのツールは、現在のところ論文や特許などの科学技術に関する情報を分析し可視化することに主眼が置かれている。以下に代表的なツールを挙げる。

The Science of Science (Sci2) Tool インディアナ大学 [21]

ネットワーク分析・可視化を含む科学技術データの統合分析ツール。Cyberinfrastructure Shell (CIShell) [22]を基盤に開発され、サードパーティによる拡張を可能にしている。

Network Workbench インディアナ大学 [23]

CISHellを基盤に開発されたネットワーク分析・モデリング・可視化ツール。

Mapping Science インディアナ大学 [24]

Sci2やNetwork Workbenchによる分析結果を含むScience Mapの可視化デモ

CitNetExplorer ライデン大学 [25]

引用ネットワークの分析・可視化ツール。Web of Scienceデータベースからデータをインポートし、インタラクティブな分析が可能。

VOSviewer ライデン大学 [26]

引用ネットワーク、共著ネットワークやキーワードネットワークの分析・可視化ツール。

SciVal ELSEVIER [27]

複数の指標による国、地域、研究機関、研究領域のパフォーマンスの分析・可視化ツール。

Pure ELSEVIER [28]

複数の指標による研究者情報の分析や研究者ネットワークの分析・可視化ツール。

Map of Science SciTech Strategies [29]

ELSEVIER社の開発アドバイザーを務めるKevin BoyackのグループのScience Mapの分析・可視化デモ

VantagePoint Search Technology [30]

特許や論文データベースの検索結果をテキストマイニングにより分析・可視化するツール。

Leydesdorff’s Software アムステルダム大学 [31]

Web of Science、Scopus、Google Scholar等の主要なデータベースから書誌データを取得し分析するためのソフトウェア群。

CiteSpace ドレクセル大学 [32]

引用ネットワークの分析・可視化ツール。PubMed、arXivなど複数のデータベースから書誌データのインポートが可能。

SciMAT グラナダ大学 [33]

引用ネットワークの分析・可視化ツール。h-indexやg-indexなどのパフォーマンス指標の分析や時系列分析も可能。

データベース
Web of Science Thomson Reuters [34]

学術文献・引用索引データベース

Journal Citation Reports Thomson Reuters [35]

学術雑誌データベース

Scopus ELSEVIER [36]

抄録・引用文献データベース

National Center for Science and Engineering Statistics [37]

NSFが提供する科学技術統計データベース一覧

WebCASPAR [38]

米国の学術機関における科学技術統計データベース

SESTAT [39]

米国の科学者・技術者に関する統計データベース

Science and Engineering Indicators [40]

米国の科学技術指標の州統計データベース

Survey of Earned Doctorates [41]

米国の博士号取得者の調査データベース

IRIS [42]

米国の産業研究開発のデータベース

Patent Full-Text Databases [43]

米国特許商標庁の特許データベース

STAR Database [44]

米国政府の研究開発投資と科学技術データベース(開発中)

科学技術イノベーション政策の推進のためのデータ・情報基盤 [45]

科学技術・学術政策研究所による科学技術データベース

研究者・研究機関

Katy Borner インディアナ大学 [46]

Sci2、NetworkWorkbenchの開発者。科学技術データの分析と可視化が専門。

Cyberinfrastructure for Network Science Center インディアナ大学 [47]

BornerがDirectorを務めるインディア大学の研究機関。科学技術データの分析と可視化を研究。

Centre for Science and Technology Studies ライデン大学 [48]

ライデン大学の研究機関。CitNetExploerやVOSviewerを開発。

Kevin Boyack [49]

SciValやPureを開発したELSEVIER社の開発アドバイザーを務める。

Alan Porter ジョージア工科大学 [50]

VantagePointの開発者。技術予測が専門。

Loet Leydesdorff アムステルダム大学 [51]

科学技術のダイナミクスが専門。

Ismael Rafols サセックス大学 [52]

Leydesdorffと共に、Science Mapを研究。

Chaomei Chen ドレクセル大学 [53]

CiteSpaceの開発者。情報可視化が専門。

Manuel Jesus Cobo Martin グラナダ大学 [54]

SciMATの開発者。計量書誌分析が専門。

Julia Lane ストラースブール大学 [55]

STAR METRICSプログラムの創始者。

国際学会・論文誌

国際学会
International Society for Scientometrics and Informetrics (ISSI) [56]

International Conference on Science and Technology Indicators (STI) [57]

論文誌
Journal of the Association for Information Science and Technology (JASIST) [58]

