Vol.22 No.4 (2007/7) 人間と人工物のインタラクション


私のブックマーク

人間と人工物のインタラクション

公立はこだて未来大学 小松孝徳 [0]

1. はじめに

近年,私たちの日常生活における様々なタスクを支援するため,ロボットやヒューマンインタフェースなどの人工物が盛んに開発されています.ただし,人工物とのインタラクション構築やその条件を探求するといったインタラクション自体について真正面から向き合うような研究はそれほど数がなく,どちらかといえばインターネットの発展を背景としたウェブやオークションといった実用的なアプリケーションを目指したヒューマンインタフェース(ユーザインタフェース)研究がその多くを占めており,また少し幅広く敷衍するとインタラクション時におけるユーザの行動を研究するというユーザビリティ研究や認知科学的な研究(例.ユニバーサルデザイン研究)などが多く行われているのが,この研究分野の現状だと思われます.また,これらの研究は複数の研究分野にまたがる学際的な研究の体裁をとっており,その中でもヒューマンインタフェース,HCI (Human-Computer Interaction),HRI (Human-Robot Interaction)などといった研究分野が代表的な分野であるといえるでしょう.今回の私のブックマークでは,これらの分野に限らず,人間と人工物とのインタラクションを扱っている研究分野をできるだけ幅広く紹介していきたいと考えています.ただ,私自身の勉強不足から,各研究分野において重要なリファレンスが抜け落ちている可能性も否定できません.その点をあらかじめご了承いただければと思います.
 それでは,このようなインタラクション研究を「人工物側に着目したインタラクション研究のアプローチ」「人間側に着目したアプローチ」という二つの分類におおまかに分けて,それぞれの研究分野に関する情報を紹介していきたいと考えています.

2.人工物側に着目した研究アプローチ

2.1.HCI (Human-Computer Interaction)研究

HCIを学会の名称に使用している団体はないものの,ACM [1]の分科会であるSIGCHI[2]はHCI研究において世界の中心的存在であり,毎年開催されるカンファレンスConference on Human Factors in Computing Systems (CHI) [3]では非常に熱心な議論が行われています.SIGCHIはCHI以外にも,さらにトピックを細分化したIUI [4]DIS [5]UIST [6]CSCW [7]などの会議も開催しています.SIGCHIのポータルページ [2]は,会議スケジュールなどを把握するのにも非常に便利です.また国際的な団体としてはHCI International Conference [8]が二年に一度,International Conference on Human-Computer Interaction (HCII) [9]という会議を開催しています.また世界各地でも,北欧を中心としたNordiCHI [10],イギリスのHCI [11],オーストラリアのOZCHI [12]などのカンファレンスが開催されています.一方日本では,この4月から情報処理学会のヒューマンインタフェース研究会が,「ヒューマンコンピュータインタラクション研究会(SIGHCI)」 [13]と名称を変更しました.この研究会は,情報処理学会グループウェアとネットワークサービス研究会(GN) [14]ユビキタスコンピューティングシステム研究会(UBI) [15]らと共に,インタラクション [16]を共催しています.また,WISS [17]JAWS [18]HAI [19]などといったワークショップにおいてもHCIに関する活発な議論が行われています.関連の論文が投稿されるジャーナルとしては,International Journal of Human-Computer Studies [20], Interacting with Computers [21]Human-Computer Interaction [22]International Journal of Human-Computer Interaction [23]ヒューマンインタフェース学会論文誌 [24]情報処理学会論文誌 [25]人工知能学会論文誌 [26]などが挙げられます.HCIに関する著名な研究機関としては,カーネギーメロン大学のHuman Computer Interaction Institute (HCII)
[27]
,ロンドン大学のInteraction Center (UCLIC) [28]MITのMedia Lab [29],トロント大学のDynamic Graphics Project [30],ジョージア工科大学のGVU Center [31], スタンフォード大学のHCI Group [32]などが挙げられると思います.

また,これらのHCI研究はヒューマンインタフェース研究としてみなされることも多々あり,実際のところそれらの切り分けは非常に難しくなってきていると思われます.そこで,この節の説明と併せて本誌企画の私のブックマーク「ヒューマンインタフェース」[33]を参照いただけると,HCI研究およびヒューマンインタフェース研究についての情報を網羅できると思います.

