Vol.14 No.5 (1999/09) 知的エージェント(WWWを中心に)


私のブックマーク

知的エージェント(WWWを中心に)

山田誠二
東京工業大学 大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻
http://www.ymd.dis.titech.ac.jp

1. はじめに

一つの計算機を飛び越えて,外界で自分の判断で行動する「エージェント(agent)」と呼ばれるプログラムとして人工知能を捉え直すことにより,さまざまな建設的研究・応用が生まれている.しかし,エージェントという言葉は,モバイルエージェントからロボットまで非常に多義であり,その全体像を把握し,最新の情報を獲得することは容易ではない.そこで,この「私のブックマーク」という連載の場をお借りして,最新の情報を提供してくれる極めて動的な情報源であるWWWにおけるエージェント関連のWebページを広く取り上げることにする.まず,最も重要だと思われる「私のブックマーク」のWebページのURL[1]を示しておこう.また,本稿では,エージェントが単体か,複数かにはこだわらずに紹介していく.よって,一部マルチエージェントシステムも含まれている.

2. 情報収集エージェント

これまでの時間的にも空間的にも静的な情報源とは対照的に,インターネット,特にWWW(The World Wide Web)にある情報は高度に分散化されており,また極めて動的に情報の更新が行われている.(例えば,Internet Software Consortium[2]などを見れば,WWWの広がりに関する情報が得られる.現在,全世界で数億程のWebページが存在すると言われている.)このような大規模な情報源から,必要な情報を探し出すことは,忍耐力を含む人間の能力を越えており,できれば計算機プログラムに適当な指令(具体的には,質問のキーワードなど)を与えるだけで,あとは自動的に有益なWebページを見つけて欲しいと思うのが自然である.このような背景から,主にWWWにおいて情報を収集する情報収集エージェントが研究されている.

SoftBot[3]は,ユーザの情報収集の要求に対し,実行可能なプランを立てる.例えば,「AさんのEメイルアドレスを探せ」というようなユーザから与えられる抽象的な命令を,システムが,データベースの問い合わせ文,UNIXコマンドの系列などのプランに変換して実行し,その結果を返してくれる.情報収集エージェントの典型例である.開発者でもあるS. Hanks[4](ワシントン大学),D. S. Weld[5](ワシントン大学)らのWebページから,確率的プラニング[6](probabilistic planning)などのエージェントのプラニングに関する一連の研究がたどれる.

機械学習で有名なT. M. Mitchell[7]らが展開しているWebからの情報抽出プロジェクトが,CMU World Wide Knowledge Base (WebKB) project[8]である.やはり,WWWをテキストファイルで構成された膨大な情報源であると見なし,そこからいかにして有益な情報を抽出するかというテーマに取り組んでいる.当然,そこでは,機械学習が重要な役割を占めるわけだが,WebKBのサブグループとして,CMU Text Learning Group[9]であり,後述するWebWatcher[10]などの成果が上がっている.

検索エンジンは,Webページのデータベースを持つが,そのデータベースを構成する方法として,大きく分けて,人手で登録するタイプ(Yahoo![11],NTT DIRECTORY[12]など)とWebロボット[13](または,Crawler)と呼ばれるプログラムが自動的に収集するタイプ(Alta Vista[14],goo[15]など)がある.多くの個人が多数のWebロボットを走らせることにより,ネットワークへの負荷が大きくなることがあるため,Webロボットの詳細なアルゴリズムは,公開されない傾向にある.このように,検索エンジンそのものはエージェントとは呼べないが,そのデータベースを構築するために使われるWebロボットは,情報収集エージェントと考えられる.

InfoSpider[16]は,人工生命の技術を用いたマルチエージェントによる情報検索システムである.各エージェントは,目的のWebページにヒットすれば,エネルギーを獲得し,さらには子を増やしていき,ヒットしないものは時間経過とともに死滅してしまうという枠組みである.また,Fish Search[17]も類似した手法を使っている.

3. 学習エージェント

Web上での学習エージェントとして,ブラウジングにおいてユーザが次に見るであろうページを予測するエージェントが研究されている.WebWatcher[10]とLetizia[18]がそのようなエージェントであり,単一のWebページではなく,Webページ間のリンクに注目して予測の学習を行う.WebWatcherでは,ユーザの探しているある情報を探しているときに,ユーザが現在見ているページから張られているあるリンク先のページに移る確率を学習していく.