Journal of Informetrics [59]

Scientmetrics [60]

Technological Forecasting and Social Change [61]

おわりに

本稿では、「政策のための科学(Science of Science Policy: SoSP)」について動向を概観した上で、関連するツールおよびデータベース、研究者・研究機関ならびに国際学会や論文誌の紹介を行った。SoSPは、エビデンスに立脚した科学技術政策形成のために科学技術イノベーションの仕組みを研究する、経済学、社会科学や情報工学などの分野を横断した学際的領域であるが、現在のところ情報工学に関わる同領域の研究は、従来の計量書誌学やScientometrics研究の延長上に行われているのが現状である。今後は、大規模異種データの処理・分析やOpen Dataの利用を含め、人工知能分野の技術と融合する事で、同領域の研究がより深化することが期待できるだろう。本稿が、これからSoSPに関わる研究を開始する方々の一助となれば幸いある。

  1. http://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-0-306-47630-3_7
  2. http://www.ifm.eng.cam.ac.uk/resources/techmanworkbooks/t-plan/
  3. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0040162503000726
  4. http://www.sussex.ac.uk/Users/ir28/docs/leydesdorff-rafols-2009-jasist.pdf
  5. http://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-indicators-and-scientometrics/sciencemap
  6. http://www.scienceofsciencepolicy.net/key-concepts
  7. http://www.sup.org/book.cgi?id=18746
  8. http://www.nsf.gov/funding/pgm_summ.jsp?pims_id=501084&org=SBE&sel_org=SBE&from=fund
  9. http://www.scienceofsciencepolicy.net/
  10. http://www.aaas.org/program/center-science-policy-and-society-programs
  11. http://cssip.org/
  12. https://www.starmetrics.nih.gov/
  13. http://orcid.org/
  14. http://gist.grips.ac.jp/
  15. http://stig.pp.u-tokyo.ac.jp/
  16. http://impp.iir.hit-u.ac.jp/
  17. http://stips.jp/
  18. http://www.sti.kyushu-u.ac.jp/
  19. http://www.ristex.jp/stipolicy/index.html
  20. http://www.nistep.go.jp/
  21. https://sci2.cns.iu.edu/user/index.php
  22. http://cishell.org/home.html
  23. http://nwb.cns.iu.edu/
  24. http://scimaps.org/
  25. http://www.citnetexplorer.nl/Home
  26. http://www.vosviewer.com/
  27. http://www.elsevier.com/jp/online-tools/eri/scival
  28. http://www.elsevier.com/jp/online-tools/eri/pure
  29. http://www.mapofscience.com/
  30. https://www.thevantagepoint.com/
  31. http://www.leydesdorff.net/software.htm
  32. http://cluster.cis.drexel.edu/~cchen/citespace/
  33. http://sci2s.ugr.es/scimat/index.html
  34. http://thomsonreuters.com/thomson-reuters-web-of-science/
  35. http://thomsonreuters.com/journal-citation-reports/
  36. http://www.elsevier.com/jp/online-tools/scopus
  37. http://www.nsf.gov/statistics/
  38. https://ncsesdata.nsf.gov/webcaspar/
  39. http://ncsesdata.nsf.gov/sestat/sestat.html
  40. http://www.nsf.gov/statistics/seind14/index.cfm/state-data
  41. https://ncses.norc.org/NSFTabEngine/
  42. http://www.nsf.gov/statistics/iris/
  43. http://patft.uspto.gov/
  44. http://cometsbeta.net/
  45. http://www.nistep.go.jp/research/scisip/data-and-information-infrastructure
  46. http://ella.slis.indiana.edu/~katy/
  47. http://cns.iu.edu/
  48. http://www.cwts.nl/Home
  49. http://www.mapofscience.com/?page_id=102#
  50. http://www2.isye.gatech.edu/people/faculty/Alan_Porter/
  51. http://www.leydesdorff.net/
  52. http://www.sussex.ac.uk/spru/people/lists/person/167630
  53. http://www.pages.drexel.edu/~cc345/
  54. http://sci2s.ugr.es/members/index.php#l0039
  55. http://www.julialane.org/
  56. http://issi-society.org/news.html
  57. http://sti2014.cwts.nl/Home
  58. https://www.asis.org/jasist.html
  59. http://www.journals.elsevier.com/journal-of-informetrics/
  60. http://www.springer.com/computer/database+management+%26+information+retrieval/journal/11192
  61. http://www.journals.elsevier.com/technological-forecasting-and-social-change/