2.2.HRI (Human-Robot Interaction)研究

HRI研究は,元々は人間工学や機械工学といった工学色の強い研究領域におけるMMI(Man-Machine Interaction)研究に端を発しています.しかし,近年のヒューマノイドロボットやペットロボットの普及により,日本ロボット学会 [34]IEEE Robotics and Automation (IEEE R&A) [35]といった団体においてHRI研究が注目されるようになってきました.これらの研究成果は,IEEE R&A主催のICRA [36],IEEE R&Aおよび日本ロボット学会共催のIROS [37]ROMAN [38]などの,主にロボット系のカンファレンスにおいて見ることができます.さらにHRI研究がHCI研究の一分野とみなされるようになった近年,ACM-SIGCHI,ACM-SIGART [39], IEEE R&Aの共催で,ACM/IEEE International Conference on Human-Robot Interaction (HRI) [40]というカンファレンスが2006年から開催されるようになりました.この分野の研究が投稿されるジャーナルとしては,前述のHCI研究を扱うジャーナルのほか,IEEE Transaction on Robotics and Automation [41]IEEE Transaction on Systems, Man, and Cybernetics [42], International Journal of Robotics and Automation [43]Robotica [44]日本ロボット学会誌 [45]Advanced Robotics [46]などが挙げられます.

2.3.その他の分野

また,ユビキタスコンピューティングや,ウェブインテリジェンスなどの研究分野において人間と人工物とのインタラクションが研究されています.これらの情報については,本誌企画の私のブックマークにて多くの研究分野が紹介されていますので是非ご参照ください.その他にも例えば,エンタテイメントコンピューティング分野などにおいても,ゲーム環境の操作性やユーザの没入を促進するキャラクタ動作などについて多くの研究がなされており,それらの研究はある種のインタラクション研究であると考えることができるでしょう.この研究に関する情報は,情報処理学会エンタテイメントコンピューティング研究会(EC)[47]のウェブページにて参照することができます.これらの成果は,International Conference on Advances in Computer Entertainment Technologies (ACM-ACE) [48],International Conference on Entertainment Computing (ICEC) [49]といったカンファレンスや,エンタテイメントコンピューティング[50]などの国内会議などで発表されています.

3.人間側に注目した研究アプローチ

ここまで紹介してきた研究分野は,いかに『ユーザにとって使いやすい人工物を開発するのか』というスタンスのもとで研究が行われているといえるでしょう.しかし,実際にその人工物を使うのか使わないのかを決定するのは,ユーザである人間です.言い換えると,いくら高性能な人工物であっても,ユーザにとって操作が難しすぎたりストレスがたまるようなものであれば,それらはきっと使われなくなるでしょう.このような状況を踏まえた上で,近年は特に人工物に対する人間の認識や振る舞いに注目したインタラクション研究が盛んに行われるようになってきています.その例として,いくつかの研究分野を紹介していきたいと思います.

3.1.ユーザビリティ研究

ユーザにとって使いやすいインタフェースを開発するために,インタフェースを操作する際の人間の認知的負荷や振る舞いを解析するのがユーザビリティ研究であり,これは前述のヒューマンインタフェース,HCI研究分野においても多く行われています.これらの研究を扱う主な団体としては,すでに紹介したSIGCHIや,The Society for Technical Communication [51]の分科会であるThe Usability and User Experience Community (STC Usability SIG) [52] などが挙げられるでしょう.これらの研究成果はCHIやSTC [53]といったカンファレンス,またはJournal of Usability Studies (JUS) [54],およびSTCのニュースレター[55]などで参照することができます.またこの分野では,ユーザビリティのISO規格 [56]などを制定するなど,産業界と密接な研究が多いというのも特徴です.

3.2.認知科学研究

人間の知能のモデル化を目指している認知科学分野においても,人工物とインタラクションをしている際の人間の行動を認知心理学的なアプローチによって考察するといったインタラクション研究が多くみられます.これらの研究成果は,Cognitive Science Society [57]が主催するAnnual Conference on Cognitive Science Society (CogSci) [58]やジャーナルCognitive Science [59]Cognition [60],環太平洋諸国を中心としたInternational Conference on Cognitive Science (ICCS) [61]日本認知科学会 [62]論文誌 [63]および全国大会 [64]日本認知心理学会 [65]論文誌 [66]および全国大会 [67]などで参照することができます.