また,ShopBot[19]は,WWWの複数のオンラインショップで,商品の値段を比較して最も安い商品を見つける買い物エージェントである.与えられたオンラインシップのサイトからどのようにして,お目当ての商品の価格を抽出するかを学習する.自然言語処理を用いず,商品部門の知識のみで帰納学習を行う.その他にも,Webサーバのログのアクセスパターンを分析して,レイアウトやプレゼンテーションを自動的に変更するWebサイトであるAdaptive Web Sites[20]などの興味深い研究が,ShopBot,あるいは,前述のSoftBotの開発者であるO. Etzioni[21]のWebページからたどることができる.

4. 擬人化エージェント,インタフェースエージェント

CGによる人間に似たキャラクタ[22]を表示して,ユーザとマルチモーダルでコミュニケートするエージェントが,「擬人化エージェント」と呼ばれる.この擬人化エージェントの研究は,日本に優れたものが多い.

長谷川さん[23](電総研[24])は,コンピュータビジョン,音声認識,音声合成を行って,表情豊かに人間と対話するマルチモーダル対話システム[26]を開発している.さらに,そのエージェントは,Mr. Bengo[25]という法的推論を行い,マルチエージェントで論争をするソフトウエアエージェントに応用されている.

長尾さん[27](ソニーCSL)らは,擬人化エージェントTalkman[28]や,2人の人間の会話を理解して何らかの誤解があることを検出し,適切なタイミングで人間にしらせる社会的エージェント[29]を開発している.

また,石塚研究室[30]では,実時間画像認識,コンピュータグラフィックス,音声認識/合成,知識ベース,インターネット等の技術の融合に基づき,顔,目,耳,口そして知能をもつ擬人化エージェントVisual Softare Agent (VSA)[31]の開発されている.

インタフェースエージェント[32],あるいはソフトウエアエージェントの創始者の一人である,MITMediaラボ[33]のP. Maes[34]のWebページでは,彼女の美しいお顔だけではなく,先のLetizia[18]を含む多くのソフトウエアエージェントの研究に触れることができる.特に,Software Agents Group[35]を参照することにより,ソフトウエアエージェントの最新動向を知ることができる.

最後に,ソフトウエアエージェントをすぐにでもご自分のマシンで走らせてみたい方は,MSAgent[36]をダウンロードされるとよい.鳥の御用聞エージェントがパタパタ羽ばたいて音声認識/生成を行いながら,ピザの注文をとってくれるだろう.

5. その他のエージェント

紙面の制限で,Aglets[37]などに代表されるモバイルエージェント,自律ロボットなどの研究については,言及できなかった.モバイルエージェントに関しては,本学会誌の小特集「モバイルコンピューティングとエージェント」[38](Vol.14 No.4, 1999),自律ロボットに関しては,後述する国際会議のプロシーディングスを参考にして欲しい.

また,本学会誌の特集「エージェントの基礎と応用」(Vol.10 No5, 1995)では,エージェントの基礎技術について広く解説がされている.

6. 国際会議,ジャーナル,学会

エージェント研究の盛り上がりとともに,関連する数多くの国際会議が開催されている.とても全てを網羅することは,できないが以下に先行研究をサーベイする意味でも重要な国際会議,ジャーナル,学会を紹介する.

まず,ソフトウエアエージェントから自律ロボットまでを横断的に網羅しているInternational Conference on Autonomous Agent (AA)[39]が参考になる.また,マルチエージェントシステムに関する国際会議では,世界レベルで質の高い発表が多いThe Fourth International Conference on MultiAgent Systems (ICMAS)[40],そして,環太平洋の中心の国際会議であるPacific Rim International Workshop on Multi-Agents (PRIMA)[41],応用指向の強いInternational Conference and Exhibition on The Practical Application of Intelligent Agents and Multi-Agents (PAAM)[42]などがある.また,国内のマルチエージェントの研究動向を知るには,「マルチ・エージェントと協調計算ワークショップ (MACC)」[43]が参考になる.これらのマルチエージェントの会議では,主に,分散人工知能,ソフトウエアエージェントを対象としている.

続いて,エージェントが人間とのインタラクションを持つという HCI (Human Computer Interaction) の観点から,HICの代表的国際会議であるthe ACM Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI)[44],さらに知的ユーザインタフェースの国際会議International Conference on Intelligent User Interfaces (IUI)[45]などにも,エージェントの発表が含まれている.

自律ロボットでは,人工生命よりの自律ロボットの発表が多いThe International Conference on Simulation of Adaptive Behavior (SAB)[46],ロボット関連の国際会議の中では,エージェント的な視点をもつ研究の発表があるIEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS)[47],そして人工生命の会議ではあるが,ロボット指向の強いEuropean Conference on Artificial Life (ECAL)[48]が参考になるだろう.

また,WWW関連の代表的な国際会議であるInternational World Wide Web Conference (WWW)[49]も当然ながら,エージェント研究と関連が深いし,今後もっとエージェント関連の発表が増えていくことが期待される.

ジャーナルとしては,(マルチ)エージェント関連の専門論文誌として創刊されたAUTONOMOUS
AGENTS AND MULTI-AGENT SYSTEMS
[50],人工知能全般を扱うJournal of Artificial Intelligence Research (JAIR)[51],生物的適応システムに関するAdaptive
Behavior
[52]などが参考になる.

学会としては,SAB[46],Adaptive Behavior[52]の母体であるThe International Society for Adaptive Behavior, Inc. (ISAB)[53]がある.

最後に,エージェント関連の充実しているリンク集として,UMBC-AgentWeb[54]を挙げておく.

参考文献

  1. http://www.isc.org/dsview.cgi?domainsurvey/index.html
  2. http://www.cs.washington.edu/research/projects/softbots/www/softbots.html
  3. http://www.cs.washington.edu/people/faculty/hanks.html
  4. http://www.cs.washington.edu/homes/weld/
  5. http://www.cs.washington.edu/homes/hanks/Projects/prob-planning.html
  6. http://www.cs.cmu.edu/%20tom/
  7. http://www.cs.cmu.edu/%20webkb/
  8. http://www.cs.cmu.edu/%20TextLearning/
  9. http://www.cs.cmu.edu/%20webwatcher/
  10. http://www.yahoo.com/
  11. http://navi.ntt.co.jp/
  12. http://info.webcrawler.com/mak/projects/robots/robots.html
  13. http://www.altavista.digital.com/
  14. http://www.goo.ne.jp/
  15. http://dollar.biz.uiowa.edu/%20fil/IS/
  16. http://www.ncsa.uiuc.edu/SDG/IT94/Proceedings/Searching/debra/article.html
  17. http://lieber.www.media.mit.edu/people/lieber/Lieberary/Letizia/Letizia.html
  18. ftp://ftp.cs.washington.edu/pub/etzioni/softbots/agents97.ps
  19. http://www.cs.washington.edu/research/adaptive/
  20. http://www.cs.washington.edu/homes/etzioni/
  21. http://www.etl.go.jp/etl/gazo/CGtool/marks/agents.gif
  22. http://www.etl.go.jp/etl/gazo/people/hasegawa/hasegawa.html
  23. http://www.etl.go.jp/
  24. http://www.etl.go.jp/etl/suiron/MrBengo/
  25. http://www.etl.go.jp/etl/gazo/mm-press/mmpress.html
  26. http://www.csl.sony.co.jp/person/nagao.j.html
  27. http://www.csl.sony.co.jp/person/nagao/SCSL-TR-94-007.html
  28. http://www.csl.sony.co.jp/person/nagao/SCSL-TR-94-005.html
  29. http://www.miv.t.u-tokyo.ac.jp/
  30. http://www.miv.t.u-tokyo.ac.jp/vsa.html
  31. http://pattie.www.media.mit.edu/people/pattie/CACM-94/CACM-94.p1.html
  32. http://www.media.mit.edu/
  33. http://lcs.www.media.mit.edu/people/pattie/
  34. http://agents.www.media.mit.edu/groups/agents/
  35. http://msdn.microsoft.com/msagent/default.asp
  36. http://www.trl.ibm.co.jp/projects/s7230/aglets/index.htm
  37. https://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/journal/contents/14-4.html
  38. http://www.cs.washington.edu/research/agents99/
  39. http://www.lania.mx/icmas/
  40. http://www.lab7.kuis.kyoto-u.ac.jp/prima/
  41. http://www.practical-applications.co.uk/PAAM99/
  42. http://cape.etl.go.jp/macc/
  43. http://www.acm.org/sigs/sigchi/chi2000/
  44. http://www.iuiconf.org/
  45. http://www.adaptive-behavior.org/conf/
  46. http://iros99.kaist.ac.kr/index.html
  47. http://diwww.epfl.ch/lami/ecal99/
  48. http://www9.org/
  49. http://www.wkap.nl/journalhome.htm/1387-2532
  50. http://www.cs.washington.edu/research/jair/home.html
  51. http://www.adaptive-behavior.org/journal/
  52. http://www.adaptive-behavior.org/
  53. http://www.cs.umbc.edu/agents/