3.3.その他の研究

人工物とインタラクション状態にある人間の行動解析といった上記の研究以外にも,その人工物や人工物とのインタラクションを,インタラクションの当事者であるユーザがどのように感じているのだろう,といったことを探求するような,人間の感性や感情などに注目したインタラクション研究がここのところ注目されるようになってきました.例えば,平成11年から5ヵ年のプロジェクトとして行われた日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業の感性的ヒューマンインタフェース[68]で注目された,コンピュータが人間の感性的な精神活動を刺激もしくは支援するような「感性情報学」 [69]「感性情報処理」などが日本での代表的な研究例です.これらの研究分野の動向については,日本感性工学会 [70]のウェブページ上の情報が充実しています.これらの研究は,あくまでも人間の感性的な精神活動を刺激もしくは支援するといったように,ユーザを支援することに重きを置いているやや受動的な研究アプローチを採用しているという特徴があります.

その一方,Rosalind Picard [71]氏は,人間の感情を理解することや人工物が感情を表出することの重要性を主張するaffective computing [72]を提唱し,たとえば,ユーザから測定された生体信号のパターンとそのユーザのインタラクション状態および感情・情動状態との対応についての調査,生体信号測定用のグローブなど簡便なデバイスの開発,人工物のわずかな動作(subtle expressions)がユーザに与える影響の調査など,上述の日本の感性情報学よりも,人工物が積極的にユーザの感情や情動に対してコミットしようというアプローチを取っているのが特徴です.現状,Affective Computing研究において最も盛んに行われている研究は,脳波や心拍などの生体信号,ユーザの顔の表情,ユーザの音声のパラ言語情報からのユーザの感情状態の推定といった研究があげられますが,ユーザに対してある特定の感情を誘発するといったような研究もここ最近は注目を集めるようになってきています.

2005年からはこのaffective computingという名を冠したInternational Conference on Affective Computing and Intelligent Interaction (ACII) [73]というカンファレンスが始まりました.このカンファレンスを共催しているHUMANIE [74](EUの研究プロジェクト)というプロジェクトグループは,このACIIの他にも,International Conference on Intelligent Virtual Agents (IAV) [75]というカンファレンスを開催し,特にヨーロッパにおける感情に関する研究情報が充実したポータルサイトを運営しています.

これらの研究分野における著名な研究機関として,Picard氏の所属するMIT Media LabのAffective Computing Group [76],ポルトガルINESC-IDのIntelligent Agents and Synthetic Characters Group [77],トゥエンテ大学のHuman Media Interaction Group [78],ジュネーブ大学のGERG [79]などがあげられます.また,私が参加した今年度のSIGCHI2007においてもemotionに関する研究者のSIGセッションが開催され[80],感情に関する研究を扱うワークショップなどをこれから積極的に行うことを確認するなど,日本,ヨーロッパのみならずアメリカを含んだ世界各地にて,ユーザの感情や情動をいかにして人工物とのインタラクションに活用するのか,といった研究が盛んになり始めているといえるでしょう.これらの研究成果は,従来のHCI研究を扱う国際会議やジャーナルにて扱われることが一般的です.

4.おわりに

今回の企画では,私が把握している研究分野を中心に,人間と人工物とのインタラクションに関する研究を紹介し,特に後半部分では,私の現在注目している研究分野について多くのスペースを割かせていただきました.ここで紹介した研究は,人工物を賢くするといういわゆる人工知能研究,あっとおどろくインタラクティブテクニックを提案するインタラクションデザイン研究とは異なり,一見すると比較的地味に見えてしまいがちです.しかし,最終的に与えられたシステムを評価するのは感情や情動をもった人間のユーザであるという紛れもない事実を踏まえると,このような人間側の立場に立った研究分野の成果が社会に与えるインパクトが徐々に高まっていくのではと,私自身は期待しています.

[0] http://www.fun.ac.jp/~komatsu
[1] http://www.acm.org/
[2] http://sigchi.org/
[3] http://www.chi2007.org/ (2007年)
[4] http://www.iuiconf.org/
[5] http://www.sigchi.org/dis2008/ (2008年)
[6] http://www.acm.org/uist/
[7] http://www.acm.org/cscw2006/ (2006年)
[8] http://www.hci-international.org/
[9] http://www.hci-international.org/index.php?module=conference&current=1&MMN_position=6:6
[10] http://www.nordichi.org/
[11] http://www.bcs-hci.org.uk/
[12] http://www.chisig.org/
[13] http://www.sighci.jp/
[14] http://www.ipsj.or.jp/sig/gw/
[15] http://www.mkg.sfc.keio.ac.jp/UBI/
[16] http://www.interaction-ipsj.org/
[17] http://www.wiss.org/
[18] http://www-toralab.ics.nitech.ac.jp/jaws2006/(2006年)
[19] http://ymd.ex.nii.ac.jp/hai06/ (2006年)
[20] http://www.elsevier.com/locate/ijhcs
[21] http://www.elsevier.com/locate/issn/09535438
[22] http://www.erlbaum.com/ME2/dirmod.asp?sid=28807ECF50FE49F0837125BE640E681F&nm=&type=eCommerce&mod=CommerceJournals&mid=B7D79E2F39304DB3A6A67FAE5C6F9AF7&tier=3&id=98C62186E341481986729619D5497E8D&itemid=0737-0024
[23]http://www.erlbaum.com/ME2/dirmod.asp?sid=28807ECF50FE49F0837125BE640E681F&nm=&type=eCommerce&mod=CommerceJournals&mid=B7D79E2F39304DB3A6A67FAE5C6F9AF7&tier=3&id=0EE2054EFB984D08B8AE26ED8A2A28FC&itemid=1044-7318
[24]http://www.his.gr.jp/activities/paper/index.html
[25]http://www.ipsj.or.jp/08editt/ronbun_toukou.html
[26]http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/journal/
[27]http://www.hcii.cmu.edu/
[28]http://www.uclic.ucl.ac.uk/
[29]http://www.media.mit.edu/
[30]http://www.dgp.toronto.edu/
[31]http://www.gvu.gatech.edu/gvu/
[32]http://hci.stanford.edu/
[33]http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/journal/mybookmark/14-4.html
[34]http://www.rsj.or.jp/
[35]http://www.ieee-ras.org/
[36]http://www.icra07.org/ (2007年)
[37]http://www.iros2006.org/ (2006年)
[38]http://www.ro-man2007.org/ (2007年)
[39]http://sigart.acm.org/
[40]http://hri2008.org/ (2008年)
[41]http://ieeexplore.ieee.org/xpl/RecentIssue.jsp?puNumber=70
[42]http://www.ieeesmc.org/publications/index.html
[43]http://www.actapress.com/Content_Of_Journal.aspx?JournalID=62
[44]http://journals.cambridge.org/action/displayJournal?jid=ROB
[45]http://www.rsj.or.jp/JRSJ/index.html
[46]http://www.rsj.or.jp/AR/index.html
[47]http://www.entcomp.org/sig/
[48]http://www.ace2007.org/ (2007年)
[49]http://digitalmedia.sjtu.edu.cn/ICEC2007/(2007年)
[50]http://www.entcomp.org/ec2006/(2006年)
[51]http://www.stc.org/
[52]http://www.stcsig.org/usability/
[53]http://www.stc.org/54thConf/index.asp
[54]http://www.upassoc.org/upa_publications/jus/
[55]http://www.stcsig.org/usability/newsletter/newsletter-archives.html
[56]http://www.userfocus.co.uk/articles/ISO9241.html
[57]http://www.cognitivesciencesociety.org/
[58]http://www.cognitivesciencesociety.org/cogsci.html
[59]http://www.cognitivesciencesociety.org/about.html
[60]http://www.elsevier.com/locate/cognit
[61]http://www.cogsci.rpi.edu/~rsun/cogsci2006/(2006年: CogSciと共催)
[62]http://www.jcss.gr.jp/
[63]http://www.jcss.gr.jp/kikanshi.html
[64]http://www.jcss.gr.jp/meetings/JCSS2007/(2007年)
[65]http://cogpsy.jp/
[66]http://cogpsy.jp/gakkaisi.html
[67]http://cogpsy.jp/taikai07/index.html(2007年)
[68]http://www.miv.t.u-tokyo.ac.jp/kansei-if-mirai/
[69]http://www.kousakusha.co.jp/BOOK/ISBN4-87502-378-2.html
[70]http://wwwsoc.nii.ac.jp/jske/
[71]http://web.media.mit.edu/~picard/
[72]http://web.media.mit.edu/~picard/publications.php
[73]http://gaips.inesc-id.pt/acii2007/index.html(2007年)
[74]http://emotion-research.net/
[75]http://iva07.ntua.gr/
[76]http://affect.media.mit.edu/index.php
[77]http://gaips.inesc-id.pt/gaips/index.php
[78]http://hmi.ewi.utwente.nl/
[79]http://www.unige.ch/fapse/emotion/
[80]http://www.emotion-in-hci.net/chi2007sig/index